第319話
今日は遂にマリアホテルの開店日。
この国の筆頭侯爵であるスピネル侯爵が、愛する夫人の為に新しいホテルを作り上げた……という話はインタリオ商会の会頭であるベンさんのお陰で、このダイアモンド王国では有名な話となっていた。
お陰様で開店初日から満室御礼状態で、開店前のオープニングイベントにも多くの人が集まっている。
それは噂好きな貴族達だけでなく、お父様ファンの町民達までも「おめでとう、おめでとう」と口々に祝いの言葉を掛け合いながら、ホテル前に集まってくれている。
それにマリアホテルの周りには屋台まで出来ていて、まるでお祭りのような状態になっている。
まあ、皆が喜んでくれて、楽しみにしてくれているのならば何も問題はないのだが……
でも何よりも、一番の問題はオープングゲストだった。
「カジミール、マリア、ホテル開店おめでとう! 私もこの日を楽しみにしていたよー」
「セラフィム、有難う。今日は私の友人としてこのホテルを楽しんでくれ。ディナーは一緒に食べようじやないか」
「ああ! それが一番の楽しみだ。本当は泊まって行きたいところなんだが……まあ、そこは次回だな。なぁ、ダイナ?」
「セラフィム、当たり前だろう、今日だって無理矢理城を……ゴホッ、屋敷を抜け出してきたんだ。留守番係になったモーリスが怒っていたぞ」
「あはは、モーリスが怒っていたのは私が城を……ゴホンッ、屋敷を抜け出したからではない、自分がオープニングイベントに来れなくなったからだ。まあ、でもそのモーリスのおかげで私がし……屋敷を出て来れたんだ、土産ぐらいは買っていかなければなー」
「土産で済めば良いが……アイツの事だ、仕事をたっぷり用意して帰りを待ってるぞ」
「あー、まー、その時はカジミールに手伝ってもらうさっ、なー、カジミール?」
「はい。私に出来る範囲で、ですがね……」
「あはは、おまえに出来ない事など何も無いだろう? 期待しているぞ! 何ならカジミールに王座……ゴホッ、私の席を譲ってもいいんだぞ」
あははーと笑い合う三馬鹿お騒がせ親父たちに頭が痛くなる。
まさかお父様の友人だからと、国王陛下がマリアホテルのオープニングイベントにやって来るとは思わなかった。
一応はお忍びという事で、王様ではなく普通の貴族って感じの服装で来てはいるが、本人を知っている私としては、どっからどう見ても国王陛下に見えてしまう。
まあ、私が陛下の顔を知っているから……と言う理由もあるのだが、騎士団長を引き連れていればさもありなんだ。
隠しようがないと思う。
きっと影の護衛として、カイトさんとカミルさんも来ているのだろう。
人混みの中に何となく気配を感じる。
会った人の魔力が分かる私が、何となくしか感じない程度なのだ。
隠れている二人の能力の凄さが分かる。
そんな国王陛下のイベント参加という事で、残念ながらラファエル君はオープニングイベントに来ることが出来なかった。
まあ、当然だ。
流石に国王と次期国王が一緒にお忍びで出かける訳にはいかないだろう。
ラファエル君も楽しみにしていたんだけどねー。
そこはマリアホテルという事で、友人である父親に訪問の権利を譲ったのだろう。
流石メイン攻略対象者。
どこまで行っても優しくってカッコイイ。
うん、そんなラファエル君にもお土産が必要だよねー。
「なー、カメリア、カーティス様、やっぱり来れなかったんだなー?」
「うん、アイリスごめんねー。会いたかったよね? カーティス兄様、領地での仕事が手が離せ無いみたいで……暫くは王都に来れないみたいなの……」
「まあ、そうだよな。そりゃー、仕方ねーよ。だってダンジョンが出来たんだろう? それもまだ成長ちゅーらしいじゃん? カーティス様が忙しいのは当然だー」
「うん……でも、アイリスは会いたかったよね? あ、そうだ! 一緒に手紙書く? カーティス兄様もアイリスからダンジョンの情報貰えたら喜ぶと思うし!」
「ふぇっ! て、手紙? だけど俺、あんまじー綺麗じゃ無いぜー? 良いのかよ!」
「アイリスの字、可愛くて私は好きだよ。それにダンジョンの事教えて上げたらカーティス兄様も助かる筈だし……」
「分かった! 気合いを入れて書く! 前世の記憶総動員だ!」
ちょっとだけ寂しそうにしていたアイリスは、カーティス兄様の役に立つぜ! と気合いが入ったからか、元気を取り戻した。
好きな人に中々会えないのは辛いよね。
それにカーティス兄様とアイリスは歳も離れているので、友達のように気軽に誘うこともお互い出来ないだろう。
アイリスはこの恋の為に私は何もしなくていいと言ったけれど、出来れば友人として小さな応援ぐらいはさせて欲しい。
ダンジョンに行くのは次の夏休み頃だとお父様から聞いている。
その時はアイリスも絶対に連れて行こう。
そして出来る事ならば、カーティス兄様の側に居させよう。
アイリスには絶対に幸せになって貰いたい。
同じ境遇に立つものとして、そう思った。
そしてオープン時間となり、司会進行役でベンさんとジョン君と……何故かゲイルさんもステージ……というか入口中央に出て来た。
私達スピネル侯爵家の家族と、ホテル設計に一役立ったアイリスは、司会者の後ろに並び、進行役(インタリオ親子)から合図が入り次第テープカットを行う。
スピネル侯爵家の赤いリボンが引かれた入口前に、お父様とマリア様を中心にして並ぶ。
私はお父様の横に、そしてジェイはマリア様の横に、ブレティラが私の横に来て、その隣がアイリスだ。
ニコラはジェイの横に並び、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
マリアホテルの開店は、私達家族からのマリア様への愛を表現した様なものだ。
美しすぎるマリア様が大好きだと、私達家族はマリア様に、そして世間に伝えられたと思う。
世間で流れていた、マリア様の悪い噂をまだ信じている人も中にはいる。
だけど、これでマリア様がお父様に、そして私達にどれだけ愛されているか分かる事だろう。
愛する妻にホテルを贈る。
そんな事はお父様ぐらいしか出来ないのだから。
「それでは開店致します!」
ベンさんがそう声を出せば、ゲイルさんが懐から鳩を取り出し、空へと勢い良く飛ばして見せる。
その鳩達は一矢乱れぬ動きでホテルの周りを飛び回り、開店のお祝いをしてくれる。
これもゲイルさんの魔法だと思うのだけれど、ゲイルさんって本当になんでも出来る凄い人だと思う。
感心して鳩たちを見ていると、ゲイルさんは次にまた懐から丸い球を取り出し、そしてそれを空へと放り投げた。
パン! パン! パン! とボールは弾け、「開店、おめでとう、いらっしゃいませ」と上空に赤い文字が浮かび上がる。
「ゲイルさん、マジチート」と呟いたアイリスの言葉に私も思わず頷いた。
ゲイルさん、凄すぎです。
一体どれ程の技を持っているのか……
ヴァルラム王子にお願いして我が家に貰いたいぐらいだよ……
こうして賑やかなオープニングイベントも終わり、無事にマリアホテルは開店を迎えた。
マリアホテルはきっと、ダイアモンド王国一の有名ホテルになる事だろう。
私がマリア様の娘で居られる後数年の間に、そうなればいいと願う。
家族を幸せにする事が出来たら、私はそれでいいのだから。
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