第328話久し振りの勉強会

 今日はスピネル侯爵家での、久しぶりな勉強会。


 その勉強会用に準備されたスピネル侯爵家の大きめの応接室は、以前は子供部屋とも呼ばれ、集まった子供達がゲームをしたり、勉強をしたりと、ワイワイガヤガヤと賑わっていたのだが、私達の年齢が上がるにつれて、落ち着きのある図書館の勉強スペースの様な部屋へと様変わりしていた。


 勿論イネスの為にピアノも部屋には置いてあり、そしてルイーズやバミールの為に今も変わらず玩具も一応は置いてある。


 そんな中、一番出席率が低いラファエル君も忙しい合間を縫って今日は久しぶりに我が家に顔を出していて、勉強を……ではなく、友人とゆっくり話をしている。


 その話し相手はなんとジョン君で、そしてもう一人は自称ジョン君の弟子だと言っているルベライト商会の次男坊カーマンだ。


 商人である二人からの視点でこのダイアモンド王国の街がどう見えるか、そして他国の様子などもラファエル君は二人に聞いているようだ。


 ヴァルラム王子も他国の情勢は気になるらしく、珍しく可愛い女の子達にフラフラする事もなく、真剣にジョン君達の話を聞いている。


 今日みたいにいつも真面目顔でいればヴァルラム王子ってもっとモテるのでは? とちょっとそんな失礼な事を思ってしまったが、アイリスに言わせると、普段は女の子達にキャアキャア言われたいからわざと軽男のフリをしているんだろう……との事だった。


 うーん……そうなのかしら? わざとと言うよりは、あれはヴァルラム王子の性格じゃないのかしら?


 いや、どちらかというとムーンストーン王国出身者がかかる病気? みたいなものじゃないかしら?


 それにヴァルラム王子は情熱的な恋の国生まれの王子様だもの、ダイアモンド王国の女の子達が夢中になるのも当然だ。


 女の子達は本気の恋というよりは、前世のアイドルに夢中になっている女の子達のようで、ヴァルラム王子の笑顔にただ癒されているだけのような気がする。


 そう、ヴァルラム王子は女の子の笑顔に癒され、そして女の子達は王子様の笑顔に癒される。


 つまりお互いウインウインの関係なのだろう。


 そんな女の子大好きヴァルラム王子が、今日は珍しく大好きなアイリスの側にまったく寄って来ない理由は、というと……それは……


「アイリスさんは、どんな男性がタイプなんですか? それとアイリスさんは学園のアイドルと呼ばれていますけれど、それについてはどうお考えですか? あと、アイリスさんは結婚と恋愛は別物だと思うタイプですか? どうですか? どうお考えですか?」


 そう、アイリスの横にはカーネリアン侯爵家の長男、ジャクソン君が張り付いているからだ。


 ジャクソン君ってばイポメアちゃんから今日の勉強会の話を聞き出し、そして自分も(恋愛の)勉強を一緒にしたいとイポメアちゃんに泣きついたようだ。


 イポメアちゃんから半泣き状態で「カメリアお姉様、ジャクソン様をお誘いしても宜しいですか?」と聞かれた私は勿論「うん」と頷くしかなかった。


 だってもし駄目だと断ったならば、ジャクソン君ってばずっとイポメアちゃんに絡み付いて来そうだものね。


 イポメアちゃんを守る為ならば、この私がジャクソン君への人身御供になりましょう! とそんな覚悟をもって受け入れてみたけれど、ジャクソン君が選んだ相手は悪役令嬢の私ではなく、やっぱりそこはこの世界のヒロインのアイリスなのだった……うん、当然だよね。


 アイリスは何と言ってもその見た目がハチャメチャ可愛いし、ジュエプリ学園でもモテモテ女子だ。


 恋愛学大好きなジャクソン君が、そんなアイリスの話を聞きたいと思うのは当然のこと。


 きっとジャクソン君は毎日アイリスを観察したいぐらいだと思う。


 そんなジャクソン君にターゲッチューされたアイリスは嫌がっちゃうかなー? と思ったけれど、勉強会を開いてみれば意外や意外、アイリスとジャクソン君の二人は、なんと恋愛話で盛り上がっていた。


「私は~、恋愛の延長上に結婚があると思っててーん、もしぃ彼氏が出来たらぁん、先ずはデートとかをイーッパイしたいかな~んって思ってるんだー」

「でーと? ですか? それは僕の知らない言葉ですね。でーととは一体どういう事を行うのでしょうか? もしかして恋人同士の共同作業とかですか?」

「キャハッ、ジャクソン君ってば面白ーい。ある意味共同作業ぉーってのは間違ってないけどーん。うーんとぉ、恋人になったらぁー。街にお出掛けしたりー、ピクニックに行ったりーん、それからー、『こいつー』『てへっ』みたいなことを二人でしてー、海で追いかけっこしたりする事がデートっていうものなのーん」

「……ほう、つまりでーととは婚約者同士が親交を深めるために一緒に出掛ける……って事でしょうか?」

「うんもうっ! ジャクソン君ってば固いよ、固いー! そうじゃなくってーん、もっとー楽しい感じのやつぅー。デートってラブラブしちゃうやつなのーん。お揃いコーデとかで夢の国とか行っちゃうやつがデートだよーん。分かってーん」

「……お揃いコーデ? やはりそれは婚約者同士で夜会に出席する話では?」

「キャハッ、ジャクソン君ってばナスターシャ先輩より頭が固ーい。もう、ジャクソン君、恋愛は自由なんだぞっ。もっと常識から外れて柔軟に考えなきゃ、ダメなんだぞっ、キャハッ」

「……っ! 恋愛は自由……! 何と素晴らしき名言! 流石アイリスさんです!」

「よーし、私が恋愛ってものをジャクソン君に色々と教えちゃおっかなー。ジャクソン君、私のことー師匠って呼んでも良いんだぞっ。てへっ」

「はい! アイリス師匠! ご指導宜しくお願い致します!」


 アイリスとジャクソン君の会話は色々とツッコミどころ満載だが、何故か誰も口を挟まない。


 まあ、皆他のことに夢中って理由もあるんだけど……関わりたくはない……というのが本音かもしれない。


 ラファエル君やジョン君たちは相変わらず国外の話に夢中だし、ジェイとマッティア君は小説についていつものごとく話し合っている。


 それに無理矢理ついてきたジャクソン君から無事に解放されたイポメアちゃんは、イネスの傍に行き奏でる曲に合わせ歌を口ずさんでいる。


 ニンファーちゃんとディセントラちゃんは仲良く刺繡をしていて、ベルちゃんは外へ飛び出して行ったブレティラとニコラのお守り役で付いて行ってくれた。


 まあ、ベルちゃんが本当に面倒を見る相手は、ブレティラとニコラではなく、大暴れしそうなジェイダイト兄弟とユリウスだったりするんだけど、いざとなったらセバスティアンが様子を見てくれるって言っていたから問題無いでしょう。


 そんな皆が自由に動く中で、アイリスは前世の記憶を使い、ジャクソン君に色々と恋人同士の行いという物を話して聞かせる様だ。


 アイリス……お願いだからジャクソン君への恋愛の教育は、この世界の貴族の常識から外れすぎることは避けてあげて欲しい。


 アイリスの事だ、きっと面白おかしく ”デート” の話をジャクソン君にする事だろう。


 それにすぐ調子に乗るアイリスの事だ、下手をしたら出来たばかりのスピネル領のダンジョンが、この世界で一番良いデートスポットだと話し出すかもしれない。


 勉強会とは名ばかりの友人たちの集まりの中、ジャクソン君とアイリスの恋愛話が心配すぎて、盛り上がる二人の傍へと覚悟を決めて座った私だった。


 恋愛話は苦手なんだけどねー。


 でもアイリスを止めるのは私しかいないでしょう。


 ジュエプリのキャラたちって本当に自分勝手だな……ゴホンッ、いいえ、個性豊かだなと感じた私だった。


 アイリス、嘘はいけませんからねー!

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