第331話姉妹達の成長(ジェイデン)
「私はこの国の為、自分に与えられた力を使って役に立ちたいと思っています。私は憧れのお姉様のようになりたいのです」
皆の前でそう宣言をしたブレティラ。
ブレティラは全属性を受けてから自分に何が出来るかを深く考えたのだと思う。
いや、きっともっともっと前からブレティラは考えていたんだ。
最初は憧れの姉であるカメリアの真似だったのかもしれない。
見よう見真似で剣術を学び、魔法を学び、そしてブレティラはカメリアの友人達に囲まれながら成長してきた。
カメリアは凄い女性だ。
ブレティラも、目標とするカメリアと同じ事が出来るようになるためにはどうすればいいか……と最初は考えた事だろう。
だけどブレティラは成長していくうちに、カメリアの真似ではなく ”自分” というものを持つようになった。
そしてブレティラは自分と歳の近い友人たちと出会い、彼らの為に何がしたいか、何が出来るかを考え出した。
カメリアが商売に手を出し、この国の繁栄に貢献しているのならば、ブレティラは違うところに力を入れたいとそう思ったのだろう。
ブレティラの友人にはマリーゴールド嬢とルシファー殿下がいる。
マリーちゃんは 「常に怪我をしている」と言っていい程、生傷が絶えない可哀想な子だった。
カメリアがいつもマリーちゃんの為にぬり薬を準備していた事をブレティラはずっと見ていた。
そしてルシファー君。
ルシファー君がカメリアの母上と同じ病気で、父上がどうにか新薬を開発したとはいえ、今もまだ苦しんでいる事をブレティラは知っていた。
それに孤児院の子供達のこともある。
病気や怪我で両親を亡くし孤児院に預けられた子供達。
ニコラから孤児院の話を聞いて育ったブレティラは、きっと自分に何か出来る事はないか……と考えたのだろう。
そして母上の兄であるヨハネ叔父上と運命的に出会った。
俺はヨハネ叔父上と会った時 「以前の事は許します」 と、そう伝えるだけで終わっていた。
だけどブレティラは父上と同じくヨハネ叔父上の領地の薬草に興味を持った。
そして普通に叔父と姪として手紙のやり取りを始め、そして薬作りにも興味を持つようになったのだろう。
「私はいつか万能薬を作りたい。病気や怪我で苦しむ人をこの国から無くしたい。皆様どうか私に力を貸してください、お願いします」
そう言って皆に頭を下げたブレティラを見て、俺は愕然とした。
ブレティラはなんて凄い女性になったのだろう……
妹だけど俺よりもずっと先を見ている。
ブレティラは幼い頃から何にでも興味を持つ子だった。
それはカメリアの影響があっての事だったし、カメリアの友人達からの影響もあっただろう。
そしてそれらを全て、ブレティラは自分の力にした。
カメリア達から学んだことを身に付け、ブレティラは自分のやるべき事をあの歳で見つけ出した。
自分との余りの違いに胸が痛くなる。
カメリアもブレティラも、スピネル侯爵家の本当の子供なのだと思い知らされる。
そう、二人共父上によく似ているのだ……
カメリアもブレティラも、父上と同じスピネル侯爵家の血が流れていると感じさせられた。
自分とは違う、「道を切り開く、力強い意志を持つ人間」 だと、二人には思い知らされた。
それに対し、俺の中にはあの醜い男の血が流れている……
俺が心から尊敬し、憧れる父上はカジミール・スピネルであっても、俺が似ているのはあの男だと思い知らされる。
カメリアの事が好きで好きで仕方がない事も、あの男から受け継いだ ”執着心” ではないかと不安に思ってしまう。
カメリアを誰にも渡したくなくて、俺だけを見ていれば良いのにと、そう思ってしまう自分の固執した思いも、あの男似ているからではないかとそう感じてしまう。
小さな頃から、俺の中はカメリアが全てだった。
だからカメリアの真似をし、カメリアに少しでも近づきたいと、俺は色々と努力してきた。
だけどその中に ”俺の意思” と言うものがあっただろうか。
カメリアに気に入られたい、カメリアに好かれたい、カメリアに喜ばれたい……俺はそれだけだった。
いずれスピネル侯爵家を継ぐという決意も、父上や母上、それにカメリアにずっと愛されていたいからだ。
俺は一体何者なのだろうか……
俺がやりたい事とは一体なんなのだろうか……
俺にはそれが全くない。
カメリアとブレティラの前を向いて突き進んでいく姿を見て、自分という人間のつまらなさを強く感じ、只々二人が眩しくて……そして羨ましいと思った。
養い子のニコラだって、夢中になれる物を自分の力で見つけ、今やカメリアやスピネル侯爵家の役に立っているのに、俺はまだ何もしていない。
自分が空っぽな人間だと感じ、足元が崩れ落ちて行くような感覚を覚えた。
カメリアに相応しい人間になれたと思っていたけれど、それは幻だった。
俺には自分で作り上げたものが何もない。
その上あの男と同じ危険な人間でもある。
ブレティラに拍手を送りながら、自分の小ささと 『異様』 さに只々愕然とした出来事だった。
「ジェイデン様、大丈夫ですか? 顔色が余り良くないようですが……」
皆が帰った後、自室でボーっとしていた俺にドオルが声を掛けてきた。
気が付けばもう夕食時。
俺はどうやらショックが大き過ぎて、動けなくなっていたようだ。
情け無い。
本当に自分が憐れな奴だと感じる。
大っ嫌いなあの男に、似てきているからだ。
声を出さず頷いて答えるだけの俺に、ドオルは尚更心配をしたようで、力が抜けソファーにもたれかかっている俺の前に膝を付くと、熱がないか、脈はおかしくないかと調べ始めた。
そしてドオルは優しい声で「疲れですね」とそう一言呟くと、夕食は部屋で摂れるようにセッティングしてくれた。
今日はもうカメリアとブレティラに合わす顔が無かったので、俺は素直にそれに従う。
食事を摂る気にはなれないが、これ以上ドオルに心配を掛けるのは流石に恥ずかしいし、情け無さ過ぎる。
するとドオルは膝をついたままの姿勢で俺と視線を合わせると、俺の気を紛らわせるためなのか、笑顔になり自分の話を始めてくれた。
「ジェイデン様、実は私は……4人兄弟なのです」
「えっ……? えええっ? そ、そうなの?!」
「……はい……」
当然の告白にふさぎ込んでいた思いが一瞬で消しさり、驚きだけが俺の心を締める。
ドオルは驚いた俺が可笑しかったのかクスクスと優しく笑うと、その4人兄弟の話をしてくれた。
「ジェイデン様もご存じのように、私の姉はメイでして、私達は双子なのでいつも比べられておりました。姉のメイは何をやっても完璧、弟の私は、と言うと……最低限のことは出来るけれどメイと比べれば落ちこぼれ、ずっとそう言われてきました」
「そんなことないよ! ドオルは落ちこぼれなんかじゃない、俺の素晴らしい傍付だ!」
「フフッ、はい、ジェイデン様、有難うございます」
確かにメイは完璧メイドだろう。
筆頭侯爵家の娘付になる程のメイドだし、普段の様子を見ても優秀だと分かる。
だけどドオルがメイより劣るだなんて、俺は一度も思った事はない。
素直にそのことを伝えると、ドオルは照れながらも喜んでくれた。
「そして私の妹がマイです。あの子はメイドには向かないのでは……と言われる程おっちょこちょいな性格の子でしたが、それでも今は立派にブレティラ様付きのメイドとして働いております。そして今度、一番下の兄弟である弟のデイルがニコラ様付になる事が決まりました」
「そうなの! それはおめでとう! いや、有難うかな? ドオル、弟さんにニコラを宜しくって伝えてね」
「フフッ、ええ、はい、伝えます。ジェイデン様も弟を宜しくお願いしますね。実はその弟のデイルですが……あの子はヤンチャ過ぎて執事など絶対に無理だろうと私達の親は諦めていました。ですがカジミール様はデイルのそこがいいと仰って下さったのです」
「そこがいい……?」
「はい、人はそれぞれ個性があります。それに成長の速さも一人一人違います。カメリア様やブレティラ様は猪突猛進で……いえ、目標に向かって突き進む強さのある女性です。そしてニコラは、いえ、ニコラ様は閃きを見つけそれを形にする力がある……私にはそんな風に見えております」
「うん……俺もそう思う……みんな凄いよね……」
カメリア達と自分の差を、ドオルの言葉でまた実感し、上手く笑えなくなる。
そんな俺の手をまるで安心させるようにドオルは握ってくれた。
ドオルの手は凄く温かい。
俺をいつも守ってくれる……そんな温もりだ。
いつも一緒にいるドオルには、俺が話さなくても不安が伝わっていたようだ。
俺にとって兄のような存在のドオル。
ドオルは自分よりも背が高くなった俺をそっと撫で、ホッとするような笑顔を向けると優しくまた語り出した。
「ジェイデン様にはジェイデン様の良さがあります。ジェイデン様の優しさはマリア様に似た素晴らしいところだと思いますし、周りへの気遣いが出来るところはカジミール様にも無い素晴らしい才能です」
「ドオル……」
「ジェイデン様はもっと自分に自信を持って良いのですよ。筆頭侯爵家を継ぐ、それは誰にも出来る事ではありません」
「……でも、でも、それはカメリアやブレティラがいずれ嫁ぐからで……」
「いいえ、違います。それはジェイデン様の落ち着きある姿をカジミール様が高く評価して下さった結果です。ジェイデン様は充分に素晴らしい、私はそう思います」
「うん……ドオル、そうだね……有難う……」
ドオルの言葉は素直に嬉しかった。
励ましの言葉かも知れないし、父上の本心は分からないけれど、スピネル侯爵家を任せても良いとそう思って貰えた事は事実だし、自分にも出来る事があると分かって嬉しかった。
カメリアやブレティラのように自らの手で何かを動かす事は俺には出来ないかも知れない。
だけど与えられたものを大切にする。
俺はそれが出来るとそう気付かせて貰った。
「ジェイデン様、それにジェイデン様はまだ若い、成長はこれからですからね。それにジェイデン様よりずっと年上の私でさえも、最近やっとセバスさんに一人前だと認めてもらえたばかりですし……」
「えっ? 最近? ドオルが最近認められたの?」
それって、セバスの基準が高すぎるだけなんじゃ……
俺の考えが顔に出ていたのか、ドオルはまたクスクスと笑い出した。
メイはスピネル侯爵家に来て直ぐに認められたので、セバスの評価が高すぎるって事は無いそうだ。
本当かなー……
「フフフッ、はい、そうなのです、最近なんです。なのでセバスさんの領域の執事に達するのはいつになることか……私もジェイデン様付きの執事として恥ずかしくない自分でありたい、そう思いますからね……」
「フフッ、そうだね、お互いこれからだ。ドオル、有難う。俺、すっごく心強いよ」
ドオルの励ましのお陰で、今俺に出来る事をとにかく頑張ろうとそう思えた。
カメリアやブレティラがやりたい事を見つけたら、俺はそれを後押し出来る程の力を付けておけばいい。
父上が母上を守ってくれたように、俺もカメリアやブレティラを守れる男でいたい。
あの男のようには……絶対にならない。
それだけは絶対に見失ってはいけない、俺の目標なのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
ジェイデン様とドオルのお話―。長くなってしまいましたー。二話分は有りますね(;'∀')
ドオルは普段飄々としていますが優秀な姉が居たのでそれなりに悩んでいました。双子というのも大きかったですね。だからジェイデン様の気持ちが良く分かると思います。メイ、ドオル、マイ、デイルの四兄弟です。デイル……もしかしたらトオルになっていたかも。最後まで悩みました。(笑)
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