第50話愛しの魔王様
結婚式を終えた後、エヴァリーナとランヴァルドは城へと戻り、結婚披露パーティーへ向けての準備に入った。
今宵は国中の貴族が集まり、新しく王妃となったエヴァリーナの事を品定めに来ることだろう。
ただでさえ貴族の間では、自国の令嬢ではなく大国の令嬢のエヴァリーナが王妃になった事に、反感を抱くものも多いはずだ。
それに【冷酷の姫】という名の本も魔国では広まっている。
エヴァリーナが王妃になることに嫌悪する者もいるかも知れない。
エヴァリーナにとって今夜の夜会は戦場とも呼べる場所だった。
夜会用に準備したドレスはランヴァルドの瞳と同じ、赤色だった。
これまでのドレスよりも少し大人びた仕上がりになっていて、背の高いエヴァリーナには良く似合っていた。
「エヴァリーナ様、とてもお似合いですわ」
マーガレットとデイジーの言葉にお礼を言う。
傍にいるクリスも満足そうな表情だ。
クリスは当然の事、マーガレットとデイジーも今ではすっかり ”エヴァリーナ様愛” に満ちて居た。
出会いの頃を思えばその差は歴然だ。
あれだけ怯えていたマーガレットとデイジーは今はいない。
エヴァリーナの為ならばと良くしてくれている。
そんな三人の深い愛情に、エヴァリーナは感謝しかないのだった。
「エヴァリーナ、準備は出来たかえ?」
ノックもなしに部屋へとやって来たのは勿論ヒメナだ。
可愛らしい紺色のドレスに身を包み、髪はツインテールにまとめている。
この姿のヒメナを見て、まさか三人の子持ちだとは誰も思わないだろう。
それに子供たちはヒメナの倍の大きさはあるのだから、隣に並んでもどちらが親に見えるかは一目瞭然だった。
「おうおうおう、エヴァリーナは赤も似合うのー、ほんにかわゆいでは無いか! エヴァリーナ、今宵はわらわと一緒に夜まで語り明かそうでは無いか、やっとお互い人妻になったのだからのー、色々と話はつきぬと思うぞ」
「それはダメだ!」
ヒメナの言葉に口を挟んできたのは、準備が整ったランヴァルドだった。
何故ダメなのじゃ? とニヤニヤするヒメナに、ランヴァルドは頬を染めそっぽを向く。
今夜始めてエヴァリーナと夜を過ごすことが許されるランヴァルドにとって、ヒメナのいたずらはどうしても許せない事だった。
「ヒメナ様、今宵は忙しい夜となりますので、また別の日にゆっくりとお話は聞かせてくださいませ」
可愛いエヴァリーナにそう言われれば、ヒメナも素直に頷いて見せる。
ただしランヴァルドだけは、エヴァリーナと自分が夜を共にしない日など今後絶対にあり得ないため、ヒメナの願いは一生叶わないだろうと心の中で毒ついていた。
そしてエヴァリーナとランヴァルドは国中の貴族が集まる中、王と新王妃として会場に登場した。
大国の令嬢という事で注目される中、エヴァリーナは妃教育で学んで来た王妃としての品のある所作を見せた。
そしてエヴァリーナが浮かべる笑みは、魔国の王が夢中になっている姫と、噂されている事が可笑しくない程美しい物だった。
そのエヴァリーナ姿に感嘆の声が上がる。
魔国の貴族達がエヴァリーナを王妃として認めた瞬間だった。
「皆、今宵は私の為、そして我妻となったエヴァリーナの為に集まって貰い感謝する」
ランヴァルドの言葉の後に貴族たちからの挨拶が始まった。
エヴァリーナはランヴァルドの隣に立ち笑顔でそれを受ける。
これ迄大国では自分が王妃として頑張らなければならないと思っていたが、今ランヴァルドの隣に王妃として立っているエヴァリーナに、気負いはなかった。
ランヴァルドの傍にいれば幸せであり、どんなことも乗り越えられるだろうとエヴァリーナには自信があった。
真実の愛を掴んだエヴァリーナは、今この国の誰よりも美しく輝いていた。
そして会場にはエヴァリーナの家族であるウイステリア侯爵夫妻や兄の姿もあった。
エヴァリーナの幸せそうな様子に、家族も幸せそうな笑みを浮かべていた。
大国では王家に望まれたこととは言え、何度も王妃になどならない方がエヴァリーナは幸せでは無いのかと、家族皆が考えて居たが、今このエヴァリーナの姿を見れば、あの辛い時期があったからこその幸せだと、ウイステリア家の皆はそう思っていた。
結婚披露パーティーを終えると、流石にエヴァリーナも疲れからぐったりとなってしまった。
そんなエヴァリーナに気を使いつつ、マーガレットとデイジー、それにクリスがエヴァリーナをまた磨き上げていく。
もうあと少しすれば、ランヴァルドはこの部屋にやって来るだろう。
その時にエヴァリーナを見てランヴァルドが驚く姿を想像しながら、三人は準備を進めていった。
先触れが届くと、三人は速やかに部屋から退出した。
ノックの音と共にランヴァルドが部屋へとやって来ると、清楚なナイトドレス姿のエヴァリーナに視線が釘付けとなった。
昨日も今日も何度もエヴァリーナの事を美しいと思ったが、ランヴァルドはまた今宵も、エヴァリーナの魅力の限界の無さに、驚きが隠せなかった。
「……マオ様……」
ポッポと頬が染まるエヴァリーナの可愛い姿に、ランヴァルドは苦しくなる程胸が締め付けられた。
そっとエヴァリーナの手を取り見つめ合う。
「疲れていないか?」
とランヴァルドが優しく問いかければ、エヴァリーナは少し俯きながら
「少しだけ……」
と囁くように答えた。
エヴァリーナの細い肩が、美しい首筋が、唇が……
ランヴァルドには全てが魅力的過ぎた。
「エヴァ……少し星を見ようか?」
ランヴァルドに肩を抱かれ、テラスへと出る。
テラスからは夜の灯りが輝く美しい庭園が見えた。
ランヴァルドはそっと「寒くは無いか?」とエヴァリーナに囁いた。
愛しい人の傍にいて、エヴァリーナは心も体も温かい物に包まれている様だった。
この優しい人と、この国で幸せになりたい。
エヴァリーナは心の底からそう思っていた。
「エヴァがこの国に来てから、私は毎日感動し、全てが色づいて見える……エヴァが傍にいるだけで私は心が休まり、とても幸せだ……私はもうエヴァリーナを片時も手放すことは出来ないだろう……エヴァリーナはそんな私の傍にずっといてくれるか?」
少し潤んだ赤い瞳に見つめられ、エヴァリーナの胸はぎゅうっと締め付けられたようになった。
エヴァリーナよりもずっと大人で、魔法も使え、強く、逞しく、その上美しいランヴァルドが、エヴァリーナには可愛くて、愛おしくて仕方が無かった。
「ランヴァルド様……マオ様……私の愛おしい方……私をあなたの傍に一生置いて下さいませ……」
そう呟いたエヴァリーナをランヴァルドはきつく抱きしめた。
こうして魔法の国の王は愛する女性を妻に迎え、この後も続く長い人生を幸せに過ごしたのだった。
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