第20話王の自室にて
「ランヴァルド、お前もっとエヴァちゃんにちゃんと話しかけろよなー」
魔法の国の王であるランヴァルドの自室にて、この部屋の主人であるランヴァルドよりも寛いだ様子でラルフが声を上げた。
昨日エヴァリーナが魔国に着いてからというもの、ランヴァルドの行動は見てはいられなかった。
夜にはラルフとステファンが散々注意したにも関わらず、今朝の食事の時間にはまたエヴァリーナに素っ気ないと見れる態度を取っていた。
以前からランヴァルドが女性が苦手だったことは知っているが、エヴァリーナは婚約者だ。これから仲良くしなければならない。
今の様な態度ではエヴァリーナに呆れられる可能性もある。
それはランヴァルドも本意では無いだろ。
何とか仲をとり持とうとしているのに、ランヴァルドの態度は変わらない。
ラルフとステファンがやきもきしている状態だ。
ずっと会いたかった女性にやっと会えたというのに……
「そう言えばランヴァルド、お前、馬車の中ではエヴァちゃんとどんな話したんだよ」
クッキーを一枚ポイっと口に入れながらラルフが気軽に聞いた。
ランヴァルドは仕事の手を止め考える。
馬車の中での会話……
一体何を話しただろうか……
動かなくなってしまった主人を見かねたステファンが、こちらも仕事の手を止め話に割り込んできた。
歳が近く幼馴染の三人には遠慮が無いためラルフはついランヴァルドを揶揄う傾向がある。ステファンがそのストッパー役だった。
ラルフにも気軽さを持つのは良いが主としてランヴァルドを敬えと注意をしているが中々治らない。
かく言うステファンも年下のランヴァルドをつい甘やかし気味だとラルフに注意されるのでお互い様な所がある。
ラルフもステファンもランヴァルドの事が弟のようで可愛くて仕方がないのだ。
だからこそ折角望んだ婚姻が上手く行くようにと二人共口うるさく言うのだった。
「ラルフ、ランヴァルド様はエヴァリーナ様と馬車の中で仲睦まじくしていた。お前もエヴァリーナ様が隣にお座りだった姿を見ただろう?」
「それは見たけどよー、ランヴァルドがただ魔法を使い忘れただけだと俺は思ったんだけどなー」
「まさか、馬車の中で平行魔法を使う事は子供でも知っている、ランヴァルド様がそれを忘れる訳が……」
ラルフとステファンがランヴァルドへ視線を向ければ、ランヴァルドは赤い顔をして俯いていた。
二人はそれで何が有ったのかを一瞬で悟った。
エヴァリーナがランヴァルドの隣に座っていたのは魔法を使い忘れたからだろうし、馬車が傾いた瞬間エヴァリーナがどうなったかは直ぐに分かった。
そしてランヴァルド本人は馬車での一連のエヴァリーナとの事を思いだし、顔が火照ってしまっていた。
エヴァリーナの腰の細さ、折れそうなほどに華奢な腕、甘い香りに、艶やかな髪。
どれもランヴァルドを魅了してやまない。
ずっと欲していた女性が今目の前に、そしてこれからはずっとそばに居る。
そう思うだけで、馬車の中、ランヴァルドは声も出せない程胸が高まっていた。
エヴァリーナともっと沢山話をしたい。
それはランヴァルドの願いでもあった。
「……ランヴァルド……お前意外とムッツリなんだな……」
「!!」
「ラ、ラルフ、何を言って居る、ランヴァルド様はただ魔法を使い忘れただけじゃないか」
「だからそれがムッツリだって言ってんだよ、魔法を使わず馬車に乗ったらどうなるかぐらい子供だって知っているって言ったのはステファン、お前だろうー。まったく、まだ正式な婚約者になって居ない男に抱きしめられちまって、可愛そうにエヴァちゃん泣いてたんじゃないのかー?」
言い方は悪いがラルフの顔を見ればランヴァルドを揶揄って居る事はステファンにはすぐに分かった。
だから尚更達が悪い。
そんな事で揶揄えば益々ランヴァルドはエヴァリーナの事を意識してしまうだろう。
そうすれば今以上に会話が弾まない関係が続いてしまう。
ランヴァルドの事を思えば見守ることが大事だと思う。
ラルフがランヴァルドの事が可愛くて、手を出したくなる気持ちはステファンにも分かるのだが……
「エヴァは素直ないい子だ……馬車の中でも感謝の気持ちだけ私に伝えていた……」
まだ顔は赤いが気を取り直したランヴァルドがぽつりと呟いた。
見るからに恋をしている様子のランヴァルドに自然とラルフとステファンの口元が緩む。
自分たちの主はなんと可愛い男だろうかと二人とも思っていた。
三人とも優に百歳は超えているのだが……心は少年のようだった。
「ランヴァルド、エヴァちゃんは心の中でもそう思っていたのか?」
「……そうだ。エヴァは心根が清らかで優しい女性だ……私が傍に居ても何も変わらない……」
「ハハハッ、なら尚更だな、後でエヴァちゃんとまた会うんだろ、その時にちゃーんと自分の事を話せよ」
「……分かっている……」
こうして三人の話合いは終わった。
ラルフとステファンから言われている事はランヴァルドの能力についてだ。
何もすべてエヴァリーナに話すつもりは無いが、傍に居る者にはきちんと伝えなければならない事がある。
そうでなければ相手にも悪いがランヴァルドも落ち着かない。
ランヴァルドの能力を知った時エヴァリーナがどう思うのかも心配だった。
平気なふりをされても心の中で思った事がランヴァルドには分かってしまう。
ランヴァルドはエヴァリーナだけには拒絶されたくは無かった。
絶対に……
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