第10話

暗い夜道を照らす明かりは心細い。

それでも、隣に誰かがいてくれるだけで、少し安心できる。

それが……

好きな人ならなおさら……


花火からの帰り道、俺たちはいつものように話しながら帰っていた。

そこで俺はさりげなく、

「なぁ、手紙っ………………

あ、いや、本のこと本当に覚えてないの?」

「それ前も言ってたね。本のことで、なんかあったっけ?」

「あ、いや、そんな大した話じゃないから………………

いいよ」

いいわけないよ。

あの手紙の事忘れて良いわけないじゃん。

でも、そうか…………

彼女は忘れてしまったんだ。

あの本のことも、手紙のことも。

それでもまぁ、俺のことは覚えていてくれたし、それ以外何もいらないよな、うん。


そして、彼女の家に着いた。

「送ってくれてありがとね。

私が駅まで送ったほうがよかったんじゃない?」

「さすがにこの夜道に一人で女子は帰せないよ。」

「やさしいんだ。じゃあ、おやすみ」

そのおやすみが、なんだかすごく突き刺さった。

このまま帰したら、もう会えないんじゃないか……

さすがに考えすぎなのはわかっているが、このまま彼女を帰したくなかった。

な、何か話題を……

そうだ!

「あ、待って。」

「ん?何?」

「あの………さ………

RINE交換しない?」

「あ〜いいよ、しよしよ」

これで、連絡が取れる!今日みたいなことも減らせるはずだ。

「じゃあ今度こそ、おやすみ」

「うん、おやすみ」

彼女が玄関のドアを閉め終わったのを見届けて、暗い夜道を一人で歩く。

一つ目の曲がり角を曲がり、少し歩いて………


めっちゃ飛び跳ねた!!!

やべぇやべぇよ、彼女できたよ!彼女できたお!彼女できたをぉぉ!


そして、帰り道を不審者の如く帰った俺は、始業式の平松が言っていたように舞っていた。


家に帰って三浦琴音のRINEを確認してみた。

そして、誕生日を確認する。アイコンを確認する。よろしく(スタンプ)と送る。そして、20回くらいアイコンを眺めてから…………


ふと思った。


彼女は記憶障害なんだ。


日常的に会う人や物事のやり方などは覚えているけど、数ヶ月前にやったことや、会った人は覚えていない。

これはあくまで俺の推測だが……

彼女は一年以上前のクラスメイトだった人達と話すとき、初めて会った人だと認識して話す。

それが周りを近寄せなくなった原因ではないだろうか。

彼女の性格を見ていると、そんなことでもない限り人から避けられることは無いと思う。

きっとそうだ。


琴音……………つらかったな………


その夜は少し肌寒かった。

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