第7章   変化 〜 3(3)

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「そう、たった二ヶ月だし、わたしも電話しないから、幸一くんもこの二ヶ月間、わたしのことなんか忘れて、絶対、勉強がんばってね」

 そう言って、直美はさっさと電話を切ってしまうのだった。

 受験までの二ヶ月電話をしない――というのも、少しでも勉強に専念させたいという一心だろう。それにしたって、

 ――たまの電話くらい、したっていいじゃないか……。  

 そんな思いがないわけではなかった。しかし高校に受かってしまえば、これまで以上に会うことだってできる。ところがだ。もしも不合格なんてことになれば、

 ――俺は、中学生浪人ってことになる。

 そうなってしまえば、そうそう直美と会ってばかりってわけにはいかないだろう。

 だから絶対に避けなければならない。

 そして高校に入っても、精一杯直美と一緒に勉強する。

 さらにできることなら……、一緒に大学生活を送りたい。

 それが無理でもできるだけ、彼女の生活に寄り添っていたかった。

 となれば、やっぱり直美が言うように、

 ――死に物狂いで、頑張るしかないってこと、だよな……。

 電話のあった数時間後には、彼もそう思えるようになっていた。

 とにかくそんなこんなで、それからはまさにラストスパートという必死さを見せる。

 ところが本番直前、最後となった最終模試でも合否判定は五分五分。

 それでも後は、運を天に任せるしかない。

 幸一は素直にそう考えて、直美にもらったお守りを手に試験会場へ向かった。

 そうして試験が終了し、やっと終わったという喜びを、直美と共有したい心の底から思うのだ。

 この二ヶ月とちょっと、本当に直美から連絡がなく、幸一も意地になって―― というより、沖縄の電話番号を知らなかったというのもあるが――電話を掛けようとしなかった。

 母親はまだ、直美と一緒に沖縄にいるはずだ。

 そして父親の方も、こんな時刻はきっと会社にいるだろう。

 だからと言って、このまま家に帰る気には到底なれない。

 ――とにかく、行くだけ行ってみよう! 

 万に一つでも稔と会えれば、試験が終わったと電話を掛けてもらえるだろう。

 もちろんダメならダメで仕方がない。

 そう思い、試験会場からまっすぐ直美の家へ向かったのだ。

 冷静に考えれば、それは明らかに無意味と言える行動だ。

 それでもこの時、幸一は引き寄せられるように直美の家へ足を向けた。

 そうして案の定、家に人のいる気配はまったくない。

 ところがそんな現実を知るより前に、想像もしていなかった真実を聞かされることになったのだった。

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