第323話可愛い新入生②
「ジョン君、お疲れ様、今日は売店は大忙しでしょう? 微力だけどお手伝いに来ましたわ」
「カメリア様、アイリスさん、ありがとうございます。とっても助かります!」
今日は新入生たちの備品販売の日。
教科書などの教材は前以って自宅に届けられているのだが、部活動の道具類などはジュエプリ学園の売店で受け取りとなっている。
各部に入部を決めた生徒たちは、その足で備品を売店に注文し、その品が大体一週間ぐらいで届く予定になっているため、直ぐに入部を決めた一年生たちの荷物は今日この売店で渡す予定だ。
なので今日から一週間ぐらいがジュエプリ学園の売店の、年間ピークの忙しさになる為、人手が必要だろうと、私とアイリスが友人のジョン君の下へと駆けつけた。
「フフフ……筆頭侯爵家のご令嬢にお手伝い頂ける商店なんてウチだけでしょうねー……カメリア様、ご無理はなさらないで下さいね」
「ジョン君、私がやりたくってお手伝いさせて貰うんだから気にしないで、それに学園では皆平等よ。筆頭侯爵家もなにも関係ないわ」
「カメリア様、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます……」
「おい、ジョン君、俺には? 男爵家のご令嬢様の俺にはなんか言う事無いのー?」
「フフフッ、はい、アイリスさんもありがとうございます。でも今日はつまみ食いはダメですからねー」
「ういー、分かってるってばさっ」
アイリスはジョン君ともゲイルさんとも仲がいいため、良くインタリオ商会へ行っては店のお手伝い? をしているらしい。
お小遣い稼ぎだーとアイリスは言っているけれど、以前は平民で宿屋の娘だったアイリスは、人と接する仕事が好きなんだと思う。
マリアホテルの件があった為、クロサイト男爵夫妻はアイリスがインタリオ商会へ行くことに反対はしていないようだ。
スピネル侯爵家と縁が深いインタリオ商会なので、それも当然なのかもしれない。
それにアイリスが「商人になるのも悪くはないよなー、ウッシッシ」とこぼした言葉を、「ジョン君のお嫁さんになりたい」とクロサイト男爵夫妻は変換した可能性もある。
インタリオ家は準男爵だが、この国一番の商会といえるので、クロサイト男爵夫妻がアイリスの嫁ぎ先として考えるのは別に不自然ではない。
ただし、アイリスはおやつが食べ放題になるから「商人いいなー」と思っているだけ、それに前世の記憶の中の商品を作って貰いたいから「商人いいなー」と思っているだけ、クロサイト男爵夫妻の誤解はいつか解いておきたいと思う……アイリスは全く気付いていないようだからね。
「ジョン君、いえ、ジョン先輩、こんにちは!」
間もなく新入生の商品引き取り時間となったところで、赤髪に濃い緑色の瞳の、ちょっとそばかすがある可愛らしい男の子が声を掛けて来た。
その小柄な男の子は、ジョン君とは顔見知りだったようで、当然のように売店の裏口から入ってきて、キラキラした瞳でジョン君を見つめている。
もしかして小さいし、一年生ではなく、ジョン君の親戚か何かかしら?
ううん、でも外部の子が勝手に学園に入ってこれるはずがない……
じゃあ、やっぱり新入生なのかな?
と、そんな事を考えていると、「カーマン」とジョン君が少年を呼び、驚いた顔を見せる。
そして他のインタリオ商会の従業員メンバーは少年を見て何だか微妙な表情だ。
困っているような、それでいて微笑ましいような……そんな顔をして二人を見ている。
カーマンに駆け寄り目じりを下げ乍ら「入学おめでとう!」と喜んでいるジョン君を見ていると、私達の視線に気が付いたジョン君が、赤髪のカーマン君を私達に紹介してくれた。
「カメリア様、アイリスさん、この子はカーマン・ルベライト……あー……簡単に紹介すると、僕の幼馴染で、新入生です」
「カメリア先輩、アイリス先輩、初めまして、ルベライト準男爵家次男、カーマン・ルベライトです。そして僕は尊敬するジョン君の弟子でもあります、どうぞよろしくお願いいたします!」
「カメリア・スピネルです。カーマン君、どうぞ宜しくね」
「アイリス・クロサイトでぇーすぅ。カーマンくぅん、宜しくお願いしまっすぅ。てへっ」
「はい! 宜しくお願いします! 僕、お二人にお会いできることをとても楽しみにしておりました! それに大好きなジョン君にもこれから毎日会えますし、この学園に入学できて今最高に幸せです!」
ニコニコとご機嫌な様子で笑うカーマン君は、どうやらジョン君のことが大好きなようだ。
幼馴染とジョン君は紹介してくれたけれど、これまでインタリオ商会内でカーマン君を見かけたことは無かった。
そしてしょっちゅうインタリオ商会に顔を出しているアイリスも、カーマン君とは初顔合わせのようで、「カーマンは子犬みたいなやつだな」と笑っていた。
そう、カーマン君は自身も新入生なのに「僕もお手伝いしますね!」と宣言した後は、ジョン君の後を雛のようにトコトコと付いて回り、仕事をお手伝いしているから子犬のように見えるのだ。
ジョン君もそんな懐いてくれるカーマン君の事が可愛いのか、本当の弟のように思っているように見て取れた。
それにカーマン君は商会の作業になれているのか、手際も良い。
将来インタリオ商会の跡を継ぐジョン君の良い相方になってくれるのでは? とアイリスとこっそり話していると、一人の従業員さんがカーマン君のことを教えてくれた。
「カーマン様は、ルベライト商会の次男坊なんですよ……」
「……ルベライト商会って、元学園の売店を受け持っていた商会ですよね?」
「はい、カーマン様と坊ちゃまは商会繋がりで、幼いころから親同士が顔を知っている、そして本人たちは幼馴染と呼べる間柄なのですが、我がインタリオ商会が急激に発展したため、ルベライト商会の会頭にインタリオ商会出禁にされたらしいのです。坊ちゃんと会うのも本当に久しぶりなのでしょう。あんなに嬉しそうにして……こうして見ると二人共まだまだ可愛い年頃ですね……」
「そうなんですか……カーマン君はライバル店の息子さんなんですね……」
「ええ……」
あんなにも仲がいい二人だけれど、ライバル店の息子同士という事で、カーマン君はジョン君と遊ぶことも、そして会う事もお父さんに止められてしまった様だ。
まあ、商会の規模を追い抜かされたお父さんの立場としては、ベンさんに対しライバル心メラメラだったんでしょうね。
だけどベンさんの方はルベライト商会など気にもしていない、そんなことよりも新商品の方が大事……きっとカーマン君のお父さんは相手にされなくって尚更悔しかっただろう。
根っからの商売人であるベンさんのそんな様子が簡単に思い浮かんだ。
「ジョン君、僕、これから毎日売店を手伝いますね!」
ニコニコ顔でそう宣言したカーマン君はやっぱりとっても可愛かった。
ただし私はアイリスが「カーマン、カーマン、カーマーン♪」と小声で歌った歌が耳から離れなくなった。
そんな歌を聞きながら、二人の関係が良いものになることを祈った私だった。
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