第10話 弟子

聖暦二三一九年六月


 ノエミは麻酔薬と活性薬を生産して村に納めている。麻酔薬は治療前後の患者の痛みを緩和するために必要な薬品である。活性薬は治療魔術の効果を高める働きがあり、手足の切断等の場合の時間が経過することによる治療困難を緩和する効果がある。ノエミの活性薬は同種の他者生産の活性薬より効果が高いらしい。


「ここには麻酔薬に使う薬草を植えているわ。あちらは活性薬の薬草よ。そして向こうにはそれ以外の薬草を植えているの。

 カミー、あなたは薬草の魔力を見るのが最初のお仕事よ。これができないと弟子は失格なの。頑張ってね!」


 ノエミの家は村はずれにあり、一階には寝室が一つと居間と台所と水場、水場は転生前の世界のお風呂場くらいのスペースだ。二階には薬草置き場と俺のベッドがある。横手に研究室、調剤室、薬剤倉庫を兼ねた別棟があった。別棟の裏手には飼育棟があり研究用ラッタが飼われている。


 俺は朝起きると研究用ラッタに餌をやり、その後薬草園を回る。ノエミは俺より早く起きていて薬草の状態を確かめていた。俺は薬草の魔力を探りながら普通でないものはノエミに連絡するとノエミがやって来てその薬草の状態を説明してくれる。


 朝食後、ノエミは研究室で新薬研究をする。俺はノエミが渡してくれた教材を元に読み書きの勉強時間になる。時々進捗を確認されるから手抜きはできない。なにせ、出来が悪いと食事を抜かれるので俺も必死だ。いや、ノエミの手料理は結構うまいんだ。それを抜かれるのは辛い・・・


 午後は調剤の手伝いをする。ノエミは毎日(休日を除き)麻酔薬を二瓶と活性薬を一瓶作る。麻酔薬は簡単そうに活性薬は慎重に時間をかけて作っている。その後は魔力ポーションの元を作っていた。


「ハイ!フアン 納品よ!」

「やあノエミ! 出発は明日だから丁度いいね!」

「その子は?」

「あたしの弟子よ! この間村長のところで弟子にしたのよ。二年ほど村長にお願いしていたんだけど、丁度ダビドが連れて来ていたのよ。」

「へえ~ ダビドが帰って来ていたのか。」

「まだ小さいから一人では来れないけれど、そのうち納品に来させるからよろしくね。 カミー挨拶しなさい。!」

「カミーです。 よろしくお願いします。」

「ほう! 小さいのにちゃんと言えるんだね。おれはフアンだ。こちらこそよろしく。」


 フアンは村の薬局主だ。村でできた薬を帝都へ運び、村では作れない薬剤や原材料を仕入れて販売している。今日はなくなりそうな薬剤を注文して、幾つかの調剤の依頼を受けていた。

 俺はフアンにあいさつした後ノエミとフアンのやり取りを眺めていた。ノエミは毎日調剤を行い一定量が溜まると納品に行く。納品の帰りには食料を買って、空き瓶を発注した。

 今日はノエミの取引先に行くたびに挨拶をした。


 この村に来て一週間たった頃ノエミの呼び方を師匠に変えた。


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いつもお読みいただきありがとうございます。

〇魔力ポーションの元

 この世界の植物の魔力は極小で植物自体からは魔力ポーションを作成することはできません。しかし幾つかの植物には魔力を蓄積することができるものがあり、それらの植物を使って魔力をためやすい水溶液を作成します。これを魔力ポーションの元といいます。

 このポーションの元を魔素だまり近くに置いておくと魔素を吸収して藍色に変化してゆきます。これを魔力ポーションと言い魔力の欠乏を補うことができます。このポーションは魔法戦闘を行うものに特に求められています。

 似た性質のものに魔水晶があります。魔力を持つものが魔水晶を身に着けることにより魔水晶に魔力を蓄えることができます。このようにして蓄えられた魔力は使用することができます。同様に魔力ポーションの元も身に着けていれば魔力を蓄積することができます。時間はかかりますが・・

 また、魔力ポーションには自然治癒力を高める効果もあり一般の人にも役に立つものです。


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