『やましんのおさんぽ』

やましん(テンパー)

『宇宙人』

  『これは、おとぎ話です。』




 人間に限らず、にゃんも、わんも、おさんぽをするようです。


 おさんぽするのに、特に理由が必要でしょうか。


 いいえ、ないです。


 しかし、おさんぽというものは、ときに、事件に巻き込まれる場合がありますから、あまり、暗くなってからはおすすめできないとはいえ、夏の昼間は、やはり、自殺行為です。

 


 ある、どうしようもない、暑い夏の晩、ぼくは、おさんぽにでました。


 もともと、小さな丘だった場所があります。


 そこは、かなたに、富士山が見える場所です。


 だから、富士山の火山灰がつもって、できていました。


 江戸時代の爆発などは、おそらく、大変な光景が見られたに違いありません。



 こどもの頃は、その斜面で、すべって遊んだものです。


 でも、いまは、丘は削り取られ、たくさんの高層アパートが建っていました。


 一時は、多くの人が住んでいましたが、かなりの人は、それなりの生活が可能になり、自宅を建てて出て行きました。


 だから、このアパートも、役目を終えようとしていたのです。


 ぼくと、同じです。


 アパートの反対側には、小さな森が残っていました。


 亡き母と、よくおさんぽに来たものです。


 ありさんが、沢山いました。


 甘い、お菓子の袋を持ってきて、ありさんのそばに欠片をまきました。


 すると、ありさんたちは、すぐにそいつを、えっちらおっちら、巣のなかに、搬入するのでした。



 こんな、小さな森でも、なかなか神秘的な雰囲気はするものです。


 見上げると、木々の間から、やたらに明るいお星さまが、ひとつだけ見えていました。


 しかし、なにか、おかしい。


 なんと、だんだん大きくなるのです。


 『あらまあ…………』


 と思っていると、普通自動車くらいの宇宙船が降りてきました。


 中からは、パンダさんみたいな、たぶん、宇宙人が出てきました。


 『いやあ、ガス欠です。』


 その、パンダさんが言いました。


 『いやね、大丈夫だと思ったんですが、次のガソリンスタンドは、金星にあるんです。むかしは、地球にもあったけれど、人類が進歩したので、邪魔しちゃダメよ、ということで、廃止されて。あなた、なんか、飲み物持ってませんか? 水でもいい。ちょっとでよいのです。』


 『ああ、炭酸水なら、今、コンビニで買ってきたのがありますが。』


 『それがいい。助けてくださいよ。お礼しますから。』


 『まあ、どうぞ。』


 『いやあ、感謝します。』


 宇宙人さんは、給油口みたいな穴から、炭酸水を入れました。


 『これで、金星まで行けます。海水は、処理がめんどくさくて。ありがとう。これ、お礼です。』


 宇宙人らしきパンダさんは、ソフトボールくらいの玉をくれました。


 『なんでしか? これは。』


 『超小型ブラックホール発生装置です。小さいが、地球くらいなら、すぐに飲み込みます。ここのぽっちを、30秒間押さえると、発動します。まあ、使う人はいません。お守りです。気分の問題だからね。じゃ。』


 例によって、宇宙船は、あっというまに、お空に消えました。


 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ぼくは、その玉を、銀行の貸金庫に保管しました。


 ぼくが死んで、奥さまが、それを相続しました。


 ぼくは、取り扱い説明書を付けましたが、それには、こう書きました。


 『ぽっちを、30秒間押すと、世界はひとつになる。たぶん。』


 『ばかばかしい。』


 奥さんは、別の何かといっしょに、また、貸金庫に戻しました。


 『宇宙人からもらった、超小型万能ロボットだけど、使い道がわからない。まあ、保管しておきましょう。』

 


 その、万能ロボットは、爆弾とか、そういう装置を近くに確認すると、どんなものでも、作動させてしまう機能がありました。





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『やましんのおさんぽ』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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