第7話 誘拐3

 夕方遅い目にボンフェラータ侯爵領領都アストルに到着した。ダビドはクリスに道中の手配にお礼を言った。クリスは鷹揚にうなづいた後、いそいそと街中へ入って行った。ガリシアの新星も魔獣を馬車から降ろし、それぞれが荷物を担ぎながら街に向かって行った。フィラディアも軽く会釈して町に向かった。御者たちもいつも通り食事に出かけて行った。


 アダリナが食事の準備を行っているとき、ダビドがエールを二杯持って帰ってきた。


「周りを確認してきた。少々の罠も仕掛けたぜ。」


食事後ダビドは部屋の隅で眠りについた。


「カミーあなたも寝なさい!」

「アダリナは寝ないの?」

「私は馬車で寝ていたから眠くないわ。」


俺は魔力の訓練を行ううち寝落ちしていた。


聖暦二三一九年六月四日


 朝食の準備をしているときダビドがアダリナに


「罠が一つ解除されていた。油断するな!」


 アダリナは小さくうなづいて食事の準備を進めた。


 ガリシアの新星たちが降車したので今は俺たちだけになった。乗車の準備をしているとイケメン男と女の二人連れがやって来て御者と交渉すると馬車に乗り込んでいた。しばらくして司祭様が乗り込んだ。俺たちが乗り込んだ後で商人風の男が乗り込んできた。


『ヤバイやん! イケメン男以外みんな魔力を持ってる。』


 出発してまもなく司祭様から


「レオンにまいります。しばらくの間よろしくお願いします。」と挨拶があった。

「こんな時期にレオンですか? もしかして御栄転でしょうか?」と商人風の男

「先日司教様からレオンへ赴任するように指示がありまして・・・」

「それはおめでとうございます。 ところでご専門は本道(内科)でしょうか?」

「外道(外科)もやりますが、専門は本道です。」


 少し嬉しそうに司祭様は話されていた。商人の男は司祭との会話を活発にしていた。男女二人組は会話には加わらず自分たちだけの世界に夢中のようだった。ダビドは目をつむり一見すると寝ているようにも見える。アダリナはぼんやり外を見ている。俺は

『いつ頃から身体の魔力が見えるようになったんだろう。初めはたまにしか見えなかった人の魔力が、今はいつでも見えている。他の誰にも見えないようだけど俺だけかなあ?確か魔力もちはどこかに所属しているはずだけれど・・・

 とにかく俺は魔力をを持っていることを隠さないとだめだ。目立つことをするとヤバイことになってしまう。本当に三歳ではどうにもならない。知られると利用されてそれで終わりだろう。』


 俺は転生前のことを思い出していた。医学部の学生だった四回生のとき指導教授に利用され、それが原因で中退することになった。そのときの教授とのやりとりが思い出された。


『大きな挫折だったな。思い出したくもないのに・・・立ち直るのに三年はかかったよなあ。

 そして大手企業の科学研究室に勤務して五年ようやく科学の面白さがわかってきたころに出会った女性との交際と突然の失踪。俺は女性を探して回った。その時に尾行されているのに気がついたんだ。俺は上司に尾行されていることを相談した。しかし上司からは気のせいだろうと笑い飛ばされたんだ。でも、あれは気のせいじゃあなかった・・・』


 馬車の中は静かになっていた。商人と司祭様の会話もなくなり馬車の振動が伝わってくる。ダビドは相変わらず眠っている様子だし、アダリナも目を閉じている。俺は魔力の訓練を始めた。


 暗くなりかかったころレオンに到着した。今日は宿屋に泊まることになりレオンの入り口で並んでいる。アストルから来た男女二人が役人に話しかけられ、うまく答えられなかったようで別室へ連れていかれた。商人と司祭様は街の中へ入って行った。


『あれ! 司祭様はお金を払わなかったみたいだ。』


俺たちは街へ入るとダビドが


「ロラン商会が利用する小杉亭に泊まる。」


 とアダリナに告げると先に立って歩き始めた。

 小杉亭はダビド曰く普通の宿屋らしい。俺は何が特別で何が普通かはしらないが食事は村の食事と比較しても道中の食事と比較しても豪勢に感じた。部屋にはベッドが二つあったし、子供用の簡易ベッドもあった。

 ダビドは食後ちょっと出かけてくるといって出て行った。アダリナが


「明日からはまた野宿生活よ!ダビドの背中でちょっと揺れるけどね。」


しばらくしてダビドが帰ってきた。


「緊急連絡はした。」

「そう。」


聖暦二三一九年六月五日


 宿屋で食事を取り出立をした。レオンの門を出てしばらくのんびりと歩いて行く。人の目が少なく途切れるところでダビドとアダリナは服を着替え、ダビドは背中に俺を括りつけると走り出した。途中何度か休憩をとり薄暗くなる頃小屋に着いた。小屋の中には食料と水が置かれていた。食事を取るとダビドが見回りに行き、アダリナと俺は休んだ。アダリナとダビドは交代していたみたいだが俺は寝ていたので詳しくは知らない。そんな小屋どまりが何日か続いた頃大きな街についた。手早く着替えをすますと


「マドリーよ。」


多分、アダリナが俺に向かって言ったと思う。俺には答えようもないがでっかい街だと思った。人混みの中でよくわからないままダビドとアダリナは食堂に入って行った。そのまま裏口の方へ抜け階段を降りたところで男が待っていた。


「ご苦労! その子供は何だ?」

「途中で拾ってきた。どこの村のものかはわからなかったし、急いでいたから連れてきた。」

「報告に行ってもらうが子供は無理だぞ。」

「わかってる。預かって欲しい。」

「よし、しばらく待て!」


しばらくして若い女の人を連れてきた。


「あら! 可愛い! お名前は?」

「カミー三歳。」

「カミー君って言うのね。しばらくの間私とお留守番よ。何かしたいことがある?」

「あのね、おなかが空いたの。」

「じゃあ何か食べましょうか。」


お姉さんは俺を食堂へ連れて行ってくれた。


「今日の賄は何? この子がおなかが空いたって言っているのよ。」

「今日はパエリアだな。ミルクをつけようか。」


俺は目の前に出された食事をおとなしく食べ始めた。


「カミーはどこの村の出身なの?」

「わからない。谷底に落ちていたんだって。ダビドとアダリナが助けてくれたの。」

「そう・・」

「でね、もうすぐ村を探しに行ってくれるって、アダリナが言ってたよ。」


『多分無理だろうけど、とりあえず建前は大切なんだ!ダビドもアダリナもどういうつもりかは知らないけど簡単には帰してくれないだろう。そんな気がするんだ。』


 食事の後はお姉さんの相手をして時間をつぶしていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。


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