第3話 消えた遺体

「確認した。いくつか質問したい」


そうリュウジはアオイに写真を返すと質問をした。


「冒険者のレベルは?」

「リーダーの戦士が20年で冒険者レベルはCランク。後はヒーラーが経験が2年でパーティには最近加入したようです。ランクはE。レンジャーと残りの戦士が経験6年でランクがD。魔法使いが経験3年でランクEです」


 冒険者には経験や実績、能力によって冒険者ギルドが独自に格付けしたものがある。一番上がSSランク。一番下がFランク。

 登録したばかりの新米は、Fランクである。ちなみにSSランクは百年に一人いるかいないかレベルの超人に与えられる。

 例えば、巨大なドラゴンを一人で倒したドラゴンバスターとか、魔神を一人で倒すことのできるデビルバスターに与えられるのだ。

 冒険者ランクCというのは、冒険者としてはかなり強い位置づけとなる。

 なぜなら、ランクはクリアしたクエストのポイントで昇格するが、年数を積み重ねて上げられるランクはCまで。

 ランクCでギルドに登録されるクエストのほとんどを受けることができる。ランクCというのは、普通の冒険者が最終到達するポジションなのだ。

 その上にあるBランクになるには、かなり困難なクエストをクリアし、冒険者ギルドだけではなく、行政府や国の有力者による推薦があって得られる地位なのだ。

 ランクCのベテラン冒険者がリーダーを務めるパーティが全滅したのだ。クエスト自体が、かなり難しかったと思われる。


「……魔法使いの使える魔法は?」


 リュウジの質問は続く。アオイはその質問を予想していたのでよどみなく答える。


「ファイアーアロー、スリープクラウド、ストーンブラスト、コンティニューライト、ファイアボム、ストレングス、スローのうち、1日に7回程度です」

「ヒーラーの魔法は?」

「軽いけがを治すヒールが3回。麻痺を解除するスタンブレイクが1回、解毒するアンチポイズンが1回です」

「……パーティの持ち物リストは?」

「冒険に出る前に確認したのが、ここに一覧になっています。実際に出るまでに補充した可能性もありますが、時間的にはあまり考えられません」


 リストに目を通したリュウジは、コツコツとテーブルを指で叩いた。

 そして、他の書類に目を通す。書類はギルドが事前に把握していた冒険者の個人情報。そして、これまでのクエスト達成の記録。派遣された救出部隊による報告書などだ。


「……これを見る限り、冒険者たちの作戦ミスが失敗の原因であるという結論になるが……」


 これはアオイたちギルド情報部での見解と同じであった。

 特殊能力がある優秀なボスに率いられていなければ、魔法耐性が低いグレイウルフは、スリープの魔法で全員眠ってしまい、そのまま全滅させることも可能である。

 魔法がなくても地形をうまく生かして戦えば、30頭程度の群れならベテラン冒険者の力量で十分である。

 パーティにはランクEとはいえ、スリープクラウドが使える魔法使いがいる。どう考えても冒険者たちの方が戦力が上であった。


「やはり、敵のボスの能力が予想以上に高かったのでしょうか?」

「いや、冒険者はそれを見越して防衛戦を選択した。これは正しい判断だ。しかし、実際の運用でミスすることは珍しくはない」

「そうですか……」

『冒険者側のミス……』


 これはギルド側にとって好都合な結論である。それを決める調査官の言葉はこの件に関して責任を感じているアオイにとってはうれしいはずだが、彼女は素直に喜べない。

 なぜなら、リュウジはそう言ったが、アオイはそれがリュウジの本音ではないと感じた。語尾に彼の感じる疑惑がにじみ出ていたからだ。

 冒険者がクエストに失敗し、命を落とす原因は主に3つだ。

 1つはクエストとのマッチング。ギルドが冒険者の実力とクエストの難易度を間違え、実力以上の仕事を斡旋してしまった場合。

 基本的に自己責任とはいえ、明らかなマッチングミスはギルドの責任を問われる。 

 それにより、冒険者の遺族が裁判所に訴えるケースもある。

 訴えられた場合には、ギルドとしては説明責任を果たし、潔白を証明しないといけないのだ。裁判で負ければ、賠償金の支払いを命じられるし、職員も処罰される。

 2つ目はクエストの調査ミス。これもギルドの責任だ。依頼されたクエストは、きちんと依頼内容と情報を聞き取り、それがおおよそ間違いがないということを予備調査で確認することが、冒険者ギルドには求められている。

 そのために各ギルドには調査専門の部隊がある。

 主にベテラン冒険者からなる調査部隊は、現場に赴き、クエスト内容を調査し、依頼内容や難易度を把握するのだ。

 この調査が甘いと冒険者たちに予想外の困難が降りかかり、全滅してしまうことがあるのだ。

 3つ目は冒険者自身の問題。実力的には十分達成できても、実際に実力を発揮できずに全滅してしまうこともある。仲間割れや諍いが原因で全滅することもある。


(基本的には3つと言ったが……冒険者が全滅する理由はまだある……)


 その理由の一つは誰もが知っていることではない。ごく一握りの人間だけが知っている。多くの人間は知る必要はないことでもある。


(今回の場合はそれではない……しかし、一番の疑問は……)


 リュウジが不審に思うこと。それは冒険者の遺体が全員分見つからないことだ。

 グレイウルフに負けて食われてしまったとしても、食い残しや装備の一部が現場にあるのが普通だ。

 見つかったのはレンジャーの男の遺体のみ。それもグレイウルフに食われた見るに無残な状態であった。


(残りの4人の遺体は不明だ。現場にはおびただしい血の跡はあったが、遺体の痕跡は消えていた……・グレイウルフが住処に運んで行った形跡も見受けられなかった……)


 無論、このことは誰もが不審に思うこと。グレイウルフ以外に大型のモンスターの出現で丸のみされた可能性も出てくる。となると、ギルドの調査が甘かったことにもなる。


(なるほど……。いろいろと面白いことがありそうだな……)


 リュウジは用意してあった書類をめくりながら、様々なケースを想定して仮説を立てる。こういう時のリュウジの集中力はすごく、周りからの刺激は一切受け付けない。

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