第3話ジェイデン様

 義理の母マリア様とジェイデン様が我が家にやって来た翌朝。


 私はジェイデン様と仲良くなるべく、朝食に向かう前にお部屋を覗きに行く事にした。


 決して寝顔を見たいとかそんな邪な気持ちではなく、家族として仲良くなりたいという純粋な気持ちからだ。


 でも……ちょっとだけ私の心には焦りもある。


 だって私は悪役令嬢。


 この世界でどんなに頑張ってもジェイデン様には嫌われるように出来ているのではないかと思って居るからだ。




 この乙女ゲームの中では各家にイメージカラーが有って、悪役令嬢のカメリア・スピネルの侯爵家は赤だ。なので私の髪色はお父様そっくりの赤色で、瞳はお母様そっくりの黒色だ。目も釣り目で気の強そうな顔をしている。


 ただ美人ではあるし、将来的には背も高く、胸もしっかりと有って、ナイスバディになる予定だ。

 そこは女性として有難いと思うのだけれど、きっとジェイデン様の好みでは無いと思う。


 何故ならヒロインはイメージカラーが優しい色合いのピンクで、ヒロインは背も小さくほっそりとしていて、リスやウサギのような可愛い小動物のような女の子だからだ。


 ジェイデン様の好みがヒロインだとしたら、このカメリアは真逆だと思う。


 なので好かれようとは始めから思って居ない。


 嫌われなければいいぐらいの気持ちだ。


 ただし、私自身はジェイデン様を溺愛するつもりでいる。絶対に。




 

 実は幼いジェイデン様には既に辛い過去がある。


 ジェイデン様の実の父親は伯爵で、今も生きている。


 ジェイデン様が父親と同じ紫色の髪色でなかった為、母親であるマリア様は不貞を疑われて離縁させられたのだ。


 今よりもっと幼い頃のジェイデン様はそんな父親に虐待を受けていたらしい。





 魔力量の多い子は特質的な髪色になるのがゲームの中の設定なのだが、この世界では何故かその事が浸透しておらず、魔法に詳しい一部の人間しかその事実を知らない。


 そうその一部の人間というのが私の父親でもあるカジミール・スピネル侯爵。


 父はジェイデン様の魔力の多さに目を付け、養子にと見込んだのだ。

 

 流石我が父親、ジェイデン様を選ぶとは目の付け所が違うといったところだろうか。


 そして不貞を行った女というくだらない噂を消す為にマリア様を妻にし、侯爵夫人の地位につかせた。


 元伯爵夫人、それも不義の子を産んだと噂される女性だったのにマリア様は一気に侯爵家夫人だ。


 まさにシンデレラストーリーだし、マリア様を守ろうとしたお父様はとても素敵だと思う。




 これによってマリア様の卑しい噂は消えたが、ゲームの中のカメリアはその事が気に入らなかった。


 悪い噂を持っていた義母のマリア様を毛嫌いし、能力が高く優秀な義理の弟であるジェイデン様をも憎んだ。


 この屋敷に二人が来てからは父親の目を盗んでは二人を虐め抜いていく。


 自分の手は汚さず、使用人を使ったり、二人の悪い噂などを社交の場で上手く流して見せる。


 そのせいでマリア様は数年で心を病んで亡くなり、ジェイデン様はその後カメリアに奴隷のように扱われ、深く傷つき心を閉ざしていく。




 そのジェイデン様の心を救うのがヒロインなのだけど……




 まず悪役令嬢の私はそんな虐めジェイデン様にもマリア様にもする気は全くない。


 新しくお母様になったマリア様とは仲良くなる気満々だし。


 ジェイデン様の事は愛でて愛でて愛で抜く気満々だ。


 それこそ箱入り息子ならぬ、箱入り推しメンにするつもりでもいるし、マリア様の事は理想の母だと世間にも自慢する気でいる。


 ゲームのストーリー的に私が二人に好かれない事は分かっているけれど、せめて嫌われないように出来たらと思って居る。それが今の私の目標だ。




 毎朝挨拶を交わせるだけでも良い……


 姉弟として、少しでも長く一緒に過ごせたら……

 

 ちょっと欲を言えば笑顔を向けて貰えたらばなお嬉しい……




 実は昨日の恥じらうジェイデン様の可愛い姿を見て、少し欲が膨らんでしまった。


 本音を言えばやっぱり嫌われたくないし、少しでも好かれたいと思ってしまった。


 ヒロインの様に愛されなくても……近くに居ることを認めてもらいたい。


 叶わぬ夢かも知れないけれど……好かれる努力はしていきたいと思う。





 ジェイデン様の部屋の前に着いた。


 私の部屋と同じ階にあるので五歳の私でも一人で迎える。


 メイド達が起きてくるよりもずっと早い時間に部屋を抜け出してきた。


 だって早くジェイデン様に会いたかったから……


 やっぱりこれは邪な気持ちなのかもしれない……


 小さな手で扉をノックする。


 まだ朝早いのでジェイデン様からの返事はない。


 そっと扉を開け、部屋に入っていく。


 私の部屋と作りは同じだけど、家具が落ち着いた色合いで男の子寄りだ。




 寝室と思われる続き部屋に入るとジェイデン様はまだ寝ていた。


 ドキドキしながら近づいて行く。


 寝込みを襲う気は無いけれど、ちょっとだけやっぱり可愛い寝顔を見たい欲が出た。


 ベットに近づくとスース―と寝息をたてているジェイデン様が見えた。


 ジェイデン様の父親は紫の髪色だったけど、ジェイデン様は黒い髪に赤い瞳だ。


 この世界では黒髪はとても珍しい色なので、怖がられてしまう要因にもなる。


 だけど私はジェイデン様のこの素敵な髪色が好き。


 赤い瞳も宝石のように綺麗で大好きだ。


 昨日始めてジェイデン様に会った時、キラキラとジェイデン様の周りだけ輝いて見えた。本当にジェイデン様は美しい男性なのだ。




 背の低い今の私ではジェイデン様の寝顔が良く見えなくて、起こさないようにそっとベットによじ登った。


 大きなベットの中一人寝ているジェイデン様は天使の様だった。


「髪に触っても良いかしら……」


 黒色のサラサラの髪にそっと触れる。


 カメリアの赤い髪はふわふわしているけどジェイデン様の髪はしっとりとして触り心地が良い。


 何度も何度もナデナデしていると、ジェイデン様がパチッと綺麗な赤い瞳を開けて私を見てきた。


「ジェイデン様、おはようございます。カメリアです。今日から沢山遊びましょうね」


 私を見て驚いたジェイデン様はとっても可愛かった。


 フフフ、また新しい表情を頂きました。ご馳走様です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る