第35話告白
ランヴァルドの『私はずっと君を愛している』の言葉を聞いて、エヴァリーナは益々混乱し、意味がわからなくなった。
エヴァリーナとランヴァルドの婚姻は政略結婚の為、お互いに国を返して釣り書きを送り合ったはしたが、二人が初めて顔を会せたのはランヴァルドがエヴァリーナを大国の端まで迎えに来たときだった。
あの時からという意味では、ずっとという言葉は当てはまらない。
けれどそれ以前にランヴァルドと顔を会せたことも、手紙を送ったこともエヴァリーナには無い。
どう考えても別の誰かと勘違いをしているか
それともランヴァルドの思い違いとしか思えなかった。
きつく抱きしめられているランヴァルドの腕の中で、エヴァリーナには不安が押し寄せていた。
「マオ様……それは……」
私ではないのでは?
そう言いかけてエヴァリーナは口ごもる。
本当に勘違いだとしたら……
ランヴァルドとも、魔国とも別れる事になるのか……
それだけはエヴァリーナはどうしても嫌だった。
「エヴァ、不安にさせて済まない……どうかこのまま話を聞いてくれ……」
ランヴァルドのいつになく必死な声を聞き、エヴァリーナは頷いた。
ランヴァルドがエヴァリーナの事をずっと愛していたというのならば、その話を聞いてみよう……
これまでのランヴァルドの姿を思いだせば、いつもエヴァリーナの事を第一に考え
大切に扱ってくれていた。
それを信じるべきではないか? とエヴァリーナは自分で自分に問いかけた。
誰かを信じることを怖がるのはもうやめましょう……
そう、元婚約者とランヴァルドは違う。
それは今日までの幸せな日々を思いだせばわかる事
エヴァリーナの心の声が聞こえたのだろう、ランヴァルドはエヴァリーナを自分の腕から離すと
見つめ合えるように向かい合わせた。
「エヴァは小さかったから覚えていないかもしれないが……私とエヴァは二度ほど大国で会っている……」
「えっ……」
ランヴァルドが話しだしたことは、やはりエヴァリーナの記憶にはない事だった。
それは今から十年以上も前の話で、ランヴァルドは魔国の王子として前王の大国への訪問について行ったそうだ。
その時のランヴァルドは、勿論変装をしていた。
そう子供の姿に……
「その時私に声を掛けてくれたのがまだ幼かったエヴァ、君だ。私は子供のフリはしていても中身は大人だ。大人たちの会話も心根もよく聞こえてきた。父上が私を大国に連れて行った理由も、大国の本心を探る為だった。けれどそこで君に出会って私は驚いたんだ……」
懐かしい思い出を語る様に微笑むランヴァルドの姿を見て、エヴァリーナも思わず微笑んだ。
ただしそんな記憶もやはりエヴァリーナには無かった。
これ程美しいランヴァルドの姿を、例え子供に変装していたからと言ってエヴァリーナが忘れるはずはない気がする。
けれどそんな不安もランヴァルドはすぐに説明してくれた。
「その時、君と私は仲良くなってしまったから……魔国の王子の姿の記憶を魔法で消されてしまったんだよ……ただ私はどうしても君に覚えていてもらいたくて、絵本を贈ったんだけどね……」
「あの絵本は……マオ様が……?」
今もエヴァリーナが大切にしている魔国の絵本は、ランヴァルドからの贈り物だった。
でもランヴァルドはその時幼いエヴァリーナに恋をした訳では無かったそうだ。
ただ大国の中で一番美しい心の声の持ち主だった。
その事を記憶していた。
それも魔国の者たちよりもずっと……
「その時はまだ幼いエヴァの心の美しさに興味を持っただけだった……けれどまた数年後に大国を訪れた時、君を愛おしいとそう思った……」
「その時も子供に変装をされていたのですか?」
「……ん……? いや、その時は老人の姿だった……君は私に優しく声を掛けてくれたよ……」
だがしかし、その時にはエヴァリーナは大国の王子と婚約をしていた。
幼い頃の綺麗な心だと思ったエヴァリーナに、その時に婚約を申し込んでいればと、ランヴァルドは何度も後悔をしたらしい。
綺麗な宝石を見に付けた美しい女性、そんな者は多くいるが、エヴァリーナのように美しい心を持った女性は中々会う事は出来ない。
ながい人生の中でランヴァルドはその事を良く分かっていたはずなのに、また会えるだろうと軽く考えて居た自分を何度も反省したそうだ。
それもエヴァリーナの婚約者である大国の王子の心の中を見てしまったので尚更だった。
あんな者にエヴァリーナを奪われてしまう事がどうしても許せなかった。
「でも君は……思わぬ形で魔国に来ることになった……大国から婚約の打診があった時、私がどれ程嬉しかった事か……手に入らないと諦めかけていた君を、私の元に向かい入れる事が出来る……君に会えると思うと居ても立っても居られなってしまったんだ……」
だからあの場までランヴァルドは迎えに来てくれて
そしてエヴァリーナの為に沢山のドレスも用意してくれた
ランヴァルドの愛がエヴァリーナに十分に伝わった瞬間だった。
「エヴァ、エヴァリーナ、もう一度言う。私は君をずっと愛している……どうか私の気持ちを受け入れて欲しい……」
エヴァリーナは小さな声で「はい……」と返事を返すと、今度は自分からランヴァルドの胸の中へ飛び込んでいた。
この優しくて愛おしい方が好きだと
ランヴァルドを目の前にしても、そう思う事が出来た。
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