第317話音楽祭②
今日は遂に音楽祭。
音楽学科を専攻している生徒達は皆緊張した表情だ。
私は……というと、鬼教官二人の指導の下、悪役令嬢がアイドルになる為、地獄の特訓を行ってきたのでまったく不安はない……はず。
と言うか、私とイネスとアイリスは、別に審査されるわけではない。
なのである意味気楽なのだが、私がセンターで踊る……という事が危険でしかない。
だって悪役令嬢のダンスを誰が見たいよ?
苦行でしか無いでしょう?
勿論空気を読める私は鬼教官の前でそんな事は口には出さない。
アイリスとイネスが喜ぶならやってやろうじゃないか!
開き直った私だった。
だって、やることは審査される生徒達の発表が終わった後、審査員の先生方が受賞者の選考について話し合っている間に、私達は歌を歌って踊るだけだから。
でも、その歌が問題だ。
アイリスの記憶の中にある、昭和な? 三人組のアイドル歌手の歌らしいのだが、この世界で貴族子女が歌って踊って回って大丈夫なのだろうか……
でもまあ、おかんなイネスが「絶対この曲受けるよー!」と太鼓判を押してくれたので、多分大丈夫だとは思う。
一応三人の衣装もこの国で受けるようにと、白を基調に銀色ラメが少し入り……
私には家色の赤いリボン。
アイリスには勿論ピンクのリボン。
そしてイネスには黄色ネクタイを合わせてある。
スカート丈はギリギリ膝下。
貴族の令嬢としてギリな許容範囲だ。
そこから何重にもレースになっていて、マーメイドドレスのように後ろが長い。
イネスは私の記憶が確かならば……おかんではなく男の子だったはずなので、パンツスタイルで、上着の背中部分にはレースのヒダが入っている。
私とアイリスは素足など見せられる訳がないので、白タイツを履いている。
とっても可愛い衣装で、可愛い系のイネスとアイリスには良ーく似合っているのだけれど……
あの、私、悪役令嬢。
これ大丈夫ですか?
私の見た目でこの衣装、犯罪になりませんか?
家族以外この姿、誰も見たくないですよね?
と、心配になるほど、鏡の中の自分に違和感大だ。
普段黒や落ち着いた赤を身に付ける事が多いこの私が、優し気な色である白を着ているというだけで、違和感半端ない……
キュートで可愛いフリフリな衣装。
悪役令嬢のカメリア・スピネルに全然似合ってないよねー。
やっぱり今日は出ない方がいいんじゃない?
と、本気でそう思った瞬間、鬼教官一号が控室にやって来た。
「カメリアー、アイリスー、準備出来たー?」
ノックが聞こえ「どうぞ……」と小さく返事をすると、鬼……ではなく、イネスが妖精かと見間違えるほど可愛い姿でやってきた。
やっぱりイネスってば、衣装超似合っている。
着替えるための衝立の裏からちょっとだけ顔を出し、可愛いイネスをチェックし、ガックリと肩を落とす。
私の場違い感が半端ない。
イネスの隣に立ったら笑われそうだよ……
よよよ……と衝立の裏で泣いていると、鬼教官二号の元気一杯な声が響いた。
「うえーい、イネス―、準備出来たぜー。どうよ、俺、参上! 超絶可愛いだろぉん、てへ」
アイリスも自分専用の衝立から姿を現し、イネスの前でくるりと回る。
スカートとレースがふわりと広がり、口を開かなければ花の精と見紛う可愛さだ。
ううう……どうしよう……
やっぱり私だけが場違いだよー。
こんな可愛い二人の間に立つ。
どんな拷問でしょうか?!
歌う覚悟を決めていた私だったけれど、二人の可愛さを目の当たりにして恥ずかしくなった……
「お、カメリアー、なんだ準備出来てんじゃん、ほら、こっちさ来い、衣装見せろってー」
「いやいや、アイリス、私、やばいから、犯罪だから、人様に見せられないから! やっぱりやめとくから!」
「はぁー? 今更何言ってんだよー! 俺達おんなじ衣装だろう? ほら、早く! 可愛い姿俺に見せてけれーって!」
「ダメダメダメ、アイリス、引っ張らないでって、本当、本当に無理だって、皆ひいちゃうからー!」
抵抗虚しく衝立からアイリスに引っ張り出され、仕方なく天使な二人の前に躍り出る。
両手で自分の体を全て隠したいが、どう考えてもそれは無理だと分かる。
モジモジしながらも、勇気を出してイネスとアイリスに視線を送る。
絶対に似合わないって笑われるよね?
すると案の定、二人はどうして良いのか分からなかった様で固まっていた。
ううう……やっぱり悪役令嬢のカメリア・スピネルにはこの衣装似合わないんだ。
恥ずかしいよー!
誰か何とかして下さーい!
「カメリア……なんだよそれ!」
アイリスが私を見てショックを受けた顔をする。
えっ? そこまでいう程酷い?
私はまたショックを受ける。
そしてイネスといえば……私から視線をそらし、赤い顔で壁を見ている。
もしかして笑ってる?
それとも見ていられない程酷いって事?
そんなーーー!
「あの……私、やっぱりステージに立たない方がいいと思うの……イネス、アイリス、私のこの姿……変なのでしょう?」
自分の姿を良く分かっている私が俯くと、アイリスがイネスを引っ張りながらグイっと近づいてきた。
鼻息荒く、目がランランとしてヒロインとは思えない表情だ。
そして私の手をギュッと掴むと、興奮した様子で喋り出した。
「カメリア、ヤバイ! その姿、規制入れたくなる! 年齢制限必要かも! R15? いや、この世界だとR18か? 18禁だーーー!」
「えっ……?」
「何で俺とおんなじ衣装なのに出来上がりがこーんなに違うんだよ! カメリア、マジエロス、胸ヤバイ! 足も綺麗だし、腰ほっそっ! 目のやり場に困る! えっ? これ良いのか? 野獣だらけの生徒の前に出していいのか? おい、イネス、お前リーダーだろ、なんとか言えよ!」
「ふへぇ? ふぁ? えっ? あ、ゴ、ゴホンッ、んんっ、カメリア、あー……凄く良く似合ってる。とっても綺麗だよ……」
「えっ? イネス、本当?」
「いやいやいやいや、そうじゃなくって! こんなダイナマイトなカメリアを皆に見せて良いのかって事だよ! イネスしっかりしろ!」
「えっ? どっち?」
「アイリスこそ落ち着いてって、別にカメリアは恥ずかしいような服装は……してないでしょう? 可愛いと僕は思うよ……ただ……あの、ちょっとだけ……」
「ただ……? ちょっと?」
「エロいって事だよっ!」
「えっ? エロい?!」
アイリスはエロいと言うが、別にこの衣装は厭らしいような物では全くない。
どっちかというと、可愛らしい作りだ。
そもそもインタリオ商会がそんなものを作るはずがないし、衣装を着たアイリスの姿は可愛いしかない。
だから私には似合わない……そう思ったのだけど、アイリスの感想はそうでは無かったようだ……何故?
「胸元のレースとかさー、俺はぺったんコを誤魔化す為に使ってる感じだけさー、カメリアはダイナマイトな自慢の武器を強調するために使ってるみたいに見える! それに足! その美脚! 丈がひざ下なのにカメリアが着ると、なーんか見ちゃいけないような気持ちになる。何でだよ! 俺のは全然平気なのに! 可笑しいだろう? イネス、これ本当に出して大丈夫なのか? 皆鼻血吹き出すんじゃねーか?」
アイリスは私の周りをぐるぐる回りながら、あちこちチェックを入れる。
まるで白くて可愛い子犬のようだ。
衣装は似合わない訳では無かったようで、少しだけ、いやだいぶホッとした。
ただ、アイリスと私では体型が違うので、見た雰囲気がまるで違う。
アイリスはその事を叫んでいるようなのだけど、おかんは……じゃなくってイネスは、赤い顔のまま頷くと、私を安心させてくれた。
「カメリア、心配いらないよ、とっても魅力的で素敵だよ。僕はこんなに美しいカメリアを世界中の人に自慢したいんだ。君はずっと……子供の頃からずっと僕の特別なんだ。だから一緒にステージに立ってくれる? きっと忘れられない思い出が一緒に作れると思うから……」
「イネス……うん! そうね、ここまでずっと指導してくれたイネスは私の師匠、特別な存在よね! うん、イネスの為にも弟子として恥ずかしくないように、私、頑張るわ!」
ふんす! と鼻息荒く気合を入れる私の横で「告白のつもりだったのに……」と良く聞こえない程の小さな声でイネスが何かを呟いていた。
そんなイネスの肩をアイリスがポンポンと叩く。
きっと「頑張ろうな」と気合いを入れているのだろう。
これはジュエプリ内の ”友情イベント成功!” といったところだろうか?
アイリスとイネスの仲がある意味深まったので、やはり成功と行って間違いないだろう。
そして遂に幕開けの時間となり、私達はステージへと向かう。
イネスには音楽の才能だけでなく、指導力もあることを、友人の私が全力で皆に知らしめて見せましょう!
イネスの言葉のお陰で恥ずかしさも忘れ、そう気合を入れた私なのだった。
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