第5話一緒の朝食

「ジェイデン様、お約束通りお迎えに参りましたわ」

「カメリア様……本当に来てくれたんだ……」


 少し恥ずかし気に、それでいて嬉しそうに私を見つめ頬を染めるジェイデン様は最っ高に可愛らしかった!


 ジェイデン様は意外と恥ずかしがり屋さんな一面がある様で、とにかくとっても可愛い。


 きっとマリア様と二人きりで過ごす時間が長すぎて他人から興味を持たれる事になれていないのだろう。初心な感じがまた私の心をわし掴みにして堪らない。


 ジェイデン様のデレ顔を見た瞬間、その余りの魅力の強さに昇天してしまうかと思ったけれど、私の使命は命を懸けてジェイデン様を幸せにする事なので、自分が幸せに満足したからと言って天に召されている場合ではない。


 姉として気合を入れ直しジェイデン様に微笑みを返した。


「勿論ですわ。ジェイデン様と……いえ、ジェイと約束したことはどんな事が有っても守りますもの」

「うん、ありがとう……えへへ……嬉しいな」

「グッ」

「カ、カメリア様?! 大丈夫?」


 ジェイデン様の初めてのえへへ笑いの衝撃の強さに、胸が大ダメージを受け痛みで倒れそうになった。


 そこに追い打ちをかけるようにジェイデン様が心配そうな可愛い顔をしてのぞき込んできた。


 またその表情が可愛らしくて尚更胸に痛みが走る。激痛だ。


(私……今日死ぬかもしれない……)


 衝撃にふらつく私を傍付きメイドのメイが支えてくれた。


 そのお陰で姉としての冷静さを取り戻し何とか持ち直すことが出来た。


 ジェイデン様に馴れるまでは一挙手一投足が私には命の危機に直面する程の破壊力になる。


 出来るだけ傍に居て早く仲良くなりたいけれど、こればかりは時間を掛けてゆっくりとしていかなければならない。そうでなければ私の身が持たないだろう。


 だってジェイデン様はそこにいるだけで愛おしく、そして罪深い程に美しいのだから。


「ジェイ、大丈夫ですわ……少し眩暈がしただけですの、それよりも先に紹介させて頂きますわね。私付きのメイドのメイです。ジェイ付きの傍付きのドオルの双子の姉ですの、仲良くしてくださいね」

「ジェイデン様、宜しくお願い致します」

「はい、メイ、僕こそ宜しくお願い致しましゅ……あ、いたします」


 はうわぁー! 可っ愛いー!



 私とメイがジェイデン様の笑顔に癒されていると、ジェイデン様の傍付きであるドオルが少し呆れた様子で声を掛けてきた。朝食の時間に遅れてしまいますよとの事だ。


 貴族の子として慌てる訳にはいかないので、出来るだけ優雅に見えるように食堂へと向かう。


 ジェイデン様がそっと手を差し出してきたのでそれをドキドキしながら握る。


 ジェイデン様にエスコートしていただけるなんて夢のようだ。


 私は毎分ごとに、いえ毎秒ごとにジェイデン様から幸せを頂いているけれど、私はこれからジェイデン様にどれぐらいの幸せを返すことが出来るだろうか。


 絶対にゲームの中のジェイデン様のような辛いエンディングを迎えさせたくない。


 私がこの世界に来たからにはジェイデン様を世界一幸せにしたいとそう思う。


 どんなことをしてでも……絶対に。






「お父様、お母様、おはようございます」

「おはようございます」

「ああ、カメリア、ジェイデン、おはよう。ここ迄一緒に来たのかい?」


 手を繋ぎ食堂へ一緒にやって来た私とジェイデン様を見て、お父様が嬉しそうに目を細める。


 その表情を見れば仲良くして居ることを喜んでいるのが良く分かる。母親になったマリア様もだ。


 ゲームの中では父親とカメリアは上手く行って居ない。


 母親が死んで新しい母親となるマリア様を連れてきたことに、カメリアは子供心に傷ついていたからだ。


 その上マリア様は評判が良くなかった。


 息子のジェイデン様に至っては魔力量の多さで髪色が特殊な為、尚更世間に嫌われていた。


 そんな噂を聞けば幼いカメリアが新しい家族を受け入れられなかった事は良くわかる。


 だからと言ってマリア様とジェイデン様を虐めて良いとは思わない。


 ゲームの中のカメリアはきっと孤独だったのだろう。


 幼い頃に母親を亡くしているので当然の事だ。


 誰かに愛されたいけれど、その愛し方が分からない。


 一番愛して欲しかった父親には裏切られたような気持ちになり、それをマリア様とジェイデン様にぶつけたのだと思う。


 ゲームの中の事とはいえカメリアには幸せな時間が全くない。


 その上自業自得とはいえ最後は婚約者である王子に裏切られる。


 ヒロインがどのルートを通ってもカメリアは幸せにはなれない設定だ。


 販売元の悪意さえ感じる。


 けれどゲームなのでそれは仕方がない事なのだろう。


 だけど私は素直にそれを受け入れるつもりはない。


 ジェイデン様を守るためならばどんなことをしたってストーリーを変えるつもりだ。




「カメリア、どうかしたか?」


 朝食を前にしてぼんやりと考え事を始めてしまった私に、お父様が心配そうな表情で声を掛けてきた。


 お父様のその表情には娘を愛する感情が見て取れる。


 ゲームの中のカメリアは幼過ぎてきっとこんな些細な父親の愛にも気が付かなかったのだろう。


 でも今の私なら良く分かる。


 ジェイデン様だけでなく家族も皆幸せにしたい。


「お父様、ジェイデン様を私の稽古にお誘いしても宜しいですか?」

「稽古とは、武術と剣術の稽古の事か?」

「はい、ジェイデン様さえ宜しければ一緒にいかがですか?」

「カメリア様は剣を扱うのですか?」

「はい、私は強くなって家族を守りたいのですわ」

「ぼ、僕も一緒に稽古したいです。侯爵様、僕からもお願いします」

「ハハハッ、可愛い娘と息子の頼みなら聞くしか無いだろう。セバスティアン準備を頼むな」

「畏まりました」

「お父様、有難うございます」

「侯爵様、有難うございます」

「二人共怪我にだけは気を付けるように、それからジェイデンも父と呼んでくれると嬉しいぞ」

「は、はい、父上、有難うございます」


 お父様有難うございます。ジェイデン様のテレ顔頂きました。


 可愛い。可愛い。可愛すぎる……ああ、愛おしい。


 ゲームの中ではジェイデン様は、幼いころから侯爵家で剣などの教育を受けることになって居るが、悪役令嬢のカメリアにはそんな説明はなかった。


 ジェイデン様に釣り合うようにと始めた稽古がいずれ役に立ってくれればいいと思う。


 そう、ジェイデン様を守るためならば、私はなんだって出来る気がする。


 なんてたって私は悪役令嬢なのだから。

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