第9話 肥溜めの指輪1
俺はビッグスネークを売って得た金で、シンディに紹介してもらった宿を取った。ビッグスネークはこの辺りに出る魔物で最上位種らしく、金貨4枚をもらった。俺がビリビリに引き裂いてしまったため素材としての価値が下がり、少し安めになってしまったらしい。
シンディからは他にもお勧めの武器屋、通貨価値や相場を色々教えてもらった。通貨価値としてはだいたいこんな感じと考えて良さそうだった。
金貨一枚 10万円
銀貨一枚 1万円
大銅貨一枚 1000円
銅貨一枚 100円
ちなみに宿屋は一泊大銅貨3枚だ。ベッドがあるだけの部屋だが、個室だし十分だろう。大人数部屋はもっと安かったが、プライベートなスペースが欲しかった俺は個室にした。
(あー、今日は色々あったな)
俺はベッドにごろりと横になる。藁の上にシーツをかけただけのベッドのようだが、思いの外寝心地が良さそうだ。
(あ、そうだ)
「〈鑑定〉」
俺はふと思い出して、ヒナからもらった花を鑑定してみる。
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【名】プロエス草の花
【説明】人族女性の排卵を抑える効果があるプロエス草に咲く花。
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(……排卵を抑える効果?)
(排卵って、あの生理のやつか?)
(そんな薬草があるのか。それがあればセックスし放題ってことか? 興奮するな……)
(いや、まてよ? 冒険者ギルドでも欲しがってるみたいなことをシンディは言っていたな。)
(依頼中に生理があると女性冒険者にとっては命取りになる可能性もあるだろう。そのために生理を抑える薬を作るってところか。)
(そうすると、プロエス草とやらは需要が高そうだ。ヒナのように集めたらいい値で売れるかもしれない。)
(異世界での女性の生理なんて考えたことなかったな。日本でも考えたことなかったけどさ。)
ヒナのことを思い出した俺はそのまま安らかに眠るヒナの胸と、レイプされそうになるヒナを思い出しながら2回抜いて深い眠りについた。
◇ ◇ ◇
翌日、武器屋に行って何を買うかうんうん迷い、結局店主の言われるがままにお勧めの装備を買い揃えた。この武器屋は防具から細かい道具まで取り扱っており、冒険者として必要なものは全てこの店で
ビッグスネークで得たお金は全て吹き飛んだが、店主も本当に俺にあった装備を見繕ってくれたように思えた。
「冒険者にとって、1番重要な装備は何か分かるか? 坊主」
武器屋の店主であるおっさんは俺にそう聞いた。
「え……、剣、ですか?」
「ちげえよ、靴だ。冒険者は窮地に陥ってもとにかく逃げ延び、生きて返ってくることが大事だ。たとえ自分以外の仲間が全滅し、仲間の骨を踏みつけながらでも逃げなくちゃならねぇ。そんな時に、お粗末な靴を履いていたんじゃ話にならん」
「な、なるほど」
店主はそう言ったが、そのお店には転生した時から元々履いていたニューバラ○スのスニーカーを超える靴は置いていなかった。そのため靴を買う必要はなくなり、鉄の剣と皮の鎧、鉄の板を縫い込んだ帽子、そして余ったお金で傷薬を購入した。
店主は俺のスニーカーを物珍しげに眺めて、しきりに「おぉ、これは……」と感嘆の声を漏らしていた。
そうして準備万端となった俺は冒険者ギルドに行って南の森に出没するゴブリン討伐の依頼を受ける。
もうお昼時だが、シンディ曰く徒歩一時間程度の距離であり、日暮れまでには戻れるだろうとのことだった。
このゴブリン討伐の依頼自体は何の苦もなく終える。ゴブリンを合計で8匹狩ったが、怪我一つ負っていない。転生後、まるで自分の体が自分のものでないようであった。
そもそも鉄の剣だって日本での俺ならとても振り回せるものではなかっただろう。しかし今の俺は片手で鳥の羽でも振るようにブンブン振り回せる。
ゴブリンの動きはスローに見えるし、それに対して俺の動きはもしここが日本だったならばオリンピックで金メダルを総なめにできるんじゃないかと思うほどよく動いた。
ジャンプすれば木の上までひとっ飛びだし、走れば途中で昼寝を挟んだって逃げ出したゴブリンに余裕で追いつける。まるで範馬刃○である。
最初はゴブリンのような生き物を殺すことに俺自身何か抵抗があるのではないか?と思っていた。日本では小学校の頃から生命はみな等しく尊いのだと厳しく教えられてきたのだ。なにかしらの苦悩のようなものがあってしかるべきだったかもしれないが、特に何もなかった。
(俺は転生して性格や認識が変わっているのだろうか?)
(それとも、もともとこういう人間だったのだろうか?)
(ゴブリン討伐は本来、討伐証明部位である右耳を切り取って持って帰るものだとシンディは言っていた。俺は〈アイテムボックス〉で丸ごと運べるので不要だが、耳を切り取るなんて汚くて面倒だなとしか思えない。)
(相手が魔物ならこんなものなのなのだろうか?)
(もしそれを人間相手にやれと言われたら……恐らく拒否するだろう。)
そうして俺は討伐したゴブリンの死体を全て〈アイテムボックス〉に納め、帰路につく。
◇ ◇ ◇
都市シロツメに帰る途中、戦闘音が耳に入る。
(……おや、この先で誰か戦っているのか?)
(なんだかデジャブだな……前みたいに悪党だったら嫌だな)
こっそり茂みから様子を伺うと、4人組の冒険者パーティーが狼型の魔物の群れと戦っていた。狼は数十体近くおり、二重の包囲網を敷いて冒険者パーティーを取り囲んでいる。冒険者パーティーはかなり劣勢だ。
「〈鑑定〉」
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【種族名】シルバーウルフ
【レベル】4
【スキル】〈遠吠え〉
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(ふむ、シルバーウルフか。レベルはそこまで当てにならないとしても、戦っている様子を見る感じ俺でも倒せそうな魔物だな。)
(シルバーウルフの焼死体がいくつか転がっているが、もしかして魔法で殺したんだろうか?)
狼の円陣の中央で、頑丈そうなプレートアーマーを着込み、大きな盾を持った男がシルバーウルフの攻撃を凌いでいる。たまに盾を横に払って攻撃しているが、悉く避けられている。
その後ろではローブを着た男が倒れ、隣で女が手当てしているようだ。そしてその2人を守るように、モヒカンの男が短剣を使って狼を牽制していた。
(……よし、助けに行くぞ。)
(今日の俺は、ヒナがレイプされそうなところをただ眺めていた昨日の俺とは違うのだ!)
俺は茂みからジャンプして飛び出し、着地と同時に両脇のシルバーウルフの首を刈り取る。
「助太刀いたす!」
(助太刀いたすって、つい時代劇みたいなこと言っちゃったよ! は、恥ずかしい!)
「!!! 助かる!」
冒険者パーティーのうちの誰かが返答する。
俺は走り回りながら、とにかく剣を振り回した。
剣術もへったくれもない素人丸出しの攻撃だが、圧倒的な身体能力によってシルバーウルフの群れを蹴散らすには十分だった。
シルバーウルフの群れはもうほとんど全滅に近かったが、俺には勝てないと悟って最後の数匹がキャンキャン言いながら逃げ出し、辺りに静寂が訪れる。
「す、すげえ……」
俺が剣を仕舞って振り返ると、冒険者パーティーは呆然としていた。
「……はっ! ありがとう! マジで助かったぜ! 俺はドラゴっつんだ。あんたは?」
プレートアーマーの男が兜を取りながら言う。兜をとると中からゴリラが現れたので一瞬新手の魔物かと思ったが、どうやらゴリラ顔の人間のようだ。
「カガミュートです」
「カガミュートか! あんたすげえ強えなっ! Aランク冒険者とかか? とにかく小便ちびりそうだったぜ! あ、俺はギドーだ。よろしくな!」
ギドーと名乗ったのは短剣で戦っていた男だ。痩せ型のモヒカンで、鳥のような男だった。もしくは北斗○拳のチョイ役。
残りの2人は美人の女性がソニアで、気絶してる男がルドルフと言うらしかった。ルドルフは背が小さく子供かと思ったが、立派な髭を生やしていた。どうやらおじいさんらしい。
「本当にありがとうございます。カガミュートが来てくれなければ私たちは全滅していたでしょう」
「あ、あ、うん。お礼はもう大丈夫ですよ」
(女の人に話しかけられるとどうしても吃ってしまう……)
「そんなことより、俺が狩ったシルバーウルフの死体はもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんです。でもかなりの量ですよ……ここで解体を——」
「〈アイテムボックス〉〈収納〉」
シュンッとシルバーウルフの死体が焼死体を残して全て消える。
「「「ええええええ!?」」」
「やべぇ! カガミュートやべえよ! 小便漏らしちまいそうだぜ! あんた凄すぎだよ!」
北斗○拳のチョイ役ギドーがそう言う。どうやらこいつの口癖は小便もらしちまうなようだ。
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