第4話 蛇

 次の瞬間、茂みから巨大な蛇がぬっと顔を出した。


(え!?)


 俺は息を潜めていたにも関わらず、思わず声をあげてしまいそうになってしまった。アナコ○ダという人を丸呑みする巨大な蛇が出てくるB級映画があったが、完全にそれだ。


 異世界だから魔物もいるだろうとは思っていた。しかし、こうして本物を目の前にすると驚きで腰を抜かしそうだった。


(や、やばい! 俺も逃げないと!)

(こんなやつに、勝てるわけがない!)


 巨大な蛇はチロチロと赤い舌を出し、少しずつ少女に近づいている。


(あぁ、でも、あの女の子が食われてしまう!)

(今から走り出して、女の子を抱えて何とか逃げ切れるだろうか?)

(……いや、無理だ。間に合うわけがない。)


 巨大な蛇は人間ではあり得ない角度まで大きく口を広げ、少女を丸呑みにした。蛇の体が少女の形にいびつに膨らむ。


(……あぁ、やっぱり間に合わなかった。)

(……きっとこの世界はそういう世界なんだ。少女を生贄にして男たちが逃げ出す。そんなことがまかり通る世界なのだ。)

(少女が食べらているうちに、早く俺も逃げないと——)


 ———でも、本当にそれでいいのか?


 俺はまた何も成せず、少女一人助けられず、オナニーだけして生きるのか?


 ———俺は生まれ変わったのではないのか?


(ついさっき俺は変わるんだと決めたばかりじゃねえか!)

(それなのにもう逃げ出すのか!? 俺は!)

(そんなことなら、死んじまったほうがマシだ!)

(どうせ俺は死んだばかりだ。どうせなら、やってやるよ!)


「うらああああああ!!」


 俺は奇声を発しながら震える足を鼓舞して茂みから飛び出し、巨大蛇に向かってパンチを繰り出す。


 それはパンチというにはあまりにもお粗末で、腕を伸ばしたまま体当たりするような形だったが、頭を低く下げて少女を体の奥へ奥へと飲み込もうとしていた巨大蛇の横っ面に見事にクリーンヒットした。


「キシャァァァ!」


 巨大蛇は目に見えてブチ切れてお返しにとばかりに俺をその長いで体で巻き取って締め上げる。


「うるせぇ!」


 だが、死に物狂いで力を込めると、意外と簡単に抜け出せた。これが火事場の馬鹿力ってやつか?


「なんだ! 見掛け倒しかよ! このクソが!」


 蛇の表情なんて分からないが、恐らく驚いているであろうそいつの口を強引に掴み、無理やり開かせてそのままさけるチーズのように引き裂く。


 巨大蛇はのたうちまわり、やがてピクリとも動かなくなった。


(あれ? ……もしかして俺って、結構強い?)


 無我夢中だったが、自分があんな巨大な蛇を引き裂けるほどの力があることに驚いた。これが恐らくイキ女神の言っていたチートの効果なのだろう。


(———はっ、そんなことよりも、今はあの女の子だ。)


 死んだ蛇の体を素手でミチミチとさらに引き裂いていくと、蛇の胃袋からでろんと少女が滑り出てきた。


(……まさか、死んでないよな?)


 少女の身体は蛇の胃液で消化されて溶けていた……なんてことはなく、無事なようだ。少し動いているし、呼吸をしていることが見て取れた。


 さきほど筋肉男に服を破られた上に蛇の胃液で服を溶かされ、少女の小さく膨らんだ胸が丸見えになっている。下半身は破れた服や蛇の肉塊が覆い被さってかろうじて見えない。


(胸が、胸が……おぱ……)

(これが生乳なまちち……初めて見た……)


 その少女は髪も薄い銀色、肌も真っ白で、全体的に色素が薄い女の子だった。悪党3人に襲われ、蛇に丸呑みにされても健やかに(?)気絶し続けているあたり、どこか現実感を感じさせない妖精のような雰囲気があった。


 つるつるなお腹と、少しだけ膨らみ始めた胸。目を閉じていても分かる、人形のように整った顔。そんな彼女の真っ白な肌を、蛇の赤い血やら透明な体液が汚している。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 …………………………うっ。


 ………………………………はぁはぁ。


(……最低だ……俺って……エヴ○のシンジみたいなことしちゃった……)


 少女の体を汚す蛇の体液に、俺の体液が混ざっていた。


 一発抜いて途端にクリアになった頭に、罪悪感がぎるが、首を振って打ち消す。


(……俺は、さっきの男たちのようにレイプしようとした訳ではない。ただ、たまたま見てしまっただけで、そんな酷いことはしていないはずだ。)

(それに、俺はこの子の命を救ったんだ。このくらい、許されるんじゃないか?)

(……まだ、起きてないよな?)

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