最終章 愛しい人

第49話結婚式

 マーガレット、デイジー、クリスの手によって磨き上げられたエヴァリーナは今、純白のドレスに身を包み、美しく着飾っていた。


 誰もが見惚れるほどの美しさの中に、愛する人から愛されているという自信が、エヴァリーナの魅力を最大限に引き出していた。


 慎まやかにしていればその様子は凛とした花のようで、笑えばその花が開いたようになる。


 魔国の王の妃になった歴代の女性の中でも、エヴァリーナのその美しさは今後語り継がれる事だろうことは、この場に居る誰もが想像がついた。


 それ程今日のエヴァリーナは美しく、またそれが心配でもあった。


 何故ならこれ程美しい状態のエヴァリーナを、ランヴァルドが他の者に見せたがらないのではないかという心配があるからだ。


 大国から戻った時点で、ランヴァルドのエヴァリーナに対する愛の重さ、そして深さは尚更増していた。


 元婚約者の件があったため、皆その事でランヴァルドの行き過ぎるほどの愛が増しているのだろうと納得しては居たのだが、その後竜人族の王子三人の登場で益々愛が重くなった。


 朝、朝食へ向かう為の部屋への迎えは当然の事、昼は一緒に摂り、夜も当然またエヴァリーナの部屋へと迎えに来る。


 エヴァリーナの部屋に長時間ヒメナが居座ろうものならば、執務の間でも飛んでくる有様だった。


「ランヴァルド、束縛が酷いとエヴァリーナに嫌われるぞえ」


 ヒメナのこの言葉に流石のランヴァルドも思いとどまるかと思ったのだが、エヴァリーナに嬉しいと言われると、益々調子に乗ってしまったランヴァルドの束縛は、それはそれは重い物になった。


 竜人族の王子たちがあれからエヴァリーナには会えていない事が良い証拠だった。


 ランヴァルドは一瞬たりともエヴァリーナを誰かに取られたくは無い様だった。




 そんな重い愛にも耐えられるエヴァリーナの部屋にノックの音が響いた。


 準備が出来ていたエヴァリーナは立ち上がり、扉の前に立つ。


 マーガレットとデイジーは頷くと、扉を開けた。


 ランヴァルドは扉が開いた瞬間に、エヴァリーナの姿を見て息をのんだ。


「エヴァ、私の女神……美しい……」


 ランヴァルドが喜んでくれたことにエヴァリーナは嬉しくなる。


 けれどランヴァルドの着飾った姿を見れば、エヴァリーナは自分など霞んでしまう事は良く分かっていた。


 この国の王は世界一美しい方……


 エヴァリーナは自分の愛する人を見つめ、その美しさに息が漏れた。


「ランヴァルド様、ランヴァルド様こそとても美くしいです……」


 お互いを褒め合いながら照れて居る二人に、周りがその熱でとろけそうになる。


 甘い雰囲気に皆が居た堪れなくなりそうなところで、ラルフの声が響いた。


「国王陛下、エヴァリーナ様、そろそろお時間でございます」



 美しいエヴァリーナをもっと見ていたかったと言いたげなランヴァルドに「早く結婚したいんだろう?」とラルフがそっと囁けば、ランヴァルドはハッとしたようにエヴァリーナのエスコートを始めた。


 そして魔国の馬車で空を飛び、教会まで向かう。


 地上では国民達が空を飛ぶ馬車を見上げ、歓声を上げていた。


 結婚式が終われば街中でパレードがあるが、久しぶりの国を挙げての祝い事に、国民達の喜びは既に大きなものだった。




 教会へ着くと、エヴァリーナは魔国へと駆けつけてくれた、父親であるウイステリア侯爵が待つ控室へと向かった。


 そこには兄、そして母も待っていて、娘としての最後の挨拶をする。


 両親と兄を大国へと向かえに行ってくれたのはラルフだった。


 魔国の馬車で昨日のうちにあっと言う間に家族を迎えに行き、この式に呼んでくれたのだ。


 本来ならばあの大国での婚約式が結婚式の代わりで、両親はこの魔国には来れないはずだった。


 それをお忍びでという事でランヴァルドが呼び寄せてくれたのだ。


 エヴァリーナはそのランヴァルドの優しい気遣いがとても嬉しかった。


「お父様、お母様、お兄様……」

「エヴァリーナ、とても綺麗だ……」


 エヴァリーナの幸せそうな様子に両親も兄もホッとする。


 大国のあの王子ではなく、この魔国に嫁げたことは、エヴァリーナの為に本当に良かったと三人とも心からそう思っていた。




 そして式の時間となり、兄と母は自分たちの席へと向かった。


 エヴァリーナは父親であるウイステリア侯爵と共にランヴァルドが待つ式場へと向かう。


 扉が開き、父親のエスコートを受け、一歩一歩エヴァリーナは赤いカーペットの上を歩く。


 ランヴァルドは笑みを浮かべ、エヴァリーナが自分の元へ来るのを待つ。


 ウィステリア侯爵から「宜しくお願いします」と小さな声で挨拶を受け、ランヴァルドは力強く頷いた。


 そして厳粛な雰囲気の中、司祭の声が響く。


「魔国の王、ランヴァルド・マオダーク・マジカルド。汝はエヴァリーナ・ウィステリアを愛し、健やかな時も、病める時も、豊かな時も、貧しき時も、共に過ごし、共に立ち向かう事を、汝の魔力に掛けて誓いますか?」

「我が魔力全てを掛けてここに誓う」

「エヴァリーナ・ウィステリア、其方も誓いますか?」

「はい、誓います」


 二人が誓いの口付けを落とせば、拍手が上がる。


 そのままエヴァリーナとランヴァルドは教会のテラスへ向い、集まった国民達に手を振り応える。


 国民達から大歓声が上がり、それに応える様にランヴァルドは空へと魔法を打ち上げた。


 空がランヴァルドの心の喜びを表す様に七色に輝く、国民は国王と新しい王妃に盛大な拍手を送った。


 ランヴァルドとエヴァリーナは国民からの歓声に喜び見つめ合い、また手を振り応える。


 仲睦まじい二人の様子に国民達は大喜びであった。




 その後エヴァリーナとランヴァルドは馬車に乗り、ゆっくりと城へと向かった。


 美しい王と新しい王妃の姿に、外道に集まる人々は歓喜した。


 国民に愛される国王と王妃が誕生した瞬間であり、そして新しい魔法の国の幕開けだった。


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