第11話 植物の魔力1

聖暦二三二〇年十二月


 ノエミの弟子になって約半年たった。師匠の指導による読み書きはそれなりにできるようになった。専門用語はまだ難しいが日常の読み書きであれば問題なくできている。専門用語は”調剤用語辞典”と師匠が作成している”用語対比一覧”で一語づつ確認するがとても面倒なのだ。特に師匠の”用語対比一覧”は研究の過程で筆記しているものが多いので定義が時々錯綜して理解するのが難しい。勝手な解釈をすると迷走してしまうので師匠に確認するようにしている。すると師匠は嬉しそうに説明しながら定義の再定義をするので”用語対比一覧”の書き直しをする必要が生じてしまうのがとても面倒なのだ。時々イライラするのだが・・・・


 問題は植物の魔力を見ることができないことだ!


 俺の魔眼は動物の魔力を見ることができる。集中すればかなり遠くのものを見ることができるし手元をまるで顕微鏡のように拡大して見ることもできる。バクテリアくらいまでは見えそうな気がする。ナイトビジョンのような増幅もできるし普通の人間より可視範囲が広いので赤外線も見ることができるんだ。


 『誰がくれたか知らんけど・・・転生報酬かもなあ????』



聖暦二三二一年三月


 『結局は見ることができないのか。』


 俺は目で見るのはあきらめて師匠の言葉をかみしめてみる。


 『魔力は普通にあるけど魔力を通す経路が細いので戦闘では使えない・・・魔力を持っているものは他の役目が優先されている。だから魔力のないものでもかまわないとと考えた・・・俺が魔力を隠しているのを見てシメタと思った・・・』

 『魔力がなくても良いと考えていたが魔力があるのでシメタと思った。これがポイントなのか。』


 魔力というのは無色透明無味無臭重さもないので誰も気がつかない。魔力検知晶石だけが魔力の存在を明らかにできる。


 魔力訓練として今までやってきたのは魔力を身体内で循環させたり、そのまま身体外へ放出したり、魔力の塊として粘土のようにこね回したりしてきた。着火の魔法を使うときは体内魔力のままでは炎がデカくなり過ぎるので、着火に使う程度まで魔力の放出を絞り込んだ。この魔力を絞り込むというのは結構大変だ。ある意味魔力の放出を止めるのは簡単だ。そのまま放出するのも難しくはない。だが魔力を絞り込んでその状態を維持するのが大変なんだ。師匠は着火の魔法も使えないし、訓練すれば一般人でも使える魔石を使うこともできないようだ。だから着火には魔道具を使用している。


聖暦二三二一年六月


「そろそろ魔力を感じれるようになった?」

「だめです。どうしたらよいのか全くわかりません。師匠は魔力が見えるのではなく、魔力を感じるのですか?」

「そうよ。 あたしは魔力を持っている者の魔力が感じられるのよ。昔は魔法を使えないことが悔しくてさ、何とか魔力を身体外に出せないかとずっと訓練を続けていたらある時、暖かく感じる人と感じない人がいるのに気がついたのよ。暖かく感じる人は村長とか戦闘訓練をしている人でさ『もしかしたら魔力もちは暖かい感じがするのかも・・』って気がついたのよ。それからは仕事中でも魔力の放出訓練を続けていたら、三年くらいたった頃あたしの魔力に反応する薬草があることに気がついた。それからよ植物にも魔力があることに気がついたのは、まあ誰にも言っていないけどね。」


『俺はこの言葉にヒントがあると感じた。師匠は魔力は保有しているが魔法を使うことはできない。人には魔力は見えないが魔法は見える。師匠は魔法が使えないから魔力を見ようと努力していたはずだ。身体外に放出した魔力を見ようと努力するうちに人の体内の魔力を感じるようになった。更に訓練を続けていたら魔力に反応する薬草があることに気がついたということだろう。』


『まずは師匠の成功体験をトレースすることだな。』


 俺は目を閉じて魔力放出を感じ取る訓練を開始した。訓練は師匠の弟子として調剤の手伝いをしているので一日中できるわけではない。庭の片隅で行うのだが、薬草に俺の魔力をぶつけるとしおれてしまう。できるだけ絞り込んで放出するのだが、どうやら薬草には強すぎるらしいと気がついた。それで山肌に向かって、出来るだけ絞り込みながら魔力を放出している。俺の目は魔力を見ることができるので放出する際には目をつぶり全身の感覚を魔力を感じるべく集中させる。


聖暦二三二一年八月


 全身の感覚を集中させ続けるのは結構疲れる。魔力を使いすぎて寝落ちしてしまうほどではないがこの数週間は快眠できている。最近は闇雲に集中するのではなく魔力を放出している手の少し先をイメージして魔力の感覚をつかむことにした。何週かして指先を冷たいものが渦巻くように拡散しているような感じがあった。魔力放出を止めると冷たい感覚はなくなる。放出を再開すると指先に冷たい感覚が生じた。


『これは魔力なのか?』


 魔力を練って丸くしたものを掌に乗せて掌に感覚を集中すると丸く冷たいものが掌にある感覚がした。身体内の魔力は目では見ることができるが魔力感覚では感知できない。身体外に出ると魔力感覚で感知できる。身体内の魔力は身体内を循環する血液の流れがわからないように身体内では感知できないようだった。なぜそうなるのかはわからんけど。


『他人の魔力はどうだろう?』


 俺は師匠を探して作業しているところに行くと


「ん? どうした。」

「師匠! もしかしたら魔力を感知できるかもしれません。それで師匠の魔力を感知したいと思いました。」

「そうか。よいぞ試してくれ!」


 俺は師匠に近づいてゆく。およそ一メートル程の距離になったとき師匠の身体の真ん中が冷たく感じられてきた。


「師匠の魔力を感じました。俺は師匠と違って、魔力を冷たく感じるようです。」

「そうか。とりあえず第一段階は出来たと言うことだな!」


 師匠は俺の頭をやさしくなでてくれた。おれは師匠を喜ばすことができて何となく楽しくなった。


『さあ!もうすこしだ頑張るぞ・・・』


 

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