27 知りたい数字

「――全てを打ち明けて謝ったの。けれど、レオンさまはお怒りにならなかったのよ」


 キャロルは、自室のバルコニーで紅茶を飲みながら、ガーデンテーブルの向かいに座ったタリアに話しかけていた。

 サイドカウンターには、レオンから贈られた九本の薔薇がある。いろいろと障がいはあったが、無事に九夜目までを終えた。


 あと三輪。

 三つ夜を越えたら、キャロルは王太子妃になる。


 大好きな人と結婚する日が、すぐそこに近づいていると思うと、喜びが湧き出して踊り出してしまいそう。

 だが、キャロルには、気軽にそうできないわけがあった。


「ねえ、タリア。どうしてわたくしは、人の『好き』と言った回数が見えるようになってしまったのでしょう?」


 この能力が無くならないかぎり、キャロルの罪悪感は消えない。


 タリアは、レモンカードをたっぷりのせたスコーンを食べる手を止めた。

 妊婦は酸っぱいものほど食べやすいらしく、飲み物の紅茶にもレモンがたっぷりしぼられている。


「十二夜がはじまる前日に、急に見えるようになったとのことでしたが、何かきっかけはありませんでしたか?」

「心当たりはなくてよ。朝起きたら、タリアやマルヴォーリオの頭のうえに数字が見えていたの」

「朝起きたら、ですか。何かあったとすれば、その前日ですね。頭をぶつけられたり、悪いものをお召しになったりなさいませんでしたか?」

「していないわ」


 十二夜がはじまる前々日は、じつに平穏な一日だった。

 レオンとお茶をして、セバスティアンと食事をして、タリアやマルヴォーリオと会話をして――眠る前に、明日はもっともっと良い日になるように、祈って眠った。


「眠るまえのお祈りの時間に、レオンさまにふさわしいお妃になれますように、と神様にお願いしたけれど……」

「それは関係ないと思います。急に見えるようになったなら、急に見えなくなるかもしれません。今は、十二夜に集中なさってください。王太子妃になられたあとで、原因を探していきましょう。私もお手伝い致しますわ」

「ありがとう、タリア!」


「その、つかぬことをお聞きしますが……」


 タリアは、言いにくそうに切り出した。


「私の『好き』と言った回数は、どのくらいなのでしょう?」


 どうやら自分の数字が気になって仕方なかったようだ。

 キャロルは、タリアの頭上に目を凝らした。


「106,705回よ。昨日、マルヴォーリオに会ったのね」

「どうしてそれをご存じで?」

「数字が増えているもの。わたくしに挨拶に来てくれたマルヴォーリオも、かなり増えていたわ。二人が愛し合っている証ね。三ケタしかないセバスお兄様にも見習わせてさしあげたくてよ」


 このままでは結婚できないのでは。

 独身貴族になる心配をしていると、タリアはふふっと微笑んだ。


「セバスティアン様はあまり感情的になられないお方ですが、ああいう方ほど運命の相手には熱をあげるものですわ。キャロル様がご心配されずとも、いずれシザーリオ公爵家も奥様をお迎えしますよ」

「そうだといいけれど……」


 ふと、キャロルは自分の上を見上げた。

 青く高い空に、白い雲がたなびいているが、数字らしきものは、影も形も見えない。


「わたくしの数字は、どのくらいなのかしら……」

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