第23話

意識があまりはっきりしていない俺は、布団の中でケータイをいじっていた。

朝なんだか体がだるいなと思い、体温計で測ってみると38度もあった。

テストが近いといえ、この熱では流石に学校は休まざるをえない。

ただ、ずっと寝てるってのも退屈で、いろいろ考えていた。

そのいろいろには、もちろん琴音のことも含まれる。

ただ、考えても行動になるようなことは思いつかず、今後2人はどうしていくべきなのかはわからないままだ。

そんな時、田中からRINEがあった。

『今から見舞いにいくから』

と、書いてあった。

『おう、ありがとう』

そう返すと、

『がんばれよ』と返ってきた。

は?

がんばるって何を?

田中快斗からの返事の意味がわからず困惑していると、ピンポーンという音が聞こえた。

はやいな…と思ったが、とりあえず出ようとインターホンの画面を見ると…………

そこには琴音の姿があった。

「え!」

俺はつい声を出して驚いてしまった。

今から見舞いに行くからって、琴音がってことかよ!

とりあえず

「今行くから待ってて」

と、返事してみたが、動揺しているので、果たしてちゃんと声が出せていたかどうかも確かではない。


俺は部屋着から速攻で着替えて、玄関に出た。


ドアを開けると、琴音は立っていた。


2人で数秒……いや、数十秒だったかもしれない……

お互い、見つめていた。


そして、琴音はいきなり俺に抱きついてきた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


授業が終わるとすぐに教室からでた。

彼の家までとにかく早く行きたかった。

必死だった。


家に向かってる時、ずっと何か思い出しそうだった………

熱………前にも熱のことで何かあった気がする………なんだろう……

何か、すっごく大事なこと……

2人にとっても、私にとっても………


そして、田中くんに教えてもらった家に着いた。

間違いない、彼の表札が出ている。


…………


なんて言われるかな………

嫌がられるかな………

でも、言わなきゃ……

いつか、今日のことを忘れるかもしれないけど……

それでも言わなきゃ!


そして、インターホンを押した。

来ることは言ってないけど大丈夫かな……

その心配は無用だった。

「今行くから待ってて」

よかった、怒ってる声じゃなかった。どちらかというと、慌ててたかな………


当たり前だよね、いきなりきちゃったんだもん。迷惑だったかな……


数十秒待つと、玄関の扉が開いた。

私は何から話していいか少し戸惑ってしまい、彼と5秒程度目が合った。


その時、

さっきまで思い出しかけていた事を、完全に思い出した!


「そうだ……私……」

そのまま、私は本能的に彼に抱きついていた。

ただ、彼の温かみを感じたかった。


「こ、琴音………」

困ったような…慌てたような声だった………

私は彼が私に向けてくれるその声を………ずっと聞きたかった。


「ねぇ、思い出したよ………

あの日、私が熱出しちゃって、君が家まで送ってくれた時………

あの日、私すっごくドキドキしたんだ………


それから君のことがすっごく気になって………

気づいたら好きになってた…


それで本当は私が先に告白したんだよね。

私こんな大切なこと、忘れちゃってて………


でも、君から告白してくれたときは、すっごく嬉しかったの!」


そして、琴音は少し離れた。


「……………………」


「………………………」


「俺………さ、耐えられる自信ないんだ………


琴音が俺との思い出をどんどん忘れていくことが………


つらいんだよ………


一緒にいるとすげぇ楽しかったから、俺との事覚えてて欲しいから、


琴音のことが死ぬほど好きだから!


………………。」

琴音は嬉しさと同時に、申し訳ないと思った。


「ごめんね……………


私だって、忘れたくないよ。

でもね……どうにもできないの………


……………………


私だって…………


私だって嫌だよ…………」


琴音の目には涙が溢れていた……

「………私が1番嫌なの!


私も、君のことが好きだから!

君なんかより、もっともっと好きだよ!!!」


「………琴音…………………」

俺も、視界が滲んできた。


彼女は俺の胸にもたれてかかって、泣いた……


「私…………………


………絶対忘れないよ………………


他のどんなことを忘れても、

君を好きだって気持ちは絶対に忘れない!


ずっとずっと君だけを好きでい続けるから!」


彼女の目は希望の目だった…

絶対諦めない……彼女なら、本当に成し遂げてしまいそうだ………


2人は互いの体を強く抱きしめた。

もう、2度と離したくないと……


「琴音、俺もずっとお前だけを好きでい続ける。


一緒に戦うよ………

君から記憶がなくなっても、俺は思い出を作り続ける!」


「ありがとう……


……………………愛してるよ……」


そう言った彼女の笑顔をみた瞬間、

俺は報われたと思った……















それが、琴音から俺への最後の一言だった。



“琴音の好きな“………俺への…………

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