第7話嬉しい出来事

 ジェイデン様とマリア様が我が家に来て早いもので一ヶ月が経った。


 私とジェイデン様は同い年という事もあり一緒に過ごす時間が多い。


 勿論私がそうしたくて企てた……いえいえ、一緒に過ごせるように行動をしている。


 朝はいつもジェイデン様の部屋へ朝食を誘いに行く事は日課になっているし、勉強も勿論一緒にマリア様から受けている。


 それに剣の稽古や武術の稽古もジェイデン様と私は屋敷の護衛たちから教わっている。


 一日中ジェイデン様と過ごせる時間はまさに私にとって至福の時。


 何と言ってもジェイデン様が私と過ごす時間を楽しんでくれているように思えて、それがまた嬉しい。


 そんな日々成長し続けるジェイデン様をこの目に焼き付けられることはこの上ない幸せだ。




「ハアー、目に録画機能が付いて居たら良かったのに……」


 今日はお庭でジェイデン様とのんびり本を読んで過ごしている。


 そんな何でもない時でもジェイデン様の横顔はすごく可愛い。


 実はこの世界にも録画できる魔道具があるらしいことは私の傍付きのメイに教えてもらった。


 ただし、とても高価な物らしく、五歳児の私が気軽に欲しいとは言える物では無かった。


 ジェイデン様の成長を記録に残せない事は残念だけど、こればかりは強く目に焼き付けておくしか無いだろう。


 出来ればこのキュートなジェイデン様をこのまま保存しておきたいけれど、それをすると大人になったジェイデン様に会えなくなってしまう。それは本末転倒だ。


 そんな事をしたら悪役令嬢どころか恐怖の殺人鬼になってしまう。


 ジェイデン様には私の良いところだけ見せておきたい。だって絶対に嫌われたくないから。


 優しい姉。それがジェイデン様が望んでいるカメリアの姿だと思う。


 だから出来るだけジェイデン様の理想に自分を近づけたい。


 完璧な姉、そしてジェイデン様の自慢の姉。


 強く気高く、ジェイデン様が困った時にいつでも守れる立場でありたい。


 その為ならば全く興味のない王子と婚約したって構わない。


 どうせいずれヒロインが出てきたら王子との婚約は解消される。


 その時私はこの国から追い出されることになりジェイデン様の姉ではいられなくなるだろう。


 ならばそれまでは使える物は全て使ってジェイデン様を守りたい。


 ジェイデン様を幸せにすることがこの世界での私の生きがいなのだから。




「リア、どうしたの? なにか今言ったでしょう?」


 初めはリアと呼ぶのも照れていたジェイデン様だったけれど、今ではすっかり慣れた様子でそれがまたとても嬉しい。


 そして私も始めは憧れのジェイデン様をジェイ呼びするのが申し訳なく、おこがましく感じていたけれど、折角頂いたチャンスを自ら手放すのは勿体無いと気が付き、今では遠慮なく呼ばせて頂いている。


 勿論最初は私なんかが……って凄く抵抗があったけれど、今はジェイデン様が喜んで下さるのでそれが嬉しい。


 名前の呼び方が変わるだけで本当の姉弟になれた気がする。




「ううん、何でもないの、ただ想い出を残せたらいいなって思っただけ」

「おもいで?」

「そう、こうやってジェイと一緒に遊んだことを頭の中にだけ残しておくんじゃなくって、何かの形で残せたらいいなって思ってたの」

「ふーん……リアって難しい事たくさん知ってるんだねー、すごいなー」

「す、すごい?」

「うん、リアはすごくカッコイイ。僕もリアみたいになりたいよ」


 はううーん。どうしよー、ジェイデン様にカッコイイって言われた―!


 出会ってたった一ヶ月だけど、努力の甲斐あってかジェイデン様に素敵姉と認めてもらえたみたい。


 どうしようすごく嬉しい。


 でも……分かっている。


 私は悪役令嬢。

 

 油断は禁物。


 いつかヒロインが出てきたらジェイデン様に嫌われてしまう可能性が大きい。


 なので出来るだけ幼いうちにカメリアの好感度は上げておかなければならないだろう。


 勿論ジェイデン様にどんなに嫌われても絶対に守ることだけは続けるつもりだけれどね。


 国外追放されたってどうにかしてジェイデン様を見守ってやる。


 それぐらいの意気込みが無ければ悪役令嬢のカメリアは幸せになることは出来ないだろう。




「リア、だったら絵を描いてみたら?」

「絵?」

「そう、絵ー、母上は絵もお上手なんだよー、えへへ」


 何ですかっ! その可愛いえへへわっ!


 今この瞬間を絵にしたい!

 

 絵に残す。


 それはとっても良いアイディアだと思う。


 前世の私はどうだったのだろう? 絵とか描く人だったのかしら?


 出来ればジェイデン様の絵は完璧なものにして、部屋に飾るだけじゃなく綺麗に保存できるようにしたい。


 ハイスペックな悪役令嬢であるカメリアならそれが出来るかもしれない。


 マリア様にお願いをして絵を学べば、ジェイデン様が大人になった時の姿を描き残しておくことが出来る。


 そうすればもしジェイデン様が私を嫌いになって追い出したとしても、私にはその絵が残る。


 寂しくたってそれで生きていけるかもしれない……




「ジェイ、お母様の所へすぐに行きましょう!」

「えっ? ひなたぼっこはもういいの?」

「ええ、本はいつでも読めるもの、それよりも絵を上手に描けるようになるには時間がいくらあっても足りないものね」

「えへへ、やっぱりリアはすごいね、とってもおもしろい」

「面白い?」

「うん、僕、このお屋敷に来てから毎日とっても楽しいよ。全部リアのおかげー」


 そう言って可愛く微笑んだジェイデン様はとっても愛おしかった。


 私こそジェイデン様と出会えたお陰でこの世界が色付きとても楽しい物に変わった。


 ジェイデン様が喜んでくれるだけで世界が輝いて見える。


 絶対にこの笑顔を失いたくはない。


 悪役令嬢の私が王子に婚約破棄されるのは18歳の時。


 それまではジェイデン様の傍に姉として居ることが出来る。


 その時が来るまでに沢山のジェイデン様の想い出を残そう。


 私はそう強く決意した。

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