第8話 冒険者登録2

「あれ、仮登録って言いましたか?」


「はい、そうです。正式に冒険者登録するためには、常設の依頼を3回達成していただきます。その後、簡単な審査を経て晴れて冒険者として登録いたします」


(なるほど、試用期間みたいなものか。)


「その、常設の依頼というのは、どんなものですか?」


「街内の清掃、街近辺での薬草の採取などですね。これらの依頼は基本的にパーティーを組まずとも一人で可能なものばかりです。常設依頼はあちらの掲示板に情報が書かれていますで、ご確認ください。依頼の内容、報酬、推奨人数など色々な情報がまとめられていますよ」


「なるほど。そ、その3回の依頼でも、報酬はもらえますか?」


「もちろんです。ちなみに、冒険者ギルドについての説明は必要でしょうか?」


「あ、はい。お願いします」


「わかりました。まず、当冒険者ギルドは、冒険者による冒険者のための組織です。運営も主には冒険者か、元冒険者によってなされています。目的は、依頼の適正価格での請負、依頼の適切な分配、冒険者の教育です。当冒険者ギルドを維持するため、会員の方には依頼成功時に何割かのギルド維持費を払ってもらっています。当冒険者ギルドに属すことにより、依頼の斡旋、パーティーメンバーの斡旋、上位冒険者との面談から訓練、冒険者保険への加入、身分証明、冒険者金庫の使用、この辺りの魔物や地形の情報の照会など様々な利益を享受できます」


「な、なるほど……」


(なんだかよく分からないが、思ったよりもしっかりしていそうだぞ?)

(冒険者ギルドはもっとこう……荒くれ者の集まりで、昼間っから酒を飲んで騒いでいるようなやつらの集まりだと思っていた。)


「細かいルールの説明はまた正式登録時にいたしますね。また、悩みや相談事があったらなんでもお聞きください」


 そう言ってビッグおっぱいシンディは、慣れたように営業スマイルをつくる。


「じゃ、じゃあ、ここは討伐した魔物の買取ってやってますか?」


「やっていますよ。この建物の裏手に解体場があるので、そちらに持っていって係りの者に渡してください。係りの者が査定額を出しますので、それをこの受付でお支払いいたします。入り口が少し分かりにくいので、このあとご案内しますね」


 そうして俺はビッグおっぱいシンディの後をついていき、彼女のお尻を眺めなら解体場へと向かった。


「ここです」


 柔らかそうなお尻シンディは「解体場」と書かれたドアを開けて俺を中へと招く。


 解体場は酢のような酸っぱい臭いと、古びた鉄のような臭いが充満していた。恐らく鉄骨にレモンをかけて食うのが大好きな男の屁はこんな臭いがするだろう。だが少しどこかで嗅いだことがあるような気がする……俺の腋の臭いだったかもしれない。


「よぉ、シンディ。どうした?」


 部屋の奥から鉄板のような肉切り包丁を片手に持ったおっさんが現れる。血だらけのエプロンをかけて顔に古傷もあり、見た目だけだと完全に悪役だ。鋼の錬○術師あたりに出てきそうな悪役だ。


「チョッパー、精が出るわね。ただの案内よ。邪魔して悪いわね」


「いいってことよ。一息ついてたところだ。なんだ? 新人さんか」


(一息ついていたならなんで包丁を持ってるんだろうか?)

(恐らく普通に解体してたんだろうな)

(それにしてもチョッパーという名前なのか。鋼の錬○術師じゃなくてワン○ースだったか)


「カカカガカガミュートさん、もし依頼とは別の討伐魔物がありましたらこちらにお持ちください。依頼の帰り道に魔物に出くわして討伐して帰るなどよくあることですからね」


「わかりました。今持ってるんですが、出してもいいですか?」


「え? 今? 何かお持ちのようには見えないですが……」


「〈アイテムボックス〉〈取出〉」


 俺はビッグスネークの死体をシンディとチョッパーの前に取り出す。


「―――うおっ、これはっ、ビッグスネーク!?」


「ええっ! 今、どこからだしたのですか!? か、カカ、カカカガカガミュートさん、あ、あなたもしかして、〈アイテムボックス〉スキル持ちなのですか!?」


(めちゃくちゃ驚いてるな……まずかったか?)

(シンディのさっきまでの仕事できますオーラが吹き飛んで、ついにカカカカカカガカガミュートになってしまったぞ。)


「ま、まあ、一応」


「なんてこと……Sランクのレアスキルですよ!」


「Sランク?」


「一つの国で片手で数える程度しか所持者がいないほど珍しいってことですよ! それで、このビッグスネークはどうしたのですか? Cランク級の魔物ですが、まさか……」


「この街に来る時に遭遇して倒しました」


「もしかして、1人で?」


「ええ、まあ」


「そんな! どうやって!?」


「どうやって……えっと、素手で」


「素手で!?」


「……おいおい、俺も長いこと解体屋をやってるが、素手でコイツを倒した奴なんて初めて見たぜ。こいつぁどえらい新人が来たもんだ」


「ですね……これは早く囲って……いえ、カカカガカガミュートさん、私の権限で、仮登録はなしにして即正式登録にします……ようこそ、冒険者ギルドへ」


 こうして俺は晴れて冒険者となった。冒険者にはクラス分けがあるようで、俺はFランク冒険者からのスタートだ。シンディには「あなたならCランク冒険者からでも問題ないかもしれない」と言われたが、まだ始めてもいないのにうまく冒険者になれる自信もなかったので、Fランクからとしてもらった。


 仮登録の木のプレートを返すと、代わりに鉄でできたプレートの冒険者証をもらった。そこにも変わらず、カカカガカガミュートと書かれていた。

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