第9話 ヌルヌル

「えっ? なんか変なスキルが追加されてるんだけど……、なにこれ?」

 いきなり追加された「ヌルヌル」という文字。その響きがなんとも気持ち悪さを演出する。

「あのー、シスさんこれ何なの? バグ? スライムのステボ使っても前はこんなの出なかったよね?」


《その【ヌルヌル】はドロップ率が1パーセントのレアスキルです。それ以上の情報は持ち合わせておりません》


「まじでっ? こんなキモイ名前なのに? 【分裂】のほうがレアそうじゃない? 設定間違ってない?」

ステータスの文字をまじまじと見つめる。

「これがぁ、ほんとに~?」

「でもレアスキルらしいから一回だけ使ってみるか。【ヌルヌル】っ」


 ビチャビチャッ。


 手からヌルヌルした液体が出てくる。足にかかりそうだったので急いでよける。足はよけることに成功した。でもヌルヌルはスキルを発動した俺の右手にまとわりつき覆う。


「うっわホントにヌルヌルしてやがるっ。きもっ」


 手をぶるぶる振ってヌルヌルを落とそうとするけど意外と落ちない。

「は、な、れ、ろっ」


 ヌルヌルのくせに粘着力もそれなりにある半透明の液体。それこそスライムのような感触。


「これって、解除って言ったら消えたりしない?」


《えぇ、消えますよ。解除と言っていただければ》


「じゃぁ、解除っ。こんなキモイの二度とつかわねぇ」

 ヌルヌルのとれた右手を見ると、何事もなかったかのようにヌルヌルがなくなっている。ヌルヌルのひとかけらも残さずに。


「ん? そういえばさっき指先を傷つけなかったっけ?」


 先ほどスライムを倒しているときに誤って転んだ。そしてその際に地面から顔を出していた岩で人差し指の先を傷つけたのだった。そんなに気にするほどの傷でもなかったから放置しておいたのだが、その傷がきれいさっぱりなくなっている。


「やっぱり……、傷がなくなってるよな? しかもずっと気になってたささくれまでなくなってる…」

「もしかしてこのヌルヌルッて治癒能力があんのか? だったらすごくね?」

傷がなおったこと加えて、保湿成分まであるのか手の甲がめちゃくちゃすべすべになってる。

「肌に優しいとか、なにこの親切設計? こんなきもい名前のくせに」


 ヌルヌルの効果を確かめた後に消費MPを確認したら5だった。まぁ、消費MPが5だけで傷を治せるって考えればかなり安いのかもしれないな。


「治癒呪文を覚えてない俺からしたら、使えない【分裂】よりも確かに【ヌルヌル】のほうがレアスキルだわ。名前がきもいけど」


 でもこれスキル使うときめちゃくちゃ恥ずかしいな。いちいち大きな声でヌルヌルって言って、しかも変な液体が出てくるなんてな。ダメもとでシスさんに頼んでみるか?


「シスさん。スキルの名前変更とかってできない?」


《スキルの名前の変更は受け付けておりません》


「そこんところどうにかっ」


《ダメなものはだめです》


「ちぇっ。シスさんのわからず屋めっ」


 こうして俺は回復スキルを手に入れたのだった。あんまり人前で使いたくないけど。


◎ ◎ ◎ ◎


 とりあえず確認したいことは確認できたので、最終目標の五階層まで移動した。

 ただ五階層には何やら先客がいたらしく、マホガラスの大きな黒い影と先客の少し小さめの影が戦っているのが見えた。


「くっそ、運が悪いな。これじゃぁ、マホガラスの次回復活まで4時間くらい待たなきゃいけないじゃん」


 ダンジョンではモンスターを倒すと、復活までに時間が空く。これがなかなかネックになってくる。

 そして、ダンジョンでは先客がいた場合には、待たなきゃいけないのがルールだ。もちろんモンスターの横取りなどしたらいけない。なぜなら最悪の場合、ライセンスの剥奪まであるからだ。ライセンスが剥奪されるとダンジョンに潜れなくなってしまう。

 ただ、このルールの一つの例外は、その先客が危険な時だけは乱入が許されていることだ。


 そのルールのせいで待つしかない俺は仕方なく先客とマホガラスの戦いを見ていた。

 先客は背が低く、俺よりも低そうに見える。髪型はショートで、顔がよく見えないせいで男か女かはわからない。使っている武器は俺と同じように短剣で、おそらく俺よりも上手に使えてる。


「あっ」


 その瞬間、マホガラスが風魔法を使ったらしく、先客の体が勢いよく後方に吹き飛ばされる。そして壁に衝突し、「ガハッ」という声を出し地面に倒れこむ。


「やっべぇ。こりゃダンジョンの例外規定でいけるか? いけるよな? みるからに形勢不利だもんな。うん。いける」


 俺は走り出し、先客とマホガラスの間に立ち短剣の先をマホガラスの目に向ける。マホガラスもなんとなく俺の意図をくみ取ったらしく威嚇でギィヤァァァと叫ぶ。


「俺が相手だっ。かかってこいや」


 こうして俺はマホガラスと戦うことになったのだった。

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