第322話可愛い新入生

「カメリアお姉様ーーー!」

「イポメアちゃん!」


 二年生の学校生活も無事に始まり、一年生も普通授業が始まった頃合いで、ラファエル君の婚約者候補として知り合ったイポメアちゃんと一緒にお昼を摂ることになった。


 イポメアちゃんと出会ってから、イポメアちゃんはスピネル侯爵家の ”子供勉強会” には欠かさず来てくれていて、私の事をもう一人の姉だと言って、とっても慕ってくれている。


 最近は子供勉強会に参加していたメンバーの殆どが、学園生活中心の忙しい日々を過ごしていたので、イポメアちゃんとは月に一度会えるかどうかぐらいの少し寂しい関係だった。


 だけどイポメアちゃんが無事にジュエプリ学園に入学したこれからは、こうして毎日のように学校内で会う事が出来る。


 イポメアちゃんもそれが嬉しいのか、私達を見つけるととっても良い笑顔で声を掛けてきてくれた。


 ううううっ! 可愛いっ!!


「ディセントラ様、ニンファー様、アイリス様、ご機嫌よう。本日は入学したての私をランチにお誘い頂き、有難うございます」

「まあ、イポメア様、普段通りで宜しいですのよ、ディーといつものように呼んで下さいませ」

「イポメア様、私もですわ、学園内でもニンニンと呼んで頂いて構いませんのよ。気軽にして下さいませ」

「私も、遠慮なくベルと普段通り呼んでください」

「イポメアちゃん、俺も、じゃねーや、私もぉー、アイちゃーんでバッチオッケーでーすわーん。てへっ」

「有難うございます。でも……私は後輩ですし……」


 イポメアちゃんは周りをチラッと見て視線を確認をする。


 筆頭侯爵家の私がいるという理由もあるが、二年Sクラスの美少女ばかりが集まっている私達のグループは、この学園内でかなり注目されている。


 気持ちは分かる。


 だってニンファーちゃんもディセントラちゃんも貴族令嬢そのものの貴賓のある美人さんだものね。


 そして剣術部のベルちゃんは、男装の麗人と言える雰囲気なのでカッコ良くって女子にも人気だ。


 それにこのグループの中には、なんてったってこの世界のヒロインであるアイリスまで入っているのだ、注目されて当然、皆気になって見てしまう事も頷ける。


 だからこそイポメアちゃんは先輩後輩の節度を持って接して来た。


 カーテシーを取り、私達に向けてキチンとお辞儀をする。


 流石筆頭伯爵家のご令嬢とそう呼べるほど、その姿は美しかった。



 けれど私達は幼馴染、気を遣わなくて良いんだよ、と皆がイポメアちゃんに声を掛ける。


 どうしようと可愛く困るイポメアちゃんの華奢な肩を抱き、ニヤケそうな顔を抑え勿論私も声を掛けた。


「では、イポメアちゃん、お昼の時だけ、私達と一緒の時だけは普通に、普段通りに過ごしましょう。こんなにも素敵なお姉様方と仲が良くてずるいだなんてイポメアちゃんが責められても困るものね。気をつけすぎる事に問題はないわ。ウフフ、でもきっと大丈夫よ。イポメアちゃんみたいに可愛い子に難癖付ける人などいたりしないわ。もしいたとしたらその時はこの私が……ねっ、ウフフフ……」


 その時はこの私が悪役令嬢の名の元に叩き潰してやる!  


 とは勿論口には出さず、微笑んで誤魔化し、ついでにイポメアちゃんの頭を撫でる。


 イポメアちゃんは「はい、ではこの場ではいつも通りにします」と私の言いかけた言葉には気が付かず、素直に頷いてくれた。


 まあ、まず筆頭伯爵家の娘であるイポメアちゃんに何かを直接言ってくるものはいないだろ。


 だけど陰でコソコソと悪口を言うものも中にはいる。


 そんな事にならないように、私達は皆で可愛いイポメアちゃんを守るつもりだ。


 イポメアちゃんは私達にとって妹のような存在だからね。


 全力で守る相手!


 それがイポメア・クォーツ嬢なのだ。


 ぐふふ、可愛い!




「イポメアちゃん、クラスにお友達は出来ましたか?」

「はい、カメリアお姉様、一年Sクラスには顔見知りも多いですし、幼い頃からお付き合いの合った方もいらっしゃるので、とても楽しく過ごしておりますわ」

「それは良かったわ。それで、部活動は何に入部するかは決めたのかしら?」

「はい、私は音楽部に入りたいと思っております。イネス様にもお誘い頂いていたので、今から部活動がとても楽しみなんです。フフッ」


 イネスとイポメアちゃんは音楽好き同士で昔から仲がいい。


 スピネル侯爵家に来ると、イネスがピアノを弾き、その横にはいつもイポメアちゃんがいた。


 連弾をしたり、一緒に作曲をしたりと、二人が仲良く遊んでいる姿を昔から見ていた。


 なのでイネスがイポメアちゃんを音楽部に誘ったと聞いて、皆が納得だ。


 イネスもイポメアちゃんを妹のように思って大事にしているからね。

  

 そんな誰からも可愛がられる可憐なイポメアちゃんは、音楽部でイネスのように歌にも挑戦してみたいらしい。


 それを聞きアイリスが「俺に、ゴホンッ、私にぃー作曲させてねーん」と言っていた。


 どうやらイポメアちゃんに歌わせたい曲があるようだ。


 アイリスの事だ、きっとアニメ関係の曲だろう。


 楽しみだけどちょっとだけ不安になった私だった。


 可愛いイポメアちゃんに下手な曲は歌わせられない。


 出来上がったらチェックしないとだよねー。うんうん。




「お話し中、失礼致します。少し宜しいでしょうか?」


 私達の席へとそんな声を掛けて来たのは、学園の一年生にしては少し小柄で、眼鏡を掛けた真面目そうな男の子だった。


 その子を見てイポメアちゃんが「ジャクソン様」と男の子の名を呟く。


 笑顔で対応しているので同じクラスのようだ。


 ジャクソン様と呼ばれた少年は、ペコリとイポメアちゃんに頭を下げてから、この席で一番家格の高い私に礼を取る。


 そして皆が「どうぞ」と頷くのをみてから、名を名乗った。


「先輩方、初めまして、僕はジャクソン・カーネリアン。カーネリアン侯爵家の子息です。昨年姉のナスターシャがカメリア様とアイリス様にとてもお世話になったようで、ご挨拶に参りました。姉ともども仲良くして頂けると幸いです。どうぞ宜しくお願いします」

「カ、カーネリアン……侯爵家……まさか、ナスターシャさんって、恋愛学部の、あのナスターシャ先輩……?」

「はい。そのナスターシャの弟です。僕は今年一年Sクラスに入学致しました。どうぞ宜しくお願い致します」


 綺麗な挨拶の後、ジャクソン君はクイクイッと眼鏡を触る。


 その眼鏡がギラリと光って見えたのは光の加減だと思いたい……


 私の横に座るアイリスが、ナスターシャ先輩の名を聞き「ひっ……」と小さな悲鳴を出していたが、気持ちは分かる。


 ナスターシャ先輩は色々とグイグイくるタイプだったからねー。


 あの時の恐怖を思い出したのだろう……


 そんなクレイジーなナスターシャ先輩の弟であるジャクソン君は、やっぱりナスターシャ先輩と同じ恋愛学部に入部するらしく、同部に入部しているディセントラちゃんとニンファーちゃんにも宜しくと挨拶をしていた。


「グフッ、僕、この学園に入学することをとても楽しみにしていたんです。グフフフッ、皆様どうぞ仲良くして下さいね。ね、カメリア様、アイリス様、グフッ、グフフッ」


 可愛く? そう言ったジャクソン君の眼鏡がまたキラリと光ったように見えたのは、どうやら光の加減ではないらしいと、そう気が付いてしまったのは、私だけではなかったようだった……


 青い顔で震えるアイリスは「絶対仲良くしない」と本当に小さな声で呟いていた。怖いらしい……


 どうやらちびっこメガネ男子のジャクソン君は、ナスターシャ先輩と似たタイプの男の子らしい。


 私だってちょっとだけ怖い。


 全てを見張られているようだ……


 行動には十分に気をつけようと、そう思った私だった。


 ジャクソン君ってば笑い声も怖いよー。


 ナスターシャ先輩、そっくりだよー。


 ひーーーっ!

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