第2話 赤ちゃん生活

 しばらくして目が見えるようになってきた。でかいおっぱいだけだったおっかあも見える。

 おっかあはブロンドだ。目鼻立ちは、まあ整っている。俺の好みだが美人かどうかは知らん。よれたブラウスに大きな前掛け、足元は木靴かな?

 姉が一人いるみたいだ。時々ベッドをのぞき込んでくるのでわかった。

 おっとうは朝早くに家を出て、夕方には帰ってくる。美男子かどうかはわからんが、俺は好きだ。父親だからな!

 ほおずりすると痛い。だからぺちぺちしてやるが堪えているようには見えない。


 部屋は窓ガラスはなく昼間でも暗い。天井には木の梁が見えている。ベッドで寝ていると屋根と窓のほうしか見えない。

 俺はおっぱいとおしめの交換のとき以外はベッドに放置されている。外からは動物の声、鳥のさえずりが聞こえる。早く外が見たい。


 今日はびっくりした!

 おっかあが指から出た火で灯りをつけている。

・・・魔法があるんだ!・・・

 俺はなんか嬉しくなった。次はきちんと見ておこう。


 おっかあが左手でペンダントトップを握りしめ、右手の指先を燭台に近づけ「〇〇」と口にした。

 そしたら指先から火が出たんだ。

 でも時折、ペンダントトップを持つ左手がぴかっと光ると左腕から胸の真ん中をくるりと一回りして右腕を通って指先まで光が走るのが見えるときがある。


 『〇〇』って詠唱しているんかなあ?

 身体の中の光って何かなあ・・・

 魔力???


聖暦二三一六年六月二十九日


 おっかあが俺を抱っこして食事室(兼居間)へ行くとおっとうと姉が食卓に座っていた。俺たちが食卓に座ると、おっとうが立ち上がり


「ミリー! 五歳の誕生日おめでとう!」


 そしてこれはおっとうとお母さんからだよと言ってミリーに髪飾りを渡した。

 ミリーは大喜びで、おっかあに髪飾りをつけるように頼んだ。そのあと食事になったが俺はまだ食べられないのでベッドに戻された。

 ミリーはとても可愛いと思った。


聖暦二三一六年七月十日


 今日やっと俯せになることができた。

 この間から頑張っていたんだよ。身体をエビにそらせて何度も、そして今、俯せになった。さあ今度は手で身体を・・・う~んとちょっとまだ無理だね。


 身体が俯せになると視界が変わる。床が見えるようになるんだ。

 床ではミリーがお人形さんとお話をしている。お人形さんごっこだね!

 最近言葉も少し覚えてきて姉がミリーでおっかあがマーサ、おっとうがスペンと言うんだ。俺はカミーと呼ばれている。


『きれいな金髪だ!』って

ミリーの髪の毛を見ていたら目が合った。

ガバッと立ち上がってベッドの横に来て、


「カミー!」


にっこりと笑って手を伸べてきたので、俺も嬉しくなって


「キャッキャ!」といった。


さらにほっぺたに手を伸ばし、つんつんしてきた。俺は防ごうとして手を出そうとしたが俯せのため手が動かせない。残念だが、俺はミリーのつんつん攻撃に耐えるしかなかった。


 ミリーのペンダントはきれいだ! 薄赤色の水晶のようでキラキラしている。おっかあのペンダントとは違う。おっかあのは濃い藍色で小さいんだ。ミリーのは親指くらいある。

 ミリーの胸の真ん中に光の塊があってゆっくりと本当にゆっくりと回転している。その光がペンダントの水晶に向かって流れ込んでいるのが見えるときがある。

 最近、普段見えないが見ようと思うと見えるようになった。


聖暦二三一六年八月十三日


 最近はハイハイができるようになったのでベッドの中を這い回っている。言葉も大体わかるようになったし、声もだせるようになった。そろそろベッドは退屈してきたのでフロアを這い回りたいがおっかあに油断はない。


 ミリーは「ミー」っていうとすごく喜ぶ。R音の発音が難しいのでミリーとは言えない。おっかあは「マー」時々「マミー」と呼ぶ。おっとうは「ダッツ!」としか呼べない。本人は自分を指さして「ダディ!」「ダディ!」と言うんだが難しいんだよね。

 おっとうは俺を抱き上げるとすぐほおずりする。髭が痛いのでぽかぽかたたいて「めっ!」て言うんだけど聞かない。俺の頬が削れたらどうしてくれるんだ。


聖暦二三一六年八月二十五日


 ベッドの手すりを支えにつかまり立ちができるようになった。俺は嬉しくて「うぉー、うぉー~」と叫んでたら手が滑って尻もちをついた。勢いで下を向いたら俺の胸が光っている。


『俺も光っているやん・・・・』


 そのまま目をつぶり、胸の真ん中に感覚を伸ばすとどろっとしたものがあった。


『なんだろう?・・・』


 どろっとしたものを動かそうと集中していたら急に眠くなり、ベッドの上に倒れてそのまま気を失ってしまった。


聖暦二三一六年十二月十七日


 最近は離乳食を食べるようになって家族と一緒に食卓を囲むようになった。マミーが俺の右隣に、ミリーが左隣に座る。俺は一段高い椅子に座り、向かいにダディが座る。これが我が家の食卓風景である。

 ミリーが何かとかまってきて俺の口に食べ物を押しつけてくる。

 『ちょっとまってまだ口のなかに食べものがある。』


「まっふぇ、まなくち・・」


 食べられないって言うのにスプーンを押しつけてくる。苦しい・・・


 今日は俺の誕生日らしい。ダディが誕生日の宣言をして、新しい靴をプレゼントしてくれた。今は手すり伝いに歩ける。手すりがなくとも二~三歩は歩けるんだが、冬なので家の外に出てはだめらしい。春まで外はおあずけだってさ・・・・。


 内緒の話だけど、実はもう歩ける。魔力操作で身体強化して歩けるし走れるんだ。でも誰にも内緒にしている。転生前の記憶で自分以外は信じてはだめだって事を経験したから、家族から聞いた他人がどんな悪さを仕掛けてくるか予想できない。だから誰にも知られないってことが自分を守るし家族も守ることになるんだ。


 胸にある光を知ったとき、その光を動かそうとした。何度も気絶するように眠ったけれど続けるうちに少し動かせるようになった。

 みんながいないときや寝静まった深夜に、少しづつ、少しづつ動かしていった。そのうち身体の中を循環できるようになったころ、うっかり手すりに手をぶっつけたら手すりが壊れた。その勢いで床に落ちたけれど痛くなかった。あわててベッドに戻り寝たふりをしたんだ。そして身体が強化されていることがわかったんだ。

 今ではかなりのスピードで循環できるし、身体の外に飛び出させることもできるようになった。そんなわけで毎日が訓練の日々となっている。

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