第7話 分裂
勾玉ダンジョンは俺の住んでいる区では唯一のダンジョンだ。
すぐ近くに公園が併設されており、土日は子供やその親などで賑わっている。
春になれば桜が咲き誇り、花見客であふれる一種の観光地と言っても差し支えない。
勾玉ダンジョンがある場所はもともと古墳があったらしく、確かによーく見てみるとダンジョンの形が古墳のようにも見えなくもない(まったく関係ない気がするけど)。
加えて、ダンジョンの本体に出てくるモンスターのレベルはほかのダンジョンと比べればはるかに弱いため、ダンジョンビギナーがよく訪れる場所だ。
そんな人気の勾玉ダンジョンも平日の朝一ということもあってガラリとしていた。
ダンジョンの1階層はめちゃくちゃ広い。
どういった仕組みかわからないけど太陽光みたいな光が入り込んで明るい。
ここで出てくるのはスライムのみだから、少しくらい油断していても大丈夫だ(ただ、少し前にステータスが低いくせに調子乗って油断してたらスライムに半殺しにされたけど)。
ダンジョンの地面は基本的に土で、所々に草が生えている。スライムはこの草を食べてるらしい。
「おっし。この状況なら俺が分裂しても大丈夫そうだな。いきなり人間が分裂するの見たら俺だって通報しちゃうからな。誰かに見られちゃいけねぇ。と、いうことで…」
「【分裂】ぅぅぅ」
ダンジョン内に響き渡る俺の馬鹿みたいにテンションの高い叫び声。誰もいないからこそできることだ。
ブオンッ。
俺の体が分裂し、俺の左側に片割れが出現する。
「「おっ、ほんとに分裂した」」
分裂した俺の片割れをジィーッと見つめる。見た目は全く一緒。耳の後ろにある小さなホクロまで。そしてそのホクロから生えた謎の小さな毛。すべてが一致する。
しかし、気に食わないのは俺が片割れを見ようとした瞬間、そっぽを向いたことだ。
「「いやいや、なんでそっちむくねんっ」」
ここでやっと片割れと声が被っていることに気付く。
「「あっ」」
「「これ、もしかして両方とも俺の意思を反映して同じ動きをしてるのか?分裂した体は別々に動かせないのか?」」
分裂した俺の体は俺の本体と同じように話すから声が被るし、同じように動く。
「「同じように動いちゃったら…あんまり分裂の意味なくね?」」
俺の分裂の想像は分身に近くてそれぞれが違う意思を持って動く、そんなイメージだった。
でも実際はどうだ? そんなかっこいいものじゃなかった。理想と現実のギャップに思わずショックを受ける。
ショックを受けているといきなり、ボフンと片方の体が消える。
「なんだっ?もしかしてこのスキル時間制限とかあるの?もしくはMPとかを消費してるとか?」
俺は急いでステータスを確認する。すると10あったMPが0になっているのがわかった。
「分裂してたのが50秒程度で、MPが10減ったってことは分裂して5秒が経過するにつきMPを1消費するってことか?」
一応、エリクサーを勾玉ダンジョンに来る前にコンビニでいくつか購入しておいたのでこれを使ってMPを回復し、もう一度試すことにした。
「【分裂】っ」
「「今度は五秒で試してみるか」」
1,2,3、4,5
と心の中でカウントする。
「「解除」」
叫ぶと片割れがスッと消える。
そしてMPを確認すると9と表示されている。つまりMPを1消費したということだ。
「俺の予想は当たってるってことか」
「ってことはMPの少ない今のステータスじゃまったくこのスキル使えないじゃん」
まーでも俺のやるべきことがわかったからよしとしよう。
ずばり俺が次にやるべきことはMPを上げることと、分裂したときに片割れを俺本体の意思とは別に自立して動くようにするってことだ。
何回か【分裂】してれば何かコツをつかめる可能性がありそうだから、まずは長時間分裂するためにMPを上げるとするか。
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