第325話属性検査(ブレティラ)
泣き出しそうな程私とニコラを心配するお姉様を残し、待ちに待った属性検査へと向かう。
私は幼いころからこの日をずっと心待ちにして来た。
本当はこの国では属性が分かるまで子供は魔法を使うことは出来ない。
教育を受けていないからだ。
だけど私も、そしてニコラも、これまでルイーズちゃんやバミールちゃん、それにユリウスちゃんから、魔法を使って遊ぶ事をたっぷりと教わって来た。
だから多分私もニコラも、今日の検査を受けて属性が一つだけ……という結果は出ないと分かっている。
スピネル侯爵家の者は火属性を持っている者が基本らしいけれど、実は私は木登りで良く使う風魔法が一番得意なのだ。
お父様やお母様には内緒にしているけれど、お姉様やお兄様の学校の魔法教育の本を私とニコラはこっそりと見てお勉強している。
「ブー、魔法が使えれば俺と本気で戦えるぜっ」
と、ルイーズちゃんにそう言われたのはいつだっただろうか?
「ブー、早く魔法覚えてカメリアみたいに俺を空へと飛ばしてくれよなっ」
と、バミールちゃんにそう言われたのはいつだったかしら?
「ティラー、誰かに悪戯したくなったら俺に言ってー、とーっておきの魔法をティラになら特別に教えてあげるよー」
と、ユリウスちゃんにそう言われたのはいつだったのかしら?
ルイーズちゃんもバミールちゃんもユリウスちゃんも、私を子供扱いするのではなく、遊び相手と認めて色々と教えてくれた。
そのお陰で私はもう普通に魔法が使える。
そう、それは自分と歳が近い子には絶対に負けないと自信が持てるくらいにね。
三人のいたずら坊主と遊んでばかりだと私がお転婆になるってお父様は苦笑いで心配していたけれど、こうやって魔法の能力が伸びたのもそんな三人のお陰だから、お転婆な部分は少し多めに見て欲しいと思う。
「ブレティラ様、大神殿が見えて来ましたよー!」
普段年上のバミールちゃん達よりもよっぽど落ち着いているはずのニコラが、今日は興奮している。
馬車の窓に張り付き、可愛い顔で大神殿を見つめている。
ニコラはずっと昔からこの国にある、属性検査の魔道具を今日ジックリと見れることが楽しみで楽しみで仕方がないらしい。
昨日の夜は興奮し過ぎて中々寝付けなかったのだと、朝私だけにこっそりと教えてくれた。
だけど今日の事を思うと早く寝なければと焦り、お姉様から教わった、「ジュエリーが一匹、ジュエリーが二匹……」と数を数えて眠る方法を実践していたらどうにか眠る事が出来たらしい。
流石お姉様よね。
博識だわ!
そんな可愛いニコラは、魔道具を作る才能がある。
その才能もお姉様が見出したのだから、お姉様ってやっぱりすごいと思うの!
そしてニコラはツィリルお兄様の弟子になってから、お姉様にも負けない程の魔道具を作り上げられるようになっている。
ニコラは普段は大人しい男の子に見えるけど、それはバミールちゃん達と比べての事だ。
スピネル侯爵家に来てから私の弟として一緒に過ごすうちに、バミールちゃん達を注意出来る程の力を身につけ、お姉様に「第二のイネスね」なーんて呼ばれていたりもする。
だって喧嘩しているバミールちゃんとルイーズちゃんを止める事が出来る人間がこの国にどれほどいるのかしら?
悪戯しようとウキウキしているユリウスちゃんを、嗜める事が出来る人間がこの国にどれほどいるのかしら?
ニコラ本人は気がついていないけれど、ニコラだってスピネル侯爵家の子として、そして私やお姉様、お兄様の弟として立派に成長しているの、何てったって私の自慢の弟ですもの、当然でしょう。
だからきっと、私にもニコラにも素晴らしい属性がつくと思うの。
他の人が聞いたら「何馬鹿な事を……」って笑うかもしれない。
だけど私には、そんな自信が不思議とあったの。
私とニコラは特別。
お姉様やお兄様に愛されて、そう思えるようになっていたの……
「大司祭様、ご機嫌よう、ブレティラ・スピネルです。本日は宜しくお願い致します」
「大司祭様、こんにちは、スピネル侯爵家の養い子のニコラです。今日は宜しくお願いします」
「ブレティラ、ニコラ、良い挨拶が出来ましたねー。ホッホッホッ、二人共すっかり大きくなって……久しぶりに会えるのを私も楽しみにしていましたよ」
お姉様とお兄様が学園に入るまで、魔法を教えて下さっていた大司祭様が私とニコラを出迎えてくれた。
大司祭様はお父様にも魔法を教えていた先生なので、私とニコラの事もとても可愛がってくれる、優しいお爺様のような存在だ。
普通ならば大司祭様自ら子供をお出迎えすることはないらしい。
スピネル侯爵家の子供だから、わざわざお出迎えして下さったのだ。
そう、大司祭様はお姉様とお兄様が属性検査で素晴らしい結果を出した事で、きっと私とニコラにも何かしらの結果が出ると分かっているのだと思う。
特別室に行く間にも普通の司祭様が私達に近づいて来ようとした。
けれど大司祭様は視線だけでそれを止めていた。
お姉様とお兄様はこの国の保護対象になる程の有名人。
全属性を持つお姉様とお兄様は、普通の司祭様達にとって憧れの存在みたいなのだ。
だからどうにかして近づきたいと、そんな人達が沢山いる。
大司祭様はそんな煩わしさから私達を守るためにきっとお出迎えして下さったのだと思う。
お姉様が大司祭様は「サンタさんって幸せを運ぶ妖精さんなのよ」って言っていたけれど、本当にそうだと思う。
優しくて、強くて、笑顔が素敵な大司祭様。
大司祭様のニコニコ笑顔を見ているだけで、不思議と属性検査への緊張は消えていった。
そして待合室に通される。
遂に属性を調べる時が来たのだ。
「ホッホッホッ、さてさて、ブレティラとニコラ、どちらから検査を受けますかなー?」
大司祭様にそう声を掛けられ、私とニコラは視線を合わせる。
お父様とお母様はどちらからでも良いよと仰ったので、私はニコラの姉として先に検査を受ける事にした。
本当はニコラと一緒に検査のお部屋に入って、ニコラがどんな属性を受けるのか見たかったけれど、姉弟であってもそれはダメらしく、お父様が付き添うそうで、とても残念だった。
「ブレティラ様、頑張って下さいね! 僕、結果を楽しみにしていますからね!」
可愛い弟のニコラに憧れの籠もった目で見つめられれば、姉として頑張るしかない!
それに私は魔法の力が欲しい。
家族だけじゃなく、困っている人も助けられる、そんな力が欲しいから。
ニコラに笑顔で頷いた私は、大司祭様とお父様と一緒に検査室へと足を踏み入れた。
この国の人たちを私の力で少しでも幸せに出来たら……
そんな願いを持ち、私は属性検査室へと向かったのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
さてさてブレティラの属性検査です。どうなるか……まあ、想像は付きますよね。(笑)
そしてニコラもすっかりスピネル侯爵家の一員です。イネスと同じおかん属性を持ちつつあるニコラ。検査結果が「おかん属性」とでたらカジミールとサント先生はどうするでしょうか。やってみたいかも。
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