第324話ブレティラの成長
「それでは、お姉様、お兄様、行って参りますね」
「カメリア様、ジェイデン様、僕も行って参ります!」
今日はブレティラとニコラの属性検査の日。
10歳になり少し大人びたブレティラは、すっかり身に付いた淑女の微笑みを浮かべ、お留守番役の私とジェイにお出掛けの挨拶をする。
ジェイダイト兄弟やユリウスと、庭や屋敷内で暴れていたお転婆なブレティラは今はいない。
高位貴族令嬢として、そして筆頭侯爵家の娘として、美しい所作を見せる、どこに出しても恥ずかしくない、素敵な御令嬢だ。
そしてその横に立つニコラは、属性検査が楽しみで仕方がないといったキラキラした笑顔を浮かべている。
何故なら属性検査では、国宝級の魔道具に触れる事が出来るからだ。
多分自分の属性が何になるかなんてニコラにはどうでも良い事なのだろう。
ツィリル先生の弟子として立派に育ちつつあるニコラは、すっかり魔道具馬鹿になっているようだ。
だけどその天真爛漫な笑顔は、ツィリル先生の妖艶な笑顔とはまた違った意味で武器になりそうで怖い。
可愛すぎるからね。
そんな二人の天使の成長を目の当たりにした私は、朝から涙が止まらなかった。
だって……
だって……
ブレティラとニコラの属性検査について行けないだもんっ!!
そんなの私には拷問でしかないでしょう?!
ジュエプリの一ファンとして、そして勿論可愛い妹と弟を愛する姉として、この大、大、重大イベントに参加出来ない事は、首を絞められ以上に辛い事だった。
「ううう……ブレティラ、ニコラ、頑張ってね……でも無理してはダメよ。属性検査のお部屋が怖かったら、ううう……逃げて良いのだからね……、お姉様が代わりに受けてあげますからね……ううう……大丈夫ですからね……」
「もう、お姉様ったら、心配し過ぎです。ブレティラは……いえ、私は大丈夫ですわ。お姉様とお兄様の妹ですもの、立派な属性を頂いて参りますわ」
「ブレティラ!!(なんて立派になったの!!)」
「カメリア様、大丈夫ですよ。僕がしっかり属性検査の魔道具を調べてきます! フフフ……そして魔道具の中身をじっくり盗み見して来ますからね! 楽しみにしてて下さいね!」
「ニコラ!!(頼もしくなって!!)」
二人が心配で仕方ないアンド一緒に行けない残念さに、私がブレティラとニコラを抱きしめ泣いていると、後ろから大きなため息が聞こえた。お父様だ。
後は馬車に乗るだけで出発といった状態で、私が今生の別の様に泣き出したのできっとお父様は呆れているのだろう。
だけど、お父様は分かっていないのだ。
だってお父様は可愛いブレティラとニコラと一緒に属性検査に行けるから!
二人の親というだけで、こんなにも素晴らしいイベントを間近で見ることが出来るお父様はズルい! ズルすぎる!
それもマリア様と一緒にお出掛け出来るという特典付き。
マリア様の夫と言うだけで、なんて素晴らしい待遇を受けているんでしょうかっ!
私を見て(どうだい? 羨ましいだろう?)とでもいうかのようにニヤリと笑うお父様を、憎らし気にキッと睨んで見せると、私の目にはある人物が飛び込んで来た。
「そうか、そうですよね! そうすれば良いんです!」
「カメリア? どうした? もう挨拶は終わっただろう? ブレティラとニコラを離しなさい、私達は出発するぞ」
「ズルいお父様は黙っていて下さい! そうです、セバス! セバスティアン! 体調が悪そうですね、今日は一日休んでいて下さい。代わりに私が貴方の仕事を請け負います。私が張り切ってお父様のお世話を致しますわ!」
「カメリア……」
「カメリア様……」
そう! そうなのです!
セバスティアンはお父様の側付きとして属性検査について行く。
つまり私がセバスティアンの代わりになれば、私が属性検査に行ける! ということだ。
なんて妙案! 素晴らしいですわ! 私!
ブレティラとニコラを両手で抱き締めながら、セバスティアンに期待顔を向けた私に、お父様はフルフルと首を横に振った。
本当、憎たらしいーーーっ!
「カメリア……カメリアがセバスの代わりをするのは流石に無理がある……せっかくの休みなんだ、カメリアも偶には自宅でゆっくりとしていなさい……」
「お父様、そんなの無理に決まっていますわ! 今日は可愛い二人の属性検査ですよ! 自宅でゆっくりなんてしていられません!」
「カメリア……落ち着きなさい……このままでは二人が遅刻してしまう。それにほら、ブレティラとニコラが君を心配しているよ……」
「お姉様」
「カメリア様」
「ふううーーー、ブレティラー、ニコラー、ううう……」
私はもう一度二人をギュッと抱きしめる。
ジュエプリのゲーム内では存在しなかったキャラクターのブレティラとニコラ。
だけど普通に考えれば、ブレティラはスピネル侯爵家の子供として火属性になる事だろう。
そしてニコラは、平民(モブ)として何の属性も持てないかもしれない。
だけど、幼い頃から攻略対象者達とたっぷりと接して来たブレティラとニコラ。
どう考えても普通に終わるだなんてあり得ないことだ。
その場合、良ければ沢山の属性が受けられ意気揚々と帰ってくるだろうが……
下手をしたら何か事件が起きて命の危険があるかもしれない。
その時に側にいられないだなんて絶対に嫌だ!
ブレティラとニコラの事は私が守りたい。
ゲームの補正で二人を失うかもしれないという恐怖から、中々離れられない私を見兼ねたのは、マリア様とジェイデン様だった。
「カメリア様、大丈夫ですわ。ブレティラとニコラには私がついております。何の心配もいりませんわ」
「お母様……(マリア様……)」
「リア、大丈夫だよ。スピネル侯爵家の馬車をあからさまに狙う様な愚か者はこの街にはいない。スピネル侯爵家は町人達から愛されてる。皆がブレティラとニコラを守ってくれるよ」
「ジェイ……(ジェイデン様……)」
そう、本来ならば嫌われているはずのスピネル侯爵家は今はどこにもいない。
筆頭侯爵家以上の存在として貴族達からは一目置かれ、カメリアが悪役令嬢っぷりを披露していないので、この国の平民からも好かれているスピネル侯爵家。
だから何も心配はいらない。
ゲームとは違うはず。
私の心の中の二大スーパーアイドルに肩を抱かれ、ちょっとだけ心が落ち着きを取り戻す。
どうにかブレティラとニコラを離した私を、優しいジェイが安心させるようにギュッと抱きしめてくれた。
久しぶりのジェイの温もりに、きっと二人は大丈夫だと、不思議とそう思えた。
「「では、行って来ます」」
元気よく返事をした二人を乗せた馬車を見送りながら、心配する以上にお父様を羨ましく思った私だった。
お父様ってば! 本当にズルいっ!
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