第3話 春季キャラバン

聖暦二三一七年三月


「また春が来たわ。もう一年したらミリーが王都に行くのね。」


 三月になったある日の夕食時にマミーが言った。


「王都に行くって? なんで?」

「それはね、ミリーが一歳のとき、祝福式で魔力を持っていることがわかったからなの。」

「ふ~~ん・・・」

「毎年春になると王都からキャラバンがやって来て一歳になる子の祝福式と魔力検査をするのよ。そのときに魔力ありと判定されると六歳から六年間、王都にある学校へ行かなければならないわ。

ミリーは去年もシスターとお会いしたわよ。」

「????」

「お菓子をもらったでしょ。」

「あっ! 覚えている。今年ももらえるかなあー?」


聖暦二三一七年三月十一日


「明日キャラバンが到着するらしい。ヘライ村から連絡があったと村長が言っていた。今日はその打ち合わせだ。遅くなるかも知らん。」

「そうなの、じゃあ二~三日は忙しいわね。」


 ダディは夕食のときにそんなことを話して出かけて行った。


聖暦二三一七年三月十三日


 朝食後


「さあ、今日は祝福式だからお着替えをしましょうね。ダディは警備担当だからもう出かけたわ。

ミリー! シスターに元気よくご挨拶するのよ。」

「お菓子貰えるかしら?」

「貰えると思うわよ。

カミー! カミーの祝福式だから、泣いたりしないでね・・・。」

「???」


春の訪れとともに何度かお外に連れ出されていたので特段の抵抗なく出かけた。途中


「ハイ!シルビー、シルビーも今から? ルースもご機嫌みたいね。」

「ハイ!マーサ、今行くところよ。一緒に行く? カミーはおすましさんだけど緊張している?」

「そんなことないと思うけど、外出はあまりしないからかな。」


 シルビーはお隣さんだ。俺よりも少し早くにルースが生まれた。話を聞いていると、今回祝福式を受けるのは全部で五人らしい。シルビーの子供は二人で上の子は二年前に生まれた。今日行くのはルースだけみたいだ。シルビーの亭主のタックはダディと昔からの友人のようで、一緒に組んで狩りをしている。


 広場に舞台が造られその舞台の真ん中にでっかいガラス玉が置かれている。その舞台の前に赤ん坊を連れた男女が整列した。シルビーに抱かれたルースの横がマミーと俺だ。


 村長が王都から司祭の来村を受けて恒例の祝福式を執り行うことと対象になるのは昨年の祝福式以降に満一歳を迎えたもので今年は五名であること等話して祝福式が開始した。

 続いて舞台に立った司祭が女神の加護がどうのこうのと説教を始めた。俺は退屈してついあくびをしてしまった。マミーも身体を小刻みに揺らしている。眠いのをごまかしているのか??

 持っていた杖のようなものを振り回すと広場を温かい風のようなものが包んで説教は終わった。

 その後一人づつ舞台に上がってガラス玉のようなものに触るよう指示があったので、順番に登壇していった。


 ガラス玉に司祭が”よし”と言うまで触るんだ。

 最初の一人は変化なし、二人目はガラス玉がもやもやとしたけどそれで終わり。三人目も変化なしだった。四人目はルースだ。

 ガラス玉は最初もやっとした瞬間ぱっと明るく輝いたんだ。とたんに周りから「ワオー」の叫びと一斉の拍手が起こった。ルースはびっくりしたのか大声で泣きだした。


 俺は二人目のときに胸のうっすらとした光からガラス玉の方に魔力が流れるのを見たけどガラス玉は変化しなかった。ルースのときは胸の魔力だまりからガラスに魔力が吸い込まれて発光したのが見えた。


 『やばい!目立ってしまう・・・』


 俺は全力で魔力が吸い込まれるのを拒否したんだ。結果セーフ・・


 『ああ! 良かった・・・』


 泣き止んだルースは司祭からミリーと同じ水晶のペンダントをもらっていた。魔力の暴走を防ぐ為のもので、ず~っとつけていなければならないとのこと。始めは透明だけど魔力を吸収すると色が変わるんだって。


 祝福式が終わった後ミリーは司祭様の所に行き頭をなでてもらっていた。司祭様はミリーのペンダントを点検するように見ながら、臨時治療院のミース様のところに行くように言った。


 祝福式に併せて聖教会は臨時治療院を開いていた。これは十分な医療を受けられない環境にある僻地のために実施している。普段はナルセアにある治療院へ行くのだが祝福式を待つものも多い。


「こんにちわ! ミース様はどちらにおられますか?」


マミーは臨時治療院の入り口で綺麗な女性に声をかけた。


「女神さまの祝福がありますように。 私がミースですよ。

あなたは・・・ミリーね! 待ってましたよ。」


ミース様はミリーの前で身体を屈め、ミリーの目を見つめながら


「来年、六歳になると王都の学校へ行くので、少しお話をしておきたかったのよ。こちらにいらっしゃい。」


ミース様は近くのテーブルに座るように促した。マミーとミリー、当然抱かれている俺も着席する。まもなく治療師見習いがお茶を運んできた。


「どうぞ、お茶を飲みながらお話ししましょう。」


「来年の祝福式が来たらミリーは私たちと一緒に王都の学校まで行くのよ。もちろん誰かに王都まで送ってもらっても良いけど、一緒に行くのが一番安全だと思うわ。

 魔力を持っていることは女神さまの祝福だけど、きちんとした訓練を受けないと魔力が暴走して身近な人を傷つけることがあるのよ。だから王都できちんとした訓練を受ける必要があるの・・・」


 魔力を持ている人がとても少ないこと。魔力の扱いを訓練しないと危険なこと。魔力を使って治療師や調剤師、魔道具師、錬金術師を目指せること。攻撃魔法を学んで魔術師として王国に貢献するなど、幾多の道が選択できること。

 学校で六年を学び、その後はそれぞれが選択した道にふさわしい師匠の下でさらに必要な年数の奉公をすることになる。治療師の場合は学校終了後、十年間の見習い期間があり見習い期間終了後は村に帰って村の治療師になっても良いし、自分の選択した分野の研究を続けていくこともできるとのことであった。

 学校にいる間は村には帰れないが月に一度は手紙が出せることや年に一回村に帰る機会があること。等々聞いた。


「これでお話は終わりだけど、何か聞きたいことはある?」


マミーが会いに行っても良いのかと尋ねたら


「ご家族なら何時でも面会できるわよ。王都まで来られたらだけどね・・」


そして


「今治療師が治療しているから見ていかない?」とミリーに尋ねた。

「うん・・」


 とミリーが言ったのでマミーと俺はミリーと別れて家に帰った。俺も治療魔法が見たかったが、俺の意思は全く確認されなかった。


 しばらくして、手にお菓子を持ってミリーが帰ってきた。


「どうだった?」

「両手を傷の上にかざして、こうボア~~としたら傷がなくなっちゃった。」

「あなたにもできそう?」

「わからないわ・・・でも・・・出来たら良いなって思った・・・」


「カミーにもあげる!」といってクッキーを半分に割って、更に半分に割ってくれた・・・・

『う・・嬉しいかも・・・』


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