第33話腑抜けのランヴァルド
「まったくあの腑抜けは、一番大事な事をぬかしよって!」
エヴァリーナの答えが気に入らなかったのか、ヒメナはぷりぷりと怒り出してしまった。
エヴァリーナがどうしたら良いものかと困っていると、ヒメナは「うむ!」 と急に何かを納得したかの様になった。
そしてエヴァリーナの手を取り、突然の申し出をして来た。
「エヴァリーナ、わらわは竜人族の姫じゃ。もしエヴァリーナがあの腑抜けに嫌気がさしたのならば我が家に来ても良いぞ。エヴァリーナの心は清い、ビルテゥスが背に乗せたのがその証拠じゃ。あんな腑抜けにエヴァリーナは勿体ない。わらわの妹にして可愛いがる方が良いに決まっておるからのー」
エヴァリーナはヒメナの言葉に益々混乱した。
アレだけ優しく、可愛いらしいランヴァルドが、どうして腑抜けなのかが分からなかったからだ。
良くラルフがムッツリだとランヴァルドの事を言っているが、ヒメナからはそれと同じ様な感覚を感じた。
本当に怒っている訳ではなく、ヒメナはまるで家族の様にランヴァルドの事を心配している様だった。
許嫁ならばそれも当然かも知れないが、本来ならばライバルにでもなりうるエヴァリーナの事をヒメナがまた同じ様に心配してくれている事が嬉しかった。
ヒメナ様もお優しい方……
魔法の国へ来てからエヴァリーナこそが心が清い人達ばかりと出会えている気がした。
だから尚更どんな事があってもランヴァルドの側から離れないと決めた事は守る気でいた。
「ヒメナ様、お誘い有難うございます。ですが今私はマオ様の……ランヴァルド様の側にいて凄く幸せなのです。ですから私は……? ヒメナ様? どうかなさいましたか?」
「エヴァリーナ、其方ランヴァルドの事をマオと呼んでいるのか?」
「えっ? ええ……それがどうか致しましたか?」
ヒメナは急に青ざめた顔になり、エヴァリーナの両肩をガシリと掴んだ。
身長はエヴァリーナよりもずっと低いヒメナだが、エヴァリーナの事を抱える事が出来るだけの力がある為、以外と掴まれた肩には力が入っていた。
そしてこんな誰も居ない様な場所であるのにも関わらず、ヒメナはキョロキョロと辺りを気にし出し、そしてこれまでにない程小さな声で話し出した。
「エヴァリーナはもうランヴァルドのものになってしまったのか?」
「えっ? どう言う事でしょうか?」
「だから正式な婚約を前に……その……夫婦になったのかと聞いておる」
「夫婦でございますか? いえ、まだ婚約もしておりませんので、私達は夫婦ではございませんが?」
「うー、あやつめ、腑抜けだけでは無く、助平だったのか! 許せん、女の敵じゃっ!」
ヒメナの怒り具合を見て、そう言えばラルフもエヴァリーナがランヴァルドの事をマオ呼びした際に、ムッツリだと言っていた様な気がした。
もしかしたらマオ様と呼ぶ事は不敬だったのでは無いかとエヴァリーナは気がついた。
ランヴァルドがエヴァリーナが馴染める様にと気を使ってくれた事を、周りに確認もせず勝手にマオ様と馴れ馴れしくしてしまったのではないかと心配になった。
本当の夫婦になるまではマオダークの名を呼んではならなかったのかも知れない。
ヒメナの呆れ具合が分かった気がした。
「あの……ヒメナ様……」
「エヴァリーナ、彼方を見るのじゃ、やっと追いかけて来たぞ。まったく魔国の王ともあろう物が行動が遅いものじゃのー」
ヒメナが指差す方へと視線を送れば、見慣れた馬車がこちらへと飛んで来ているのが分かった。
羽の生えた馬達はエヴァリーナやヒメナの姿を見て、まるで見つけたと合図するかの様にヒヒーンと鳴いていた。
ランヴァルドが迎えに来てくれたと思うと、エヴァリーナの胸はトクンと鳴った。
少し離れていただけでもランヴァルドに会う事がとても嬉しかった。
好き……
マオ様が好き……
エヴァリーナの中で今それが確かな物になっていた。
上空で馬車が停まると扉が開いた。
そしてタラップなどないのに、まるでそこに階段があるかの様にランヴァルドが一歩一歩降りてくる。
ランヴァルドの浮かべる表情には怒りの色が見えて、エヴァリーナは勝手に城を抜け出して怒らせてしまったのではないかと心配になった。
けれど地上に降り立ったランヴァルドは、エヴァリーナと視線が合うとホッとした表情を浮かべた。
そして長い足でエヴァリーナにサッと近づき抱きしめてきた。
「エヴァ、心配した。無事で良かった……」
「マオ様……」
ギュッと抱きしめられるランヴァルドの腕に力が入る。
それでどれだけ心配を掛けてしまったかがわかる。
謝らなくては……
そう思いランヴァルドの顔を見上げれば、エヴァリーナの心の声が聞こえたからか優しい表情を浮かべていた。
「ええい! 離れよ、ランヴァルド!」
ヒメナが突然エヴァリーナを引っ張りランヴァルドから引き離した。
そしてヒメナが今日一番の怖い顔でランヴァルドを睨みつけた。
その顔は竜人族の姫だと言うのが納得出来る物だった。
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