第7章 変化 〜 3(4)
3(4)
「もう、二ヶ月くらいにはなるかしら……」
――なに言ってるんだ、このおばさん。
「今度はずいぶん厳しい状態らしくてねえ……奥さんなんて、もうほとんど病院に行きっぱなしなのよ、大変よねえ……」
――病院じゃねえよ! 直美はな、今、沖縄にいるんだぜ!
「緑地のそばにあるじゃない? 昔からある大きな国立病院。やっぱりまた、直美ちゃんそこに入院してるのよ」
――緑地のそば……大きな国立病院……。
まるで、遠くの方から聞こえてくるようだった。
――直美ちゃんが……入院している。
頭の中で、そんな言葉がぐるぐる回った。
ついさっき、門から中を覗き込んでいた幸一に、
「あら、直美ちゃんのお友達?」
そう声を掛けてきた婦人は、向かいの家に住んでいると言った。
「直美ちゃん、どんな具合なの? 最近お家の方、いつも誰もいらっしゃらないから、あなた、何かご存知ない?」
さらにそう告げてから、幸一の顔をまじまじと見つめる。
そんな問い掛けに、幸一もちゃんと返事をしたのだ。
沖縄で静養している――そんな感じを声にして、目の前にいる中年女性へしっかり笑顔まで向けた。
しかし次に返される言葉によって、声にならない思念だけが彼の脳裏を駆け巡る。
「え? 知らないの? 沖縄? ぜんぜん違うわよ。直美ちゃん、ずっと入院してるんだから。もう、二ヶ月くらいにはなるかしら……」
そしてそれは、昔っからある国立の病院……。
と、なれば、それは幸一も知っているあの病院のことなのか?
――嘘だ! そんなの嘘に決まってる!
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