第18話一緒に朝食を

 エヴァリーナが食堂へと着くとランヴァルドは既に席に着いていた。


 遅れてしまって申し訳ない気持ちになったが、補佐のステファンが目配せでこちらも今来たばかりだと教えてくれた。


 ホッとしながら案内された席へとエヴァリーナは着いた。


 気が付けばランヴァルドはエヴァリーナが食堂へ来てからずっとエヴァリーナの事を見つめていた。


(きっとドレスを見てらっしゃるのね……)


 ランヴァルドが魔法で作ってくれたドレスはエヴァリーナにとても良く似合っていた。


 魔国への婚約の申し込みの際にはエヴァリーナの釣り書きと一緒に肖像画も送ってあるが、それを見ただけでランヴァルドはエヴァリーナに似合いそうなドレスを準備出来たのだろう。


 きっと魔国の王だけあって、美的センスや芸術のセンス迄持ち合わせているのだろうとエヴァリーナは改めてランヴァルドの事を尊敬した。





 席に座りランヴァルドの方へと視線を送る。


 ぱちりと目が合うと想像通りランヴァルドは視線をそらした。


 それだけの事で既に頬が少し赤い。


 やはり恥ずかしがり屋のようだ。


 エヴァリーナは格下の自分から話しかけても良い物か悩んだが、きちんとお礼が言いたかったためランヴァルドに声掛けをする事にした。


 今迄王妃教育のたまもので緊張という事をそれほど感じたことがないエヴァリーナだったが、ランヴァルドに声を掛けようと思うと、何故か心臓がドクドクと激しく鳴った。


「……陛下……おはようございます」

「……ん……」

「素晴らしいドレスをご用意してくださり、有難うございました、大変うれしゅうございました」

「……ん……」


 ランヴァルドはそれだけ返事をすると朝食に手を付けた。

 見た目は頬が赤いままでも平然としているが、少しだけ手が震えているような気がした。


 ランヴァルドも緊張しているのかもしれない。


 フフッと嬉しくて思わず笑みがこぼれると、ランヴァルドはエヴァリーナの方を向いて、何か言いたそうにしていた。


「陛下? どうかなされましたか?」


 ランヴァルドの答えを待ちジッと見つめた。


 ランヴァルドは口を開けたり閉めたりと、声が出ない人形の様になってしまった。


 すると後ろに控えていたラルフが呆れた様な様子でランヴァルドの肩にポンッと手を置き何かを耳元で囁いた。


 その瞬間ランヴァルドの頬は益々真っ赤になった。


 きっとラルフにからかわれたのだろうとエヴァリーナは思った。


 ランヴァルドとラルフそれにステファンはエヴァリーナとクリスの様に仲が良い。


 きっと従者であっても友人でもあるのだろう。


 クリスに会えなくなってしまった今、それが少しだけ羨ましくなった。


「……良く似合っている……」

「えっ?」

「君に……その……エ、エヴァリーナに……そのドレスは良く似合っている……」

「まあ、陛下、有難うございます」

「……マオだ……」

「えっ?」

「マオでいい」

「はい、そうでございました。マオ様有難うございました」

「……ん……」


 ランヴァルドはそれからは口を開かなかったが、エヴァリーナはそれを不快に感じることは無かった。


 それよりもランヴァルドが恥ずかしがり屋さんなのに、エヴァリーナの事を一生懸命褒めてくれたと思うと、ランヴァルドの事が可愛くて愛おしく感じた。


 随分年上のランヴァルドだけれども、弟が居ればこんな感じなのかしら? とエヴァリーナはランヴァルドの様子を見ながらそう思った。


 ただその瞬間ランヴァルドはハッとしてエヴァリーナの顔を見た後、少しだけ落ち込んでいるようにも見えた。


 もしかしたら思わず声に出してしまったかもしれないとエヴァリーナは心の中で焦ったが、別にそれは悪い気持ちでは無く、ランヴァルドと家族になれそうだと思えたのだと嬉しくなった。


(マオ様は見た目は立派な紳士でいらっしゃるけれど、お優しくて、可愛くて、魅力的な方なのね……もっと仲良くなって沢山のお話がしてみたいわ)


 食後のお茶を嗜みながらランヴァルドを見つめそう思った。


 ランヴァルドの事がもっと知りたい。


 この国の事も知りたいけれど、今一番エヴァリーナが興味があるのはランヴァルドだった。


 ランヴァルドはグイっと一気にお茶を飲み干すと、エヴァリーナの方へと向きあった。


「エヴァ……リーナ、その……昼はまた一緒に摂ろう……」

「マオ様、宜しいのですか?」


 王が忙しい事は王妃教育を受けていたエヴァリーナは良く分かっている。


 朝食も共にし、昼食もとなると、ランヴァルドはその為に自分の仕事を急いで片付けなければならないだろう。


 もしや負担になっているのではないか? とエヴァリーナが心配になって居るとランヴァルドがまた口を開いた。


「私も……エヴァリーナと仲良くなりたい……昼を楽しみにしている……」


 ランヴァルドはそれだけ言い残すと、席から立ち上がり食堂を後にした。


 最後に見たランヴァルドの横顔はとても赤く、可愛らしい物だった。


 エヴァリーナは暫く口元が緩むのを抑えられなかった。


 可愛い人……それが魔国の王ランヴァルドだった。

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