第42話大国への帰路

 大国へ向かう日を迎えた。


 エヴァリーナの荷造りはマーガレットやデイジー、それに勿論クリスのお陰でとても早く準備する事が出来ていた。


 それをランヴァルドが魔法で収納してくれた為、大国から魔国へ向かう時と違い、荷馬車は殆ど付いて来ない。


 ランヴァルドとエヴァリーナだけならば、クリスを迎えに行った時の様にあっという間に大国へ着いただろう。


 だが今回は違う。


 魔国からエヴァリーナが戻ってきた事を見せなければならない。


 例え無駄な時間を使う事になったとしても、エヴァリーナが魔国の王の婚約者になった事を、大国に大々的に知らしめる必要があった。


 その為、3台の馬車で大国へは向かうのだが、王都に着く直前にランヴァルドが魔法を使い、多くの馬車が連なっている様に見せる様だ。


 エヴァリーナを王妃として魔国が歓迎している事を、ランヴァルドは大国中に知らしめたい様だった。


「ヒメナ達竜人族に頼んで飛竜の軍団で大国に行っても良いのだが……」


 ランヴァルドがかなり本気でそんな事を口にすると、勿論ヒメナが「ソレは良いことじゃ!」 と興奮気味に喜び、エヴァリーナとクリスは二人を止めるのが大変だった。


 あの二人は結託すると最強のコンビになってしまう様だ。喧嘩しているぐらいが丁度良いと、この時ばかりはエヴァリーナもクリスも思ってしまった。


 飛竜が連なって大国へと行けば、きっと魔国から戦争を仕掛けられたと思われ、庶民達は阿鼻叫喚とかすだろう。


 想像しなくても大事になってしまう事は大国の者なら誰でも分かる。

 エヴァリーナとクリスはどうしてもそれだけはダメでございますと、何とかランヴァルドとヒメナに思い止まって貰った。


 魔国の他の者達には何故エヴァリーナとクリスがそこまで慌てるかが分からない様だった。それだけ飛竜がこの魔国では浸透していると言う事だろう。





「それではヒメナ様、行って参ります」

「うむ、エヴァリーナ、気を付けるのじゃぞ、何かアレばすぐにわらわに連絡をするのじゃ、ビルテゥスと共に駆けつけるからのー」

「ヒメナ様、有難うございます。ヒメナ様もご自宅までお気を付けてお戻り下さいませ」

「うむ。エヴァリーナの結婚式には息子達を連れて戻って来るからのー、楽しみにしておれよ」


 エヴァリーナが大国へと戻っている間、ヒメナは自宅へと戻る事になっている。


 先日はエヴァリーナの帰郷のお土産にと、日帰りで自慢の林檎を取りに戻ってくれた。

 それと一緒に林檎酒や、林檎のお菓子までも沢山持って帰って来てくれた。


 可愛いエヴァリーナの為ならば当然じゃ! と言われた時、エヴァリーナは涙が出そうだった。


 この魔国で愛され、大切にされている。


 それはあの嫌な思い出の残る国へと戻る後押しになった。


 私は幸せ。


 それを皆に見せよう。


 エヴァリーナはそう思っていた。




 魔国内では馬車は空を飛び、あっという間に大国との国境へと着いた。

 今回ランヴァルドが留守の間の城の守りはステファンが、そしてランヴァルドの護衛にはラルフだけが付いて来ている。


 エヴァリーナには勿論クリスだ。

 マーガレットとデイジーは留守番を残念がっていたが、こればかりは仕方が無い。

 それに戻ってからは結婚式が待っている。二人はそれに向けての準備に燃えている様だった。


 大国に入ると、馬達は羽根をしまった。

 馬車はかなりの速度で進んでいるが、通りすがりに見かける領民達は誰も馬車の事など気にしても居ない様だった。

 

 どうやらまたランヴァルドが何かの魔法を掛けている様だ。ランヴァルドの魔法の素晴らしさにはいつも驚かされる。


 こんなにも優しいランヴァルドが他国に怖がられているのは、この力があるからこそだろう。

 けれど心優しいランヴァルドだからこそ、これだけの力を授けられたのだろうとエヴァリーナは思っていた。




 野営の時間となると、ランヴァルドが魔法であっという間にテントを建ててしまった。使用人達が素早くその中に入り準備を始める。


 魔法でテントが建つことは、魔国の皆は慣れた物のようだったが、エヴァリーナとクリスは初めての体験だったのでとても驚いた。

 エヴァリーナを驚かすことが出来て満足そうなランヴァルドにエスコートされながら、エヴァリーナは天幕の中へと入った。


 そこは城の中と言っても可笑しくない程の部屋があり、二階へ続く階段まで有った。

 そのままエスコートされながら応接室へと向えば、もうそこがテントの中だと言う事も忘れるほどだった。


 宿なら必要ない。


 ランヴァルドにそう言われた事は確かだった。


「エヴァ、夜は一緒に星を見よう。ここならばきっと美しい星空が見える」

「はい、マオ様、楽しみにしております」




 そしてその夜、二人は星を見上げた。


 周りにはエヴァリーナ達のテントの他には何もなく、そこから少し離れれば星が輝く夜空はハッキリと見えた。


 ランヴァルドはテントを守る結界の外へと出ると、エヴァリーナを抱え上げ、魔法を使い高い場所へと飛び移った。

 そして岩場の上に二人で腰かけると、夜空を見上げた。


「まあ……マオ様……とても素晴らしい夜空ですわ……」

「ああ……今宵の月はまた一段と綺麗だ……きっと隣にエヴァがいるからだろう……」


 ランヴァルドはそっとエヴァリーナの肩を抱き、優しい瞳で見つけて来た。


 この世の物とは思えな程の美しい瞳見つめられ、エヴァリーナの鼓動は早鐘を打っていた。


 この美しい方の傍に居る事だけは一生慣れることはないかもしれない……


 エヴァリーナは密かにそう感じていた。


「エヴァ……大国の王城へ出向くことは嫌では無いか?」


 優しいランヴァルドの言葉とは反対に、抱かれている肩にはぎゅっと力が入った。


 ランヴァルドが元婚約者とエヴァリーナが顔を会せる可能性があることを、心配してくれている事がエヴァリーナにはすぐに分かった。


 けれどエヴァリーナは今とても幸せで、元婚約者の名を聞いても、顔を見ても、声を聞いたとしても、何とも思わない自信があった。


 その思いが伝わったのだろう。


 ランヴァルドはエヴァリーナがニッコリと微笑み見つめれば、ぎゅっと抱きしめ額に口づけを落した。


「エヴァ、エヴァリーナ、何が有っても私が必ず君を守り抜くからな……」

「……マオ様……有難うございます……」


 ランヴァルド以上にこの言葉を発して安心できる方はいないだろうと、エヴァリーナはランヴァルドの背に手を回しながら今そう感じていた。

 

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