第9話

8月17日

夏休みに入ってからある程度経った。俺は部活もないので、そこそこ勉強をして、そこそこにだらけていた。

夏休みに入ってから、三浦琴音とは一度も会ってない。

まぁ遊ぶ仲ではないから仕方ないことなんだが。

だが、今日は待ちに待った花火大会

だ。花火は8時まで上がるらしい。

下から見るか横から見るかで悩みたいところだが、下からみるところなんて遠くていけないので、必然的に横からになる。

集まるのは一応6時の現地集合だ。

少し早めに行っておこうと思う。


5時45分

約束の15分前に河川敷へついた。待ち合わせは待つ時間がいいなんて聞くけど、少しわかる気がする。


そして、運命の6時をまわった。

だが、三浦琴音はまだ見えていない。まぁもう少ししたら来るだろう。


それから15分経ったがまだこない。

意外と時間にルーズなんだなと、思うが少し心配になってきた。


そして、30分、1時間が経ったが、三浦琴音は姿を現すことはなかった。

おかしい………流石に遅すぎる。

不安はピークに達していた。

そして、いてもたってもいられなくなった俺は三浦の家へ走り出していた。

この河川敷はブルベリ高校の近くにあり、三浦の家へは走って行けないことはない。

とはいえ、普段運動していない帰宅部男子にはこの距離はかなりきつかった。

それでも、必死に走って二十分で彼女の家についた。とにかく彼女にいて欲しかった。

来てくれなかったのはもういい。

彼女の身に何も起きてないことだけが俺の願いだった。

そして、インターホンを鳴らしてみる。

『はい』

三浦の声だ!よかった無事だ。

そして、彼女は家の前まで出てきた。

「どうしたの、こんな遅くに?」

何かよくわからなさそうな顔をしてきいてきた。

彼女は……………

花火大会のことを覚えてはいなかった。

「なんで……………」

なんで覚えてないんだよ!!

そう言ってしまいそうになったが、なんとかこらえた。

そうだ、落ち着け。彼女に悪意はない。


「今日さ、花火大会やってるんだ。一緒にいかない?」

「うん、いいよ、いこ!」

彼女は笑顔で答えた。

約束は覚えていなくても、三浦が今ここで笑ってくれるなら、なんだかどうでもよくなってきた。


そして、急いで河川敷まで戻ったが、大勢いた人は皆いなくなっていて、花火はもうすでに終わっていた。

「あっ、ごめん三浦。

花火……終わっちゃった……」

やってしまった。ここまでこさせておいて、怒ってるかな………

「ううん…………誘ってくれて、嬉しかったよ。」

彼女は怒りなど少しもなく、それどころか嬉しいとまで言ってくれた。

なら、今言うしかないだろ。


「あのさ、俺、三浦のこと好きなんだ!付き合ってくれ!」

俺は彼女に向かって手を差し出し、鼓動は人生で1番激しくなっていた。

……………

数秒の沈黙の中で夏の夜の生暖かい風が敏感に感じられる。

…………………

そして…………

「はい!こちらこそよろしくお願いします!!」

彼女は笑顔でそう言った。

俺たちはお互いを見あった。

その時、ドンッと最後の花火が2人の背景に打ち上がった。


鮮やかで、力強く、大きな、それでいて儚く………

そして、一瞬で消えてしまった…

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