第2話

「これからの時代はですね、従来のやり方では通用しなくなってきています。将来、君たちにまともな人生を送ってもらえるように我々職員はいろいろ考えているわけであります。そこでですね、これから皆さんにやってもらう取り組みはとても・・・・・・・・」


公立高校にしては無駄に広い体育館に、それこそその広さが無駄なほど、つめて並んでいる全校生徒達。その大衆の前でかれこれ20分は話しているであろう小太りの校長。本人はみんな聞いているとでも思っているのか笑顔で話し続けているが、ここにいる生徒の9割は話が右から左に抜けている。早よ終われと思いながらも、俺はさっきの事を思い出していた。


三浦琴音………去年、学年内で少々噂になっていた女子生徒だ。一見変わった様子はないのだが、実は障害を持っているとかなんとか。とはいえ別に目立つようなものではなく、特に問題が起こったわけでもないらしい。実際俺はクラスも別だったし関わることもなかったので話したことはないのだが、あの時5組の名簿表でその名前を見たときは少し気になってしまった。だからといって特に大きく関わることもないだろうから、気にするだけ無駄なのだろう。

気がつけば校長の話は怒涛のクライマックスを迎えていた。校長が話の終盤に差し掛かるときは、きまってテンションが高くなるのだ。その時だけはみんな聞いている。



始業式は校歌斉唱とともに終わり、各教室に移動となった。この学校は1年が4、2年が3、3年が2階となっていて、学年が上がるごとに階段が減って楽になる。

教室に入ると自己紹介が始まり、俺はそれとなくこなした。三浦の番が回ってくると、教室が若干ざわついた気がした。

「29番三浦琴音です、一年間よろしくお願いします。」

なんらおかしなことはなく、自己紹介は全員終わったが、やはり三浦のように普通に振る舞っていても、障害持ちというレッテルを貼られると、周りからは普通にみてもられなくなる。こういうのがいじめにつながったりするのだろうか。

俺は柄にもなく、そんなことを考えていた。

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