第4話 徒然の日々

聖暦二三一七年三月十三日


 夕食が終わってマミーとダディとが今日の出来事を話すため、俺はベッドに寝かされた。


「良い子にしていなさいね。」


マミーはポンポンと軽く俺をたたくと部屋から離れていった。


 俺の家は炊事室につながる食堂兼居間が一つ、ベッドルームが二つ、作業部屋が一つ、そして天井近くにロフトが一つだ。

 ミリーはもう一つのベッドルームにいる。俺の部屋にはダディとマミーのベッドもある。時々夜がうるさいが、それは秘密だ・・・


 マミーとダディの話が続いている。時々カチャカチャ、音がするから酒でも飲んでいるかも知らん。


『俺も飲みたいと思うが、まあくれんわな・・』


 今日は俺にとっても利益があった。魔力を持つものの将来がわかったことだ。治療魔法、調剤魔法、錬金魔法、攻撃魔法などの分野があること。魔力が身体強化に使えることは魔力操作の訓練の過程で知ったが、他にも多くの魔法があるのは嬉しい・・・


 マミーの使う着火の魔法は魔力を指先から炎をイメージして出力することにより発現する。実は内緒で試したんだよ・・・

でかい炎が出てびっくりしたけど・・・

びっくりしただけで済んでほっとしたのは後の話だ。


『内緒だ・・』


 要するに魔法をどのようにイメージするのかということなんだ。例えば医療魔法で『なおれ!』と言っただけではどうにもならないんだよ。まあ、これからは魔力の訓練と魔力を使ってどのように実現するかを研究してゆくことになるかなあ・・・


 等考えている内に寝落ちしていた。


聖暦二三一七年四月


 暖かくなってきたのでマミーに連れられて外に出ていることが多くなった。農家を手伝う傍ら女同士の会話が弾む。


 俺とルースは一緒にかごに入れられ、そばでミリーが花を摘みながらなにやら一人遊びをしている。俺たちの面倒を見るように言われたミリーはさっきまで膨れていたがどうやら機嫌が直ったみたいだ。


 俺は風景を眺めたりマミーやシルビーを見ていたが飽きてきたのでかごの中に寝転んだ。さて、魔力の訓練でもするか・・

 俺は時間ができると魔力訓練をしている。マミーからはおとなしい扱いやすい子供と思われているようだが、実はいつも忙しく訓練している。訓練しすぎて寝落ちすることもしょっちゅうある。

 だが退屈したのかルースが俺の上に乗ってきてたたいたり、転がったりする。身体強化しているので痛くもなんともないが煩わしい。が、無視無視・・・・


 魔力を身体中をそれも指先の隅々まで相当なスピードで巡らすことは当然としてできるし、巡回させながら、指先とか頭とかの一か所に留め置くこともできる。最近は空中に飛び出させた魔力の濃度を濃くすることをしている。これをするとすぐに寝落ちすることができるんだ・・・・


聖暦二三一七年五月


◇◇ある日の朝◇◇


 今日は朝早く目が覚めたので・・・『お漏らししたのは内緒だ・・』マミーが朝食のテーブルに座らせてくれた。ダディが出かける準備をしていた。皮鎧をつけている。


「今日はどんな予定?」

「デビーにボア(猪)を頼まれている。ホロホロチョウもそろそろシーズンかな。」

「ホロホロチョウなら私も欲しいわ。」

「わかったけど獲れたらだね。」

「あっ! 魔石を忘れていない?」

「ん、あ!そうか 夕べ魔石を交換したなあ。」


 といって、作業部屋から真ん中に藍色の宝石がついている銅板を持ってきて鎧の胸にあるポケットに差し込んだ。

 ダディが集中すると胸の中心の宝石のあるあたりから魔力が出てきて身体を循環し始めた。腕を上下左右に振って調子を整えて、言った。


「うん、大丈夫そうだ。」


 皮鎧に腰にはショートソードとナイフを差して、肩に矢筒をかけ手に弓をもって出かけて行った。


 魔石を装着すると身体強化ができることがわかった日だった。


◇◇ある日のダディ◇◇


 村はずれの作業小屋に行くとタックが来ていた。


「早いじゃないか。」

「んっ ちょっとね・・・ 今日はどうするんだ?」

「ボアかディア(鹿)、あとはウサギかな、デビーに頼まれたし。」

「ホロホロチョウもそろそろじゃないか?」

「う~ん・・そうだなあ、後で回ってみようか。」


 俺たちは作業小屋に置いていた背負子を背負うと山に向かって歩き出した。およそ二時間ほど歩くといつもの狩猟ポイントに入る。

 昨日仕掛けておいた罠を巡回してゆく。ウサギが二羽かかっていたので首を軽くひねり血抜きをする。

 しばらく進んでいくと


「ヴォア~ ヴォヴォア~」という声とドスン、ドスン、という音が聞こえた。

「シッ! 静かに!」


茂みをゆっくりと掻き分け、風向きを判断して音を殺して進む。


「へい! スペン 見ろよ。」


ボアが一匹ウサギ罠に足を取られてもがいていた。


「こりゃいいな! 戴きだぜ!」


俺は弓に矢をつがえ慎重に狙いをつけると「シャオッ」っと矢を放った。


『よし当たった!』矢は心臓を貫いていた。ボアはしばらくあがいていたが、突然崩れるように倒れた。タックはボアの牙を避けて近づくと槍でとどめを刺した。


 ボアを木につるし血抜きをしながら


「今日はこれで終わりにしよう。ウサギ罠が残っているから見てくるぜ、お前に荷運びの準備を頼んでいいか?」

「ああいいぜ、行ってこいよ。」


 俺は残りの罠を見に行きウサギ二匹を処理してタックのところに戻った。


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