第326話こうなることは分かっていたさ……フッ。(カジミール)

 可愛い末娘のブレティラと、養い子のニコラの属性検査へとやって来た。


 屋敷を出発する際、心配し過ぎるカメリアのせいで少しばかりバタバタとしてしまったが、属性検査を受けるブレティラとニコラは緊張した様子もなく堂々としたものだった。


 その姿を見て、ほんの数年前のカメリアとジェイデンの属性検査を思い出す。


 カメリアとジェイデンもまた、よその子達とは違う大人びた様子で属性検査を受けていたものだ。


 そう、我がスピネル侯爵家の子供は良い意味でも、悪い意味でも注目を浴びてしまう。


 私が優秀過ぎる当主だと噂されている要因もその原因だが、まあ、何よりも一番の原因はスピネル侯爵家がこの国の筆頭侯爵家だという事実だろう。


 特にカメリアやジェイデンの時は、後妻のマリアの事も有り悪い噂の方が多かった。


 だがカメリアとジェイデンの二人は、属性検査でそんな輩を黙らせた。


 そしてブレティラとニコラはといえば、優秀過ぎる姉兄のせいで余計なプレッシャーがあるはずなのだ。


 だが二人共それを全く気にしない度胸の持ち主。


 ブレティラとニコラも、やはりカメリアやジェイデンと同じように魔法界の神に愛されていると深く感じた。


 そう、普段の二人の様子から私にはそれがよく分かっていた……そう、よーーーく分かっていたのだ。


 なのでこの属性検査を迎えるにあたり、サント・ニコラスのオッサン、いや、大司祭様に私は手紙を書いたのだった。


『大司祭様、我が家の末娘のブレティラと、養い子のニコラの属性検査の時期がやって参りました。たぶん、いや確実に、この子達二人も ”神に愛されし子” だと思われます。カメリアやジェイデンの時のように全属性を授けられる可能性も多いにあると私は予想しております。どうぞそれを踏まえ、ご準備して頂けたら幸いです。カジミール』


 そう、親の欲目を抜きにしても、ブレティラは幼い頃からとても優秀だった。


 カメリアもそうだったのだが、ブレティラはなんにでも興味を持ち、身に付ける努力を怠らなかった。

 

 いや、なんにでも……と言うのはおかしいか?


 カメリアの場合は、ジェイデンの為ならば何でもやった……と言う方が正しい。


 そしてブレティラの場合は、そんな姉(カメリア)に憧れ、姉(カメリア)に近づこうと、姉(カメリア)の友人達から、余計な事を……ゴホンッ、いや、色々と教わり、それを独自に学び成長した……というのが正しいだろう。


 まあ、多少……多少、お転婆になってしまった部分はあるが、そこは天使のような見た目だけで十分に補えるほどの魅力がブレティラにはある。


 それに我が愛しの妻マリアの教育のおかげで、貴族令嬢としてどこに出しても恥ずかしくない程の教養も身につけた。


 我が娘達は天才であり、完璧な令嬢。


 カメリアもブレティラも、自信を持ってそう自慢出来るほどの娘に育ったのだ。


 そしてニコラもまた、そんなブレティラの影響からか、スピネル侯爵家にきて元々持っていた才能を開花かせた。


 学ぶことが楽しいと、ツィリル教授の下へ通っては、新しい魔道具を発明している。


 ジェイダイト家の息子二人や、アゼツライト家の息子と遊ぶ機会が多いからか、生み出す魔道具は強力で危険すぎる武器なうえに、到底売り出せない物が多いのだが、それでもあの歳で魔道具を作り上げる事が出来ると言うことは類い稀ない才能だと思っている。


 なので私は分かっていた……


 そう、ブレティラとニコラが魔法界の神より多くの属性を授かるだろうことは分かっていたのだ。


 


 そしてブレティラの属性検査が始まれば、案の定、強力な風と炎が合わさった様な爆炎が立ち上がり、そしてその風がどうにか収まったかと思うと、ブレティラの意思の強さを表すかのような真っ赤な火柱が、ブレティラが手を入れた銀盆(属性検査魔道具)を包み込んだ。


 その様子にブレティラは炎と風に愛されている子だと、私とサントのオッサンは確信した。


 良かった、ブレティラは二属性持ち(で済んだ)かもしれない……


 そんな思いが浮かんだが、いやいやいやと自分自身にツッコミを入れてしまう。


 何故ならブレティラは、あの天才少女カメリアとその友人(悪ガキども)が育てたと言っても過言ではない少女なのだ。


 二属性では流石に少ないだろうと、私の中の魔法狂いが囁く。


 だが、正直親としては二属性ぐらいで済んで欲しい……とブレティラを心配する気持ちが込み上がる。


 子供には出来るだけ負担を掛けたくない、そう思うのが親心だろう……


 だが、ブレティラが銀盆(属性検査魔道具)から持って出た属性の魔石は、濃い赤いまん丸な石の中に、様々な宝石が散りばめられているような、大きな魔石だった。


 ああ、やっぱりか……と自分の中で納得する気持ちが溢れ出る。


 ブレティラの属性検査の結果は、その魔石の大きさから見るに、魔力量もカメリアに匹敵する程多く、そして全属性である事が私とサントのオッサンにはすぐに分かった。


 ハハハ……もう笑うしかないだろう。


 予想通りだ。


 私だけでなく、隣にいるサントのオッサンも、別におかしくもないのに口元が緩んでいる。


 全属性を持つ子供など、本来はこの国で百年に一度出るかどうかの奇跡なのだ。


 それなのに我が家に、これで三人も全属性持ちが出てしまった。


 頭が真っ白で、思わず笑いが出てしまうのも当然と言えるだろう。



「お父様、大司祭様、私、これでお姉様にまた近づけましたわ!」と素直に喜ぶブレティラの頭を、私は無言で撫でる。


 ブレティラは喜んでいるが、これで益々スピネル侯爵家が世間から注目される事は確実だ。


 その上絶対に多くの妬みも買うことだろう。


 まあだがそれを守り抜く事こそが私の使命。


 ブレティラもカメリアも、私の可愛い娘だ。


 必ず守ってみせる!


 私はブレティラを撫でながら、改めてそう決意していた。





 そして今度はニコラの属性検査の番となった。


 カメリアがその才能を見出し、我が家の養い子として育ったニコラ。


 うん……嫌な予感再びだ。


 絶対に一属性などと平凡な(普通の)結果では無い気がする。


 私が無我の境地を開きそうになる中、ニコラの属性検査が始まると、竜巻の様な強風がニコラが手を翳した銀盆(属性検査魔道具)を包みこんだ。


 そして雷の様な光と轟音が、その銀盆(属性検査魔道具)の中で巻き起こり、ニコラを祝福しているような美しい光をはじき出した。


 そんな中、時折ニコラが「まって、もっとみたいよ! ゆっくりゆっくり!」 とか 「えええっ、何これどうなってるのー?」 などなど……何やら叫んでいる声が聞こえ、サントのオッサンと思わず苦笑いを浮かべた。


 こんな時でさえ、ニコラは楽しんでいるようだ……


 そして辺りが静まり返ると、ニコラはゆっくりゆっくりと銀盆(属性検査魔道具)から手を引き出し、満足そうな笑みを浮かべ魔石を持って私の前にやって来た。


「カジミール様! あの魔道具、凄かったです! 僕また属性検査受けてみたいかもー! えへへー」


 そんな興奮気味なニコラの魔石の形は、これまた珍しい物で、三角形の建物のようだと見てとれる不思議な物だった。


 そして勿論その三角の石の中には、ブレティラと同じように様々な色の宝石の粒が煌めいていて、私とサントのオッサンは「やっぱりな……」とどちらともなくため息を吐いた。


 そんな私とサントのオッサンを見てニコラが心配げな表情となる。


「あの……カジミール様、もしかして僕の属性はおかしい物だったのですか? 騒ぎ過ぎたから神様に嫌われちゃったかなー、どうしよう……」


 私とサントのオッサンが苦笑いしているのを見て、ニコラはそう感じた様だ。


 しゅんと項垂れる姿がまた可愛い。


 本当にうちの子は天使としか言いようがない!


 魔法界の神に愛されてしまうのもうなづける!


 そんな可愛すぎるニコラを安心させる為に、私はまずは頭を思う存分なでなでし、ニコラと視線を合わせる為に膝を折った。


「ニコラ、君は全属性を授かったよ。素晴らしい、流石我が息子だ」

「えっ? えっ? じゃあ、もしかして、ブレティラ様と同じですか?!」

「ああ、そうだよ。ブレティラと、それからカメリアとジェイデンとも同じだ。ニコラ、君は素晴らしい。スピネル家の養い子として自分に自信を持ちなさい」

「はい! カジミール様、有難うございます! やったー!」


 ニコラは全属性が嬉しいというよりも、兄姉と同じだったという事が何よりも嬉しい様だった。


 検査部屋から出ると、すぐにマリアとブレティラに駆け寄りお互いの検査結果について話し始めた。


 それを見つめる私の肩に、サントのオッサンがポンッと手を置いた。


「カジミール、いや、スピネル侯爵殿、これでまた王家に報告が必要ですな……ホッホッホッ」


 そう言って楽しそうに笑う大司祭様に、私はただ頷くしか無かった。


 うん、まー、結果は最初から分かっていたけどねー。


 我が子が天使過ぎて胃が痛い。


 少しだけ魔法界の神を恨んだ私だった。





☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

更新お待たせいたしました。やっと投稿できます。まだまだ体調はスッキリしませんので、様子を見ながらのんびりと投稿していきたいと思います。m(__)m


カジミールさん、意外と苦労人ですよね。子供たちが皆全属性って……頑張ってミルパパ!

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