第41話初めてのデート

「マオ様、どうかなさいましたか?」

「うっ……いや……何でもない……」


 馬車に乗り、街の中まで入ってくると、大通りの馬車停めの有るところで馬車から降りた。


 護衛としてラルフとステファンがついて来てくれているが、ランヴァルドより強い相手はこの魔国にはいないため、エヴァリーナとランヴァルドから距離を取りデートを邪魔しないようについて来てくれている。


 ランヴァルドの傍に居ればエヴァリーナは安全という事のようだ。本来は護衛など居なくてもいいぐらいらしい。


 この事は二人きりのお出掛けを邪魔されたくないランヴァルドの指示によるものだが、その事はエヴァリーナは知らない。


 余計な情報はエヴァリーナには必要ないとランヴァルドは思っている。


 そんなエヴァリーナは今日は商家の娘に見えるようにマーガレットやデイジーに準備してもらった。


 エヴァリーナの雰囲気からするとどう見てもただの商家の娘には見えないため、富豪の娘と言ったところが妥当だろうか。


 マーガレット達には変装は完璧だと評価されたのだが、エヴァリーナを見てからと言うものランヴァルドの様子が可笑しい。


 エヴァリーナを見れば目頭を押さえため息をつき、視線が合えば目を逸らす。


 ランヴァルドも街へ出るという事で、大店の若旦那のように見える服装でいるが、見た目が美しいため、変装が変装にはなって居ない。


 街行く人々がランヴァルドを見れば振り返る。


 中には立ち止まるものも居るぐらいだ。


 どんな服装をしていても美しい人は隠しきれないのだわ……とエヴァリーナは思う傍ら


 隣に並ぶ自分が余りにも見劣りしてしまうので、ランヴァルドはその事を言いだせないでいるのではないかと不安になった。


 立ち止まりランヴァルドを見上げれば、やっぱりランヴァルドには視線をそらされてしまった。


 不安が確信に変わった瞬間だった。


「……マオ様……今日はもう帰りましょう……」

「えっ? ど、どうしたエヴァ、具合でも悪いのか?」

「いえ……マオ様のご様子が可笑しいので、私が隣にいるのが恥ずかしいのではないかと……その……着なれない服装なので私には似合っていないのではと……」

「ち、違う、その逆だっ!」

「……逆? ですか?」

「そ、そうだ。エヴァがあまりにも可愛すぎて目のやり場に困っていただけだ、だからエヴァが落ち込む必要などどこにもないのだ。エヴァは間違いなく世界一美しい女性だっ!」

「マオ様……」


 ただでさえ目立つ二人が愛を語り合って居れば、通りを歩く人々の注目を集めることは当然で


 これでは目立たないようにと変装してきた意味がないと、ラルフとステファンは少し離れていたところでため息をついてた。


 そんな周りの様子に気が付いたエヴァリーナもラルフとステファンがいる方へと視線を向ければ、苦笑いを浮かべているのが見えた。


 エヴァリーナは少し恥ずかしかったけれど、それよりもランヴァルドに世界一美しいと言われた喜びが強かった。


(マオ様こそ世界一優しくて素敵な方です……)


 心の中でそう思えば、ランヴァルドにはハッキリと伝わったのだろう。


 つなぐ手にぎゅっと力が入った。


 ランヴァルドも喜んでくれている様だ。


 


 心が晴れてスッキリとしたエヴァリーナは、ランヴァルドとのお出掛けを楽しんだ。


 気になる店にはすべて立ち寄り、魔国の店を十分に味わった。


 クリスやマーガレット、それにデイジーにはお揃いのペンダントを購入した。


 お世話になったヒメナには、ヒメナそっくりなウサギのぬいぐるみを購入した。


 それから両親や兄には魔国の面白い魔道具をお土産に買って帰ることにした。


「この腕時計は身を守ってくれるものだ侯爵には丁度いいのではないか? それにこのオルゴールは安眠を促してくれる、それにこの本は物語に中に入っている感覚になれるものだぞ」

「きっと両親も兄も喜びます。フフフ……早く顔が見たくなって参りました」


 魔国へ向かう際もランヴァルドの為にと時計やオルゴール、それに石鹸などクリスと共に街を見て回ったことをエヴァリーナは思いだした。


 あの時も楽しかったけれど、この魔国での買い物はその何十倍も楽しかった。


 勿論傍にランヴァルドがいてくれるからというのもあるが、見るものすべてがエヴァリーナは新鮮で面白く、憧れていた魔国に今自分が居るのだと実感が持てる物だった。




 買い物が済めば食事へと向かった。


 魔国のレストランへと入るのが初めてだったエヴァリーナは、とてもワクワクしていた。


 城の厨房には随分となれたけれど、レストランとなるとまた違う魔法が使われているだろうと期待していた。


 でも残念ながらエヴァリーナとランヴァルドの席からは、レストランの厨房は見ることは出来なかった。


 ただしレストランでは注文した料理が従業員の後を勝手について来ていた。


 その姿が可愛らしくて、料理を食べるのが忍びなくなるぐらいだった。


 勿論お腹いっぱいになるまで美味しく頂いたけれど……


 出来ればずっと見ていたいと、エヴァリーナはレストランを楽しんだ。




 楽しい時間というのはあっと言う間で、食事を終えると城へと戻る時間になってしまった。


 もっとランヴァルドとのこの楽しい時間を味わいたかったなとエヴァリーナが感じていると、ランヴァルドからこれから沢山の想い出を一緒に作っていこうと声を掛けられた。


 勿論エヴァリーナはその言葉に頷く。


 ランヴァルドとならばきっと楽しい毎日が過ごせることだろう。


 それがこれからの一番の楽しみだった。


「そう言えば今日はヒメナ様はどうなされたのでしょうか? 朝からお会いしておりませんが……」


 ヒメナが城に居付いてからというもの、ヒメナがエヴァリーナの部屋に来なかった日は無い。


 もしかして今日はお出掛けという事で遠慮しているのかしら? とも思ったが


 どう考えてもヒメナはそんな性格ではない事を思いだしていた。


 ランヴァルドはクスリと微笑むと、ヒメナの様子を教えてくれた。


「フッフ、今日はエヴァとの初の街歩きだからヒメナには邪魔されたくなくてな、別の用事を頼んだんだ」

「別の用事ですか?」


 なんでも大国にヒメナの自慢のリンゴを持っていきたいと話したところ、喜んで取りに戻ってくれたらしい。


 自慢のリンゴをエヴァリーナが気に入ったとランヴァルドがヒメナに話したようだ。


 後でランヴァルドがヒメナに怒られないかと少しだけ心配になった。


 けれど仲が良いからこその喧嘩なのだろう……


 そんな二人の遠慮ない関係がエヴァリーナは好きだった。




「マオ様、街があんなにも小さく見えますわ」


 馬車が高い位置にある城へと近づくと、今日行った場所は小さく輝いていた。


 エヴァリーナが街を見つめればランヴァルドが後ろから抱きしめて来た。


 ランヴァルドはこうやってエヴァリーナに甘える事が好きなようだ。


 エヴァリーナもまた甘えられると嬉しいと感じていた。


「エヴァ、また必ず行こうな」

「はい、必ず」


 エヴァリーナはこの約束が必ず叶うものだと、もう疑いもしないのだった。

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