第24話ランヴァルドの悩み

 魔法の国の王であるランヴァルド・マオダーク・マジカルドは今幸せの中にいた。


 自分が望んだ女性が婚約者としてこの城に居る。


 それがどれ程幸せか……


 ずっと手に入れたいと思っていた女性が自分の懐へ飛び込んできた。


 そして心の中でいつもランヴァルドの事を尊敬し、敬ってくれている気持ちも伝わってくる。


(マオ様……可愛い方……)


 可愛いと言われるのは正直男として微妙な気持ちにはなる。


 けれどエヴァリーナの笑顔を見ていると、そう思われる事が嬉しい物になった。


 彼女に思われるのならば可愛いでもなんでもいい。


 自分の事を考えてくれている。


 それだけでランヴァルドは幸せだった。



 けれどエヴァリーナと距離が近くなればなるほどもっとそばに居たくなり


 もっと好きになり


 もっと自分だけを見て欲しいと望むようになった。


 


 ランヴァルドの能力を知ってもエヴァリーナは嫌ることも恐れる事もなく。


 態度を変えなかった。


 それどころか楽しそうに笑い。


 自分の気持ちが伝わることを喜んでいた。


 それがランヴァルドにとってどれ程喜びを与えたか……


 エヴァリーナのような女性はどこにもいない。


 ランヴァルドはもうエヴァリーナ無しでは生きていけないのではないかと思う程だった。




 だからこそ今ランヴァルドには大きな悩みがあった。


 エヴァリーナの傍に居ると時折聞こえてくる声がある。


(クリス……)


 それが大国の人間であることは確かだろう。


 エヴァリーナは楽しそうにして居るとき程クリスという人物の事を良く思いだしている。


 きっとエヴァリーナにとって大切な存在だったのだろう。


 そう思うと尚更黒い感情に押しつぶされそうになった。


 クリスという男は誰だ?


 エヴァリーナにとってどんな存在だ?


 婚約者である私よりも大切なのか?


 エヴァリーナがクリスという者を思いだすたびそう声を出したくなった。


 けれどそれはしてはいけない事ぐらいランヴァルドには分かっていた。


 ランヴァルドに言えない存在だからこそ、エヴァリーナが秘密にしているのだと気が付いていたからだ……





「ったくよー、そんなに気になるならエヴァちゃんにクリスって誰だって聞けば良いだろうー」

「聞けたらとっくに聞いている。もしそこで好きな相手だと言われたらどうする、私はもうエヴァを手放せはしない」

「ランヴァルド様、エヴァリーナ様はランヴァルド様の婚約者です。どんな事があろうとも大国に戻ることはございません。ご安心を」

「ステファン……そう言う事ではないんだ……」

「ステファン……お前……ランヴァルドの言ってること理解できてねーだろ……」


 今、王であるランヴァルドの執務室でステファンは仕事を進めながら二人の言葉にショックを受けており、ランヴァルドは書類にサインをしながらため息をつき、ラルフは二人の様子を見て大きなため息をついていた。


 そうクリス問題。


 エヴァリーナの心を占めているクリスという男性が誰なのか。


 それがここの所のこの国での最重要案件となっていた。


 エヴァリーナに聞けばいいのに聞けないとモジモジするランヴァルド。


 ステファンは何故聞けないのか理解できず。


 そんな二人の様子にラルフはウンザリしていた。


「あー……あれじゃないのか? クリスってエヴァちゃんの兄貴だろ?」

「兄上殿はエーヴェルト殿だ。違う……」

「じゃあ、あれだアレ、元婚約者の馬鹿王子」

「馬鹿はベルザリオ・パフォーマセスだ。こいつは絶対に違う。今後一切エヴァリーナに近付くことは許さん」


 エヴァリーナの元婚約者である大国の王子の行いは勿論魔国にも届いていた。


 エヴァリーナに行った酷い仕打ちを思えば、ランヴァルドはその王子をどこかへ埋めてしまいたくなったが、大国の王子に対し流石にそれは出来ないため手は出さずにいる。


 それにエヴァリーナがそのものを思いだしもしない事を知っているので、ランヴァルドが何かする訳にも行かない。


 エヴァリーナにこれ以上害を起こさないならばハッキリ言ってどうでもいい存在だった。


「分かりました。では私が聞いて参りましょう」

「え……?」

「はっ?」

「王の憂いを晴らすのが家臣としての務めでございます。エヴァリーナ様に今すぐクリスとは誰か私が聞いて参ります」

「えっ、ちょっと、ステファン、まって、心の準備が……」

「そうだ。ステファン、お前、ランヴァルドに自分で聞かせろ、これは仲良くなるチャンスかもしれないんだぞ」


 部屋の入口近くで幼馴染三人が押し問答していると、ガチャリと扉が開く音と共にエヴァリーナが入って来た。


 ステファンを中心にランヴァルドとラルフと三人で抱き合って居るように見えるので、エヴァリーナはきょとんとした表情を見せている。


 気が付けばもう昼時、エヴァリーナが来る時間だった。


 三人は咳ばらいをすると、エヴァリーナを招き入れた。


 

「フフフ……仲が宜しいのでらっしゃいますね」

「……ん……まあ……幼馴染なのでな……」

「そうなのですね。私にもクリスティーナという幼馴染がおります。ですから良く分かりますわ」


 フフフ……と笑いながら可愛く微笑むエヴァリーナを三人が驚いた表情で見つめた。


「エヴァの幼馴染は女性なのか……?」

「ええ、そうですわ、普段はクリスと呼んでおりますが、女性でとても美人ですのよ」

「そうか……そうなのか……」


 ランヴァルドはホッとするとともにガックリと肩を落とし椅子へと座りなおした。


 ステファンとラルフが大きなため息をついたのは仕方がない事だった。

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