第4話仲良くなりましょう
「カ、カメリア様?! 何で? 何で僕の部屋に?!」
ぱちりと目を覚ましたジェイデン様は、驚きの表情というご褒美を私にくれた。
新しく見たその表情もとっても可愛くって、胸がぎゅっと締め付けられた。
本当に尊い!
ジェイデン様の表情が可愛すぎて手が震えてしまいそうだったけれど、そこはジェイデン様の姉という立派な立場になった今、動揺を見せる訳にはいかないとグッと堪た。
私はカメリア・スピネル。
悪役令嬢だけど、ジェイデン様の義理の姉。
好かれないのは仕方が無いとしても、幻滅されることだけは絶対に嫌だ。
カッコイイ姉を演じて、ヒロインに会うまででも良いから嫌われないようにしたい。
そう強い気持ちを持ちながらニッコリと微笑み、ジェイデン様に声を掛けた。
「ジェイデン様、朝早くの起こしてしまって申し訳ございません。少しでも早くジェイデン様にお会いしたくって……」
「……僕に? カメリア様が僕に会いたかったの?」
「はい、私はずっとジェイデン様にお会いしたかったのです」
「ずっと……?」
「はい、ずっとです。折角姉弟になったんですもの、ジェイデン様とは仲良くなりたかったのです。でも黙ってお部屋に入ってしまって驚かせてしまい申し訳ありませんでした。朝食を一緒に向かいましょうとお誘いに来たのです。準備ができましたらまたお伺いに来ても宜しいですか?」
「う、うん……僕一緒に行く……じゃない、行きます」
「本当ですか? とっても嬉しいです。ジェイデン様、どうかこれから仲良くしてくださいませね」
「は、はい、あの……」
「はい、ジェイデン様何でしょうか?」
ジェイデン様は何か言い辛そうにしてもじもじとし始めた。
ベットの上で恥ずかしそうにしている姿を見ているだけで、私はカメリアの一生分の幸福を今使ってしまったかも知れなかった。
でもそれでも十分に満足だ。
だってジェイデン様はとっても可愛いから。
このまま何もせずに二、三年見続けることが出来る。それぐらい今のジェイデン様は可愛い。
勿論成長したジェイデン様にも会いたいけれど、今のこの小さなジェイデン様もハチャメチャ可愛い。
ずっとずっと嫌われる事無くこうして居られたらいいのにって本気で思ってしまった。
「あの……僕の事を母上はジェイって呼びます……だからカメリア様も僕の事ジェイって呼んでくれますか?」
「はぁうぁわぁ!」
なんとか耐えていた可愛さに、十数倍の攻撃が加わりましたー!
可愛すぎて思わず胸を抑え倒れそうになってしまったけれど、深呼吸をして落ち着かせた。
ジェイデン様……流石攻略対象だけあってモテ要素が子供時代から半端ない。
初日でこれだけ心臓えぐられて、私この先耐えて行けるかしら……
いいえ、カメリア! このチャンスを逃してはダメ!
推しを愛でると決めたのだから、精一杯ジェイデン様の要望を聞き入れなければダメでしょう。
ジェイ呼びだなんて私にはご褒美でしか無いけれど……
「あ、あの……カメリア様、大丈夫ですか? もしかして胸が苦しいの?」
ふーっと息をつき、ジェイデン様へと笑顔を向ける。
完璧な姉! ジェイデン様の憧れの存在になるのが目標なのに、初めからこんな体たらくを見せる訳にはいかないもの、そう思い気合で何とか心を落ち着かせた。
「ジェイデン様、申し訳ありません。少し嬉し過ぎて驚いただけですわ」
「嬉しいの?」
「はい、ジェイデン様を……その、ジェ……イ……だなんて私がお呼びしても本当に宜しいのですか?」
「うん、嬉しい! あ、ごめんなさい、嬉しいです」
ジェイデン様の嬉しそうな笑顔に胸がぎゅうっと痛くなる。
ジェイデン様はこれまで辛い思いだって沢山しているはずなのに、こんなにも良い子に育っている。
きっと母親であるマリア様の教育が良かったのだと思う。
父親の方はいずれ会った時にジェイデン様に行った罪を100倍返しさせて貰うけれど、マリア様の事はジェイデン様と同じぐらい幸せにして見せる。
この美しい親子を絶対に私が幸せにして見せるから!
「ジェイデン様……いいえ、ジェイ、私の事はどうかリアと呼んでくださいね」
「えっ? 良いのですか?」
「勿論ですわ。それに言葉もマリア様に向けるように砕けて下さった方が私にはご褒美……ゴホンッ、私も嬉しいですわ。ジェイとは本当の姉弟になりたいから……」
「本当に? カメリア様を僕の姉上と思って良いの?」
「はい、是非お願いしますわ」
「うん、ありがとう、リア、嬉しい」
ジェイデン様は天使かと間違えるほどの可愛らしい微笑みで、私の手をぎゅっと握り返してきた。
本当にこの可愛い生き物をこの世界に作りだして下さった製作者様には感謝しかない。
またまたドキンドキンと心臓が激しく鳴って胸が痛くなったけれど。
ジェイデン様を幸せにする為にはここで天に召されるわけにはいかない。
私の力で最悪のシナリオだけは回避したい。
そう最悪のシナリオではジェイデン様が死んでしまうエンディングになってしまうのだ。
それだけは絶対に……絶対に阻止したい。
その為にもたっぷりの愛をジェイデン様に注いでこの世界が幸せなものだと思って欲しい。
それがこの世界に生まれ落ちた私の使命だと思うから。
「ジェイ、それではまた後でお迎えに参りますね」
「うん、リア、ありがとう」
小さな手で手を振るジェイデン様に同じ様に手を振り返し、私はそっと自室へと戻った。
ゲームのシナリオに逆らっても絶対にあの笑顔を守り抜く。
そう誓い直した朝となった。
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