進級です

第321話二年生です

 季節は進み、一学年最終試験も無事に終わり、私達は二年生に進級した。


 という事で、今日は二年生になった通学初日。


 インタリオ商会にお願いした学校用の新しいドレスに身を包み、どうにか悪役令嬢にならずに済むようにと、今年度も乗り切ってみせると気合いを入れる。


 そして部屋を出て、早めに学園へ向かおうとしたところで「リア」と声を掛けられる。


 振り向けばまた少し大人っぽくなったジェイが私に笑顔を向けていた。


 ずっと避けていた心苦しさと、会いたくなかった……でも会いたかった、と言う複雑な乙女心が込み上げてくる。


 二年生になったジェイの姿は、私が前世で推していたジェイデン様の姿そのもの。


 いや、少しだけ違う所は、ゲームの中のジェイデン様は長い黒い髪を下ろしていたところだろうか。


 でも今のジェイは長い髪を一つにまとめ、家色の赤い細いリボンをつけている。


 それにジェイの浮かべる笑顔の爽やかさがまるで違う。


 ゲームの中のジェイデン様の笑顔は口元だけの、感情が余り見えないものだった。


 だけど今のジェイは、ちゃんと心から笑ってくれていると分かる笑顔だ。


 この笑顔が私は何よりも好きだ。


 最初はジェイデン様の事が ”推しだから好き” だと思っていたけれど、今は違う。


 可愛くて、優しくて、人に気を使ってばかりのジェイが愛おしくてたまらない。


 久しぶりに正面から大好きなジェイの笑顔をしっかりと見た事で、私はやっぱりこの人が好きなのだとまた実感した。


 この笑顔を今年も守りたい。


 嫌われ始めても、その想いは変わらなかった。



「リア、一緒に登校しよう。流石に今日は音楽部の朝練もないはずでしょう?」


 ジェイデン様の言葉の通り、私とアイリスは朝だけ音楽部に毎日通うという生活を、音楽祭の後も続けていた。


 それは音楽部の部員達からの熱い要望と、イネスからの楽曲提供の依頼があっての事だった。


 アイリスは前世の曲を沢山イネスにプレゼントし、「この国でアニソン広めて貰うんだ!」 と張り切っていた。


 私的には、気まずかったジェイと二人きりにならなくて良い理由が出来と、少し嬉しかった。


 なので逃げるように音楽部へと通っていたのだけど……


 今日は登校初日の為、部活動もないのでそうもいかない。


 ずっとこれ以上嫌われてしまう事から逃げていたけれど、いい加減向かい合わなければならないのかもしれない。


 ジェイの普段通りの笑顔に、頷き返す。


「ええ、一緒に行きましょう」


 と何でも無いように装いながらも、内心怖くて震えていた私だった。






「リア、あのさー、こうやって一緒に登校するの、なんだか久しぶりだよねー……」

「ええ、そうね……私、ずっと忙しかったから……」

「あー……確かに、リアはずっと忙しかったもんね、うん、うん、勿論俺は分かってるよ。うん。あー、そうだ、イポメアちゃんもやっと学園に入学したね。リア、気軽に会えるようになって嬉しいでしょう?」

「ええ、そうね、嬉しいわ……」


 ジェイが気を使い、私に話しかけてくれる。


 私は久しぶり過ぎるジェイの破壊力と、これ以上嫌われたくは無いという勝手な想いと、絶対に悪役令嬢にならないと言う目標から、緊張してあまり上手く返事が出来ない。


 ジェイは私の事を姉だとは思えないと言っていたけれど、こうやって気を使ってくれると言うことは、そこまで憎くいとは思っていないらしい。


 私に向ける笑顔だって、少し引き攣っているように見えるけれど、嫌っている訳では無いように思える。


 少しは期待しても良いのだろうか?


 姉ではなく、家族……? としては認識されていると思ってもいいのだろうか?


 もしこのまま悪役令嬢として断罪されなかったら、スピネル家に残っても良いのかしら?


 欲を言えばエンディング後のジェイデン様も見て見たい……


 朝からジェイに優しくされた事で、またそんな淡い期待を持ってしまった私だった。





「カメリア、ジェイデン、はよっすー」 

「アイリス、おはよう。登校時間同じタイミングだったのね」

「アイリス……おはよう……」


 馬車から降りると、眠気眼なアイリスが待っていてくれた。


 クラス発表を一緒に見たいと言っていたので、早めに来てくれていたのだろう。


 いつも通り一緒に登校しても良かったのかもしれない。


 そんな中、ジェイはアイリスを見て何故か首を横に振っていた。


 アイリスはそれを見てため息をつき、ジェイの背中をバンバンと叩いていた。


 アイリスが不思議な行動をとるのはいつもの事、きっと男同士何か話があったのだろう。


 すっかり仲良くなった二人の様子をみて、ヒロインのコミュ力ってやっぱり凄いなーと密かに感心していた私だった。



「おおっ、やっぱりカメリアとジェイデンはSクラスだったな。そりゃ〜そうだ、学年トップだもんなー、あたり前だのクラッカーってか?」


 私とジェイは年間の成績的にも、今年もSクラスであるだろう事はほぼ分かっていた。


 そして他の攻略対象者のメンバーや、女の子の友人達もまた同じクラスだ。


 皆上位の成績なのでそれも当然、さほど不安はなかった。


 そしてヒロインのアイリスも、本気を出した結果、無事Sクラスとなった。


 だけど私達が一番気になる人物は、今名を上げたメンバーではなく、アイリスの友人モーリス君達のクラス発表だった。


「おっ! やった、モーリスはSクラスじゃん! あいつすげ〜な、ゆーげん実行、やったじゃねーかっ!」

「あ、バリー君とカール君はAクラスみたいね……だけど二人共Aクラスでも上位でしょう? それだけで素晴らしいわ」

「うん、きっと三年生では俺達と一緒のクラスになれるよ。二人とも頑張っているからねー」


 ジェイの言葉に「そうね」と頷く。


 モーリス君は勿論のこと、バリー君もカール君も勉強をとても頑張っている。


 剣術部で一緒のベルちゃんがとても面倒見が良く、私とアイリスが忙しい中、三人の勉強をしっかりと見てくれたようだ。


「自分の復習にもなるので丁度良いのです」


 と、剣術部で大変なはずなのにそう言い切ったベルちゃんは、とってもかっこ良かった。


 本当にイケメン女子だよね。


 普段からジェイダイト兄弟のお世話をしているせいか、ベルちゃんは頼りがいがある姉さんって感じになっていた。



「ん? んあっ?!」


 突然アイリスがクラス発表の掲示板を見ながら令嬢が出してはいけない声を出す。


 そしてAクラスのクラス表をジッと見つめ、次にBクラスを見つめていく。


 私とジェイがどうしたの? と首を傾げていると「んなっ!!」とまた変な声を出した。


 そして口をパクパクさせながら、アイリスが驚くことを言った。


「ローズマリーが……Cクラスだ……」

「「えっ?」」


 私とジェイもアイリスが指差す方へと視線を送る。


 確かにCクラスのクラス表には間違いなく ”ローズマリー・アルトパーズ” の名前がある。


 あのプライドの高いローズマリーが、信じられないことにAクラスから二つもクラスを下げている。


 一体何があったの? と不安になっていると、今度はローズマリーの友人二人はBクラスだ……とアイリスが呟いた。


 私とジェイもBクラスのクラス表へと視線を送る。


 ガーベラ・クリソとエレクタム・ベリルはやはりBクラスだった。


 どうやら三人ともかなり成績を下げてしまったらしい。


 試験の結果がそれ程思わしくなかった……という事だろう。


 もしかして、自分の実力を勘違いし、勉強を怠ったのだろうか?


 なんとなく嫌な予感がしたけれど、私にはどうにも出来ない。


 二年生の一年間がどうぞ平穏無事に過ぎますようにと、思わぬ結果となったクラス表を見ながら祈った私だった。





☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

今日から新章に入ります。やっと二年生ですねー。一年生が長かった……(;'∀')

仕事が忙しくなり、もしかしたら来週お休みするかもです。そうなったらまたご連絡いたします。宜しくお願いします。m(__)m

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