第39話婚約式
教会で行う婚約式の為、エヴァリーナはクリスと共に馬車を走らせた。
ランヴァルドとは教会で顔を会せることになっている。
ヒメナがエヴァリーナの着飾った姿を見てランヴァルドがどんな顔をするのか見ものじゃと、教会へ向かうエヴァリーナを見送りながら楽しそうに笑って居た。
婚約式は側近だけを集められ厳かに執り行われる。
その代わり結婚式は国を挙げてのお祭りになり、盛大なものになる様だ。
庶民たちも魔国の王のお相手を見るために、教会へ大勢の人が集まるらしい。
その話を聞いた時、あれほど美しい王であるランヴァルドの相手が自分で良いのかとエヴァリーナは少し不安になったが、ランヴァルドがエヴァリーナを良いというのだ、自信を持とうと思い始めていた。
教会は大聖堂と呼べる程大きな物で、歴代の王がこの教会で結婚式を挙げて来たそうだ。
エヴァリーナは今日は薄いピンク色のドレスを着ている。
魔国での婚約式では薄いピンク、水色、クリーム色のドレスが定番の様だ。
大国にいた頃のエヴァリーナで有れば、迷わず水色のドレスにしていただろう。
けれどランヴァルドとの婚約式では、大国で愛の色と言われているピンク色を身に着けたかった。
エヴァリーナは今、真実の愛を手に入れたのだから……とそう思っていた。
教会へ到着すると、入口では既にランヴァルドが待っていた。
本来ならば王であるランヴァルドは、大司祭の部屋にでも居て打ち合わせをしている筈だろう。
クリスが苦笑いになりながら
「早くエヴァリーナ様を見たかったのでしょうね」
と言えば、エヴァリーナは自然と口元が緩んでしまった。
恥ずかしいけれど、嬉しい。
誰かに愛されるとはこういう気持ちなのだろう。
両親や兄、それにクリス達使用人にも愛されてはいたが、ランヴァルドの愛はそれとは違うものだった。
ランヴァルドを思うと、落ち着かない気持ちと、それでいて安心出来る気持ち。
相対さない二つの思いが今エヴァリーナの中にはあった。
馬車が着くと、誰よりも先にランヴァルドが近づいて来た。
ラルフやステファンまでもクリスの様な表情を浮かべて居るのが見えた。
馬車の扉が開き、エヴァリーナの姿が見えると、ランヴァルドは嬉しそうな表情を浮かべてくれた。
着飾ったエヴァリーナに満足して貰えたようだ。
「エヴァ、美しい……」
「有難うございます……」
見つめ合う二人の間にはお互いしか映っていない。
ラルフがゴホンッと咳払いするまで、エヴァリーナとランヴァルドは見つめ合っていた。
気が付けば迎えに来た司祭達は当てられたのか、皆真っ赤な顔になっていた。
教会の中を進み大司教の元へと向かう。
その間もエスコートと言うには過剰に見えるほど、エヴァリーナとランヴァルドは近しい距離を取っていた。
以前のエヴァリーナで有れば、婚約者とは適切な距離を取り歩いていただろう。
けれど今はランヴァルドがエヴァリーナが側にいる事を望んでいる。
それに司祭達はともかく、クリスやラルフ、それにステファンしかいない今、取り繕う必要も無かった。
城ではいつもこの状態なのだから……
大司祭の部屋に行き、説明を聞く。
城での練習通りの進行の為、何も問題は無かった。
その間もランヴァルドはエヴァリーナを自分の側に置き、ずっと手を握っていた。
部屋にいる若い司祭達は目のやり場に困っている様だったが、大司祭は微笑ましげにその様子を見ていた。
「殿下、運命のお相手に恵まれた事、心よりお祝い申し上げます」
「ああ、大司祭、有難う。私は今とても幸せだ」
ランヴァルドがハッキリと礼を言った事から、大司祭の言葉がお世辞では無く、本心なのだろうとエヴァリーナも嬉しくなった。
打ち合わせが終わると護衛のラルフだけ二人に付き添い、ステファンとクリスは婚約式となる会場へと先に向かった。
エヴァリーナはまたランヴァルドにエスコートされながら通路を進む。
婚約に向けての気持ちは不安よりも嬉しさが勝っていた。
やっとランヴァルドの正式な婚約者になれる。
エヴァリーナだけでなく、ランヴァルドもまた同じ気持ちでいた。
二人は度々視線が合うと、微笑み合った。
後ろではラルフが呆れた様にため息をついてはいたが、お互いが夢中になって居る恋人同士の二人にはそんな事は気にもならなかった。
そして遂に婚約式が始まった。
ランヴァルドとエヴァリーナは一般的なエスコートで大司祭が待つ祭壇へと向かって行く。
親しい仲間達が二人を祝福する温かい視線で見つめる中、婚約式は始まった。
大司祭に問われるまま、お互いがお互いを婚約者として認めるかと聞かれ、そうだと答える。
そして書類にサインを落とせば婚約は無事に成立だ。
魔国の国の婚約だけに、サインした書類は宙へと浮き、二人の愛の炎に包まれたかのように、赤く燃え上がり消えて行った。
教会で無事に婚約が処理された事で周りから拍手が上がる。
愛し合う二人だけでなく、会場中の皆も幸せそうな表情を浮かべていた。
「エヴァ、エヴァリーナ、私は一生愛する君の側にいる……」
「はい。ランヴァルド様、私も同じ気持ちでございます」
「エヴァ、愛しているよ」
「マオ様、私も愛しております」
二人の声が聞こえたであろう大司祭は、今度は我慢出来なかったのか真っ赤な顔になっていた。
エヴァリーナは城の中でも無いのに、つい何時もの通りマオ様と呼んでしまったようだ。
ランヴァルドの秘密名を知っているであろう大司祭には少しばかり刺激が強すぎた様だ。
でもランヴァルドが喜ぶのならば、全国民の前でもマオ様と呼ぼうとエヴァリーナはそう思っていた。
愛しい人が望むのならば、それはエヴァリーナにはどんなことでも喜びでしかなかった。
エヴァリーナはやっと本当の婚約者に巡り合えたのだった。
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