第7話 冒険者登録1
都市シロツメに着いた途端、ヒナはくるりと振り返って俺に向き合う。
「カガミュートおにーさん、私を助けてくれて本当にありがとうですー! これ、あげるですー!」
そう言ってヒナは俺の胸元にヒナが摘んだ薬草の花をつけると、てててっと走り去っていった。
(……。)
(…………あれ?)
(えっ、これでお別れ!?)
(異世界転生あるあるの救った女の子といちゃラブ展開はどこにいったんだ!?)
(助けてくれてありがとう、え?まだ宿をとってない?大丈夫うちに泊まっていけばいいよ!からの着替えをうっかり覗いてしまったりベッドが一つしかなくて仕方なく、本当に仕方なく同じベッドで眠って女の子の寝相が悪くて服がはだけたり俺に抱きついてくる展開はどうなったんだ!?)
(……もしかして、俺がヒナが気絶している間に抜いていたのを気づかれていたのだろうか? それで、俺を避けているのだろうか?)
(冷静に考えるとあの時の俺は性欲に惑わされてどうかしていた。かなりキモいことをしてしまった気がする。というか、普通に日本だったら犯罪ではないだろうか?)
(やはり性欲は全ての悪の根源。全ての戦争は性欲がトリガーだ。俺はちんこを切り落とすべなのだろうか?)
(……ま、まあ。そのうち再会するのだろう。きっとそうだ。なんせここは異世界だならな。)
俺は突然のヒロインとのお別れに若干
都市シロツメは都市と名がつくだけあって、俺が異世界転生で勝手に想像していた中世ヨーロッパの田舎街よりも大きな街であった。
(もっとこじんまりとした街で、井戸で水を汲んで毎日硬い黒パンを食べて、俺がマヨネーズを世に広めてレシピの権利収入でガッポガッポみたいなのを想像していたのに、こんなに発展した場所で俺は何をすればいいんだろうか?)
都市の規模なんてぱっと見ではよくわからないが、数万人レベルの人口はありそうだった。少なくとも街の住人みんな顔見知りなんて小さな規模ではない。建物が立ち並び、雑多な人たちが行き交っている。いかにもファンタジーチックな獣耳と尻尾が生えた男も歩いていた。
(すげえ。ああいう人を獣人とか呼ぶのだろうか?)
(どうせなら女性の獣耳が見たかったな。)
とりあえず俺は情報収集……というと聞こえは良いが、実際は観光気分で散策をしながら、手当たり次第に〈鑑定〉をかけて歩いた。
物にたいして〈鑑定〉をかけると、大雑把な説明が表示された。例えばこんな感じだ。
——————————————
【名】ロングスカート
【説明】衣類
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これはたまたま見かけた綺麗な女性が着ている服を鑑定した結果だ。
ちなみに俺自身を〈鑑定〉した結果がこれだ。
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【個体名】鏡悠人
【種族名】人族
【レベル】2
【スキル】〈鑑定〉〈異世界言語〉〈アイテムボックス〉
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レベルはいつの間にか2だが、ビッグスネークを倒して上がったのだと思われる。ヒナもレベル2だったが、ビッグスネークを倒せるほど強いということはないだろう。やはり同じレベルでも強さに個人差があると思われ、レベルだけだとあまり強さの参考にならなさそうだ。
〈鑑定〉しながらふらふらと歩き回っていたが、大した情報もないしぶっちゃけ鑑定結果はあまり見ていなかった。その時の俺は、さっきのヒナとの会話を思い出して、あの時こういう話をすればよかったなとか、こう返せばよかったなとか、そういった脳内反省会をしていた。
そんな風に半分上の空で歩いていると、冒険者ギルドの看板を見つける。
(……お、やっぱ冒険者ギルドってものがあるんだな。)
(ちょうどいい。冒険者登録をしていこう。)
(ついでにビッグスネークの死体も売れるかな?)
冒険者ギルドに入ると、ゴロツキが「おい兄ちゃん。見ない顔だなぁ? ここを通るには俺に挨拶していきな」と絡んでくるイベントも特に発生せず、依頼書を見ながら議論を交わしたり、椅子にかけて楽しく談笑する冒険者たちがいるだけであった。
俺は拍子抜けしつつも受付へと足を運び、胸の大きな大人クソ美人の冒険者ギルドの受付嬢に声をかける。
「あ、あの、す、すいますん」
(めちゃくちゃ
俺はこんな美人の大人女性と目を合わせることができず、いつもコンビニの店員にそうするように顔を見ないで胸元あたりを見て話しかける。受付嬢は胸が大きいので、それをじっくり見たかったという理由もないではない。
「どうなさいましたか? おや、薬師の方ですか? ちょうどよかったです。今女性冒険者が増えていて——」
「え、薬師……? いえ、ぼ、冒険者登録?をしたいのですが」
「あ、新規の冒険者登録でしたか。失礼しました。プロエス草の花を身につけていらっしゃったので、つい薬の販売にいらしたのかと」
(プロエス草? このヒナがつけてくれた花だろうか?)
(後で鑑定してみよう。)
「冒険者登録でしたら、私シンディが案内させていただきます。お名前はなんですか?」
「かか、かが、カガミュートです」
「カカカガカガミュートさんですね」
そう言ってビッグおっぱいシンディは茶色っぽい紙に何かをさらさらと描き、慣れた手つきで数センチ程度の小さな木の板に彫刻刀で文字を掘ると、それを俺に渡す。
「カカカガカガミュートさん、そちらが仮登録時の冒険者プレートになります」
その木の板には「カカカガカガミュート」と彫られ、裏には冒険者ギルドのマークと思われる剣と盾の判が押されていた。ご丁寧に端に小さな穴が開けられており、首からかけるための細い紐が通されていた。
(……いや、言いそびれたけど名前がおかしいんだが。)
(めちゃくちゃ言い難い名前になってしまった。)
(でもそもそもカガミュートも偽名だし、もう何かプレートに彫ってくれてるし、今更言うのも申し訳ないな……。)
(ここは異世界でもはや日本でもないんだ。そんなことを言い始めたら俺が鏡悠人であるという証明も自分の〈鑑定〉ぐらいしか思いつかない。もう、なんでもいいか)
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