第17話新しいドレス
「マーガレットさん、デイジーさん、今お茶を入れますから一緒に飲んで下さる?」
まだエヴァリーナに対して不安がぬぐいきれない二人にそう声を掛けた。
自分たちの主人にお茶を入れさせるなどと、マーガレットとデイジーは恐れ多いと恐縮していたが、大国から持って来たお茶なのでエヴァリーナが入れ方を教えるという形で納得してくれた。
エヴァリーナはウイステリア侯爵家でお気に入りだった、フルーツの香りのするお茶を二人に振る舞った。
甘い香りがふんわりと部屋に広がり、緊張気味だったマーガレットとデイジーの表情が少し緩んだのが分かった。
二人のその様子にエヴァリーナもホッとし、二人と仲良くなる為にも先ずは自分の事から話して見ることにした。
「私に大国で付いてくれていた従者は血兄弟で平民出身の女性なのよ」
「そうなのですか?」
「ええ、ですからこちらで私に付いて下さるメイドの方も、出来れば高位の貴族令嬢ではなく、位は関係なく心お優しい方をとお願いして居たの、だからマーガレットさんとデイジーさんが選ばれたのだと思うわ」
二人はエヴァリーナの言葉を聞くとお互い目を見合わせ驚いた表情を浮かべていた。
でも異国の姫がそれだけ恐ろしいとの噂がこの国で立っているのならば、どの道貴族の令嬢がエヴァリーナ付きになることは無かっただろう。
「あの……エヴァリーナ様……申し訳ございませんでした……」
「私達……噂を信じてしまって……」
「いいえ、古くから伝わる話なのならば仕方が無いと思うわ。でも私、その本がとても気になるの」
「冷酷の姫の本がですか?」
「冷酷の姫というタイトルなのね。一度読んでみたいけれど手に入る物なのかしら?」
「それでしたら図書室へ行けば必ずあると思います」
「まあ、そうなの?」
「はい、有名な本ですから」
マーガレットとデイジーとはその後も図書室の話や、そこにある本の話、それから同じ様な昔話などを二人から聞いて楽しんだ。
朝早く目覚めた事で自分に付いてくれることになったマーガレットとデイジーと仲良くなれたことはとても嬉しかった。
クリスと離れてしまって寂しかった心が少しだけ慰められた気がした。
「エヴァリーナ様、大変です。準備をしなければ朝食に遅れてしまいます」
マーガレットが時計を見て驚きの声を上げた。
気が付けば30分以上も話し込んでしまっていた。
ある意味彼女たちの仕事の邪魔をしてしまったともいえる。
けれど身支度はエヴァリーナも自ら行えるため、それ程焦りはなかった。
でもデイジーの次の言葉で流石のエヴァリーナにも焦りが出た。
「陛下が朝食をご一緒にと言っておいでなのです」
女性は身支度に時間がかかるとしても、流石にこの国の王をお待たせするわけには行かない。
それに冷酷の姫という本を他の使用人たちも知っているのならば、エヴァリーナのちょっとした行動にも不安を持つことは当然だった。
エヴァリーナは慌てて立ち上がると、直ぐに準備に移ることにした。
先ずはクローゼットへ行き、ドレスを選ぶことにした。
ランヴァルドの姿を思いだし、出来れば赤と黒の色合いが入ったドレスが良いと思った。
マーガレットとデイジーにそう声を掛ければ、二人はフフッと小さく笑った。
「陛下もエヴァリーナ様も政略結婚では無くて、本当に恋愛をされているみたいですね」
「私も思いました。エヴァリーナ様は陛下の事を一番にお考えになられますし、この部屋にあるドレスは全て陛下がご準備された物なのですよ」
「えっ……陛下が? 全て?」
「そうです。陛下が魔法で生地からすべてご準備されました。あ、エヴァリーナ様、今日はこちらのドレスではいかがですか?」
デイジーが選んでくれたドレスは赤地がメインで、そこに黒と金が入ったエヴァリーナとランヴァルドの色が両方とも入った物だった。
エヴァリーナもそれでと指示を出し、二人と共に自分を磨き上げる。
けれどエヴァリーナの心は手を動かしながらもランヴァルドがドレスを準備したという事で占められていた。
(マオ様がこのすべてのドレスを私の為に魔法で準備してくださっただなんて……)
この感動をどう表して良いのかエヴァリーナには分からなかった。
侯爵令嬢としてこれ迄数多くのドレスをエヴァリーナは手にし、着飾って来た。
けれど今日ほど新しいドレスに袖を通すことに緊張する日は無かった。
「エヴァリーナ様とてもお似合いですわ」
マーガレットとデイジーの言葉にエヴァリーナは頬を染めた。
ドレスは少し大きめだったがエヴァリーナが身に着つけた途端、シュルルッと音を出しエヴァリーナの体にピッタリなサイズとなった。
魔法を体感してエヴァリーナは目を見張ったが、それよりもその後のマーガレットとデイジーの言葉にもっと驚いた。
「このような大掛かりな魔法が使えるのは陛下だけなのです」
「エヴァリーナ様だけの為に沢山の魔法を準備されていたのですね」
きっとぐっすりと眠れたこともやはりランヴァルドの魔法だったのだろう。
それにこの部屋にはまだ他にも隠された魔法があるのかもしれない。
そう思うとエヴァリーナはランヴァルドとと出会えたことがどれ程幸運だったかを感じた。
自分がランヴァルドに返せるものは何か……
エヴァリーナは食堂へ向かいながらそれをジックリと考えたのだった。
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