第13話 師匠の研究テーマ

 俺は師匠の研究助手に昇格した。読み書きもおおむね卒業したので午前中は師匠の研究成果を整理する仕事だ。師匠の”お願い!”という名目の強制任務だ。研究室の一角に机を置いてもらい研究作業中の師匠を横目に研究資料という名のごみ整理になる。・・・


『ゴミは言い過ぎかも・・・』


 ゴミ、もとい研究資料は師匠の机の上に日付ごとに置かれている。俺は直近の資料から研究日誌を作成してゆくことにした。直近の資料から過去へ遡る形だ。

 話は変わるが研究活動をするためには絵心が必要になる。芸術的な絵ではなく写実的な絵が必要なのだ。過去世であればスマホ等で記録することが可能だがこの世界では絵心は研究者の必須技能となる。師匠の絵心は結構良い感じだと思う。俺は描くための知識や多少の技能はあるが何せデジカメに頼った世代だったのでちょっと辛いところだ。努力、努力・・・

 研究日誌が完成すると資料とともに師匠に渡す。師匠が承認したらそれで終わりだ。研究日誌は師匠のサインを確認した後、日付順に綴じこむ。資料は倉庫に持ち込む。俺はできるだけ日付順に並べて収納した。見直す必要があるかもしれないからな。


 研究室の片隅に十個のゲージがあり研究ラッタが飼われている。この研究ラッタの餌やりも俺の役目になった。まあ研究助手の仕事だよね。


 師匠の研究テーマは”毒と解毒薬”だ。植物毒の研究から始まったのだが、研究レポートを村長に提出している内に毒物の解毒薬づくりを頼まれたらしい。

 村長から、毒物本体とその効果や症状それに接種の状況や取り扱いの留意点が書かれた書面が渡される。時には開発期間まで指定される場合もあるらしいが解毒薬が出来なかったからといってペナルティがあるわけではない。あたりまえだが・・・


 提供された毒物を魔力水で千倍に希釈する。希釈した毒物を書面に基づいて研究ラッタに摂取し、その症状を観察し記録する。研究ラッタが死ねば更に二倍希釈したものをラッタに摂取する。そのラッタが死ねば更に二倍に希釈し同様の処置を行う。この段階でラッタが死ななければ四倍希釈で生存と記録する。

 この四倍希釈毒物を使って対症状薬物を検討し投与する。同様の工程を繰り返し処方を決定する。その処方を二倍希釈毒物を摂取させたラッタに投与する。延命等効果が確認できれば一倍希釈毒物で同様の取り扱いを行う。

 最終的に効果ありとなった場合、作成処方箋と作成薬物を三セット(一セット四本)作成し、処方上の留意点とともに村長に提出する。

 師匠が行っているのは毒物の中和薬ではなく毒物の緩和もしくは延命のための薬品である。人体への影響や副作用は依頼した人物が行うものであり、そのために三セットの薬物を提供している。

 強力な毒物の場合、使われた対象者の命はなかっただろうと判断されたが解毒薬開発者には何ら関係がない。


 毒物希釈に魔力水を使用している理由の記載は資料にはなかった。まあ俺は弟子だから知っているが・・


 師匠が今やっている研究は毒キノコだ。毒キノコには麻痺を発生させるものや眠りをさそうものもあり、使い方によっては薬にもなりうるものである。俺は過去世の知識を生かしてダニや蚤の治療薬でも作ってみようかと考えている。一応、師匠の了解は得たところだ。まあ暇つぶしでもあるが・・・


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いつもお読みいただきありがとうございます。

〇千倍希釈の考え方

人間の重さが六十キログラム、ラッタの重さが六十グラムと考えています。




 

 

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