第9章   もうひとつの視点 〜 3(2)

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 そしてちょうど同じ時分、幸喜が乾杯の顔付きを見せていた頃だ。ゆかりが一人タクシーに乗って、家路とは別の方向へ急いでいた。店を出てから携帯を見ると、電話とメール着信が山のようにあったのだ。

 ――まったくもう! 

 腹立ちを越えて呆れかえっていたが、数ヶ月前ならこんなのも幸せに感じたはずだ。

 ところが最近、思い出すだけで嫌気がさすのだ。そしてこのまま無視し続ければ、携帯はとことん鳴り続けることになる。つい最近もこんなことがあって、仕方なく電源を切ったことがあった。その時男は家の前にまで現れる。チャイムが鳴ってドアを開けると、門扉の端で睨みつけるような目で立っていた。

 そんなことがあって、そろそろ潮時かとは思っていたのだ。そう思いながらも、なかなか切り出すことができないでいた。だからとにかく今夜のところは、男の欲望を鎮めてしまうしか術がない。近いうちに必ず、しっかり別れを切り出そう。そう心に誓って、男のアパートへ大急ぎで向かった。

そしてそんなゆかりを知りもせず、由子もタクシーの中にいた。

 ただ、由子の場合は一人ではなくて、後部座席に幸一も一緒に陣取っている。

「わたし、ぜんぜん呑み足りないんだけど、本田くん、もしよかったらさ、これからもう一軒付き合ってくれない?」

 小料理屋を出た途端、由子がそう言い出したのだ。そして残された四人はそんな二人をただ見送った。由子はすぐにタクシーを呼び止め、駅名と店の名前を運転手に告げる。

「駅のそばにあるちっちゃな店なんだけど、うるさい客はまず来ないし、なかなかね、いい店なんだ」

 由子の行き付けに向かうと聞いて、幸一はやっと笑顔になった。

「俺もさ、今夜はみんなの手前呑まなかったけど、実はずっと、ビールが呑みたくて呑みたくてさ……」と、まさに嬉しそうな顔を見せる。

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