第16話最初の朝
長旅で疲れていたからか、憧れていた魔国に着いた初日の夜だというのにエヴァリーナはぐっすりと眠ってしまった。
出来れば本棚にある本をゆっくりと読んで……と思って居たのだが、ベットに横になった瞬間眠りに落ちていたようだった。
仕方なく昨夜読もうと思っていた本を本棚に戻しながらふと考えた。
(もしかしたらこのベットにも魔法がかかっているのかしら?)
そう思えば魔国への到着をあれ程興奮していたにも関わらず、朝まで目が覚めることなく寝ていたことにも納得で、エヴァリーナはこの不思議な現象にまたワクワクとした気持ちになった。
(この国を知るのが楽しみだわ……そうね、ベットの事は後でマーガレットとデイジーに聞いてみましょう)
大国で侯爵令嬢だったエヴァリーナは本来ならばメイドが部屋へ来るまでは起きてはならない。
けれど侯爵家に居るときからエヴァリーナはクリスが来る前に身支度をある程度済ませていた。
自分でなんでも出来るようにして居たかったのは、いずれは元婚約者との婚約が解消される可能性を考えての事だった。
下手をしたら庶民に嫁がされる可能性も、国外に追放される可能性もあるかもしれない……
エヴァリーナは最悪の事態を考え準備には余念がなかった。
クリスの仕事を奪う形になってしまうので、最初は余り良い顔をされなかったが、余った時間で勉学に力を入れたいとクリスに願い出れば、仕方なくだが許可された。
その代わりという訳では無いが夜会などへ出席の際はクリスに力一杯磨かれることとなった。
あまり着飾ることに興味がないエヴァリーナも、王子の婚約者としては流石に口出しは出来なかった。
それに元婚約者から贈られて来た余り好みではないドレスを着るとなると、派手目の物ばかりなので化粧などはどの道濃い目にしなければならない。
自分では濃い目の化粧など無理な為、クリスにお願いするのが一番だった。
質素で落ち着いたものが好きなエヴァリーナとはそこでさえも元婚約者とは合わなかった様だ。
もう今となっては関係ない事だけれど……
エヴァリーナは普段道り自分で身支度を整えようと思い至った。
クローゼットの方へと向かい、扉を開ける。
するとそこにはエヴァリーナが大国から持って来た以上のドレスが沢山並べられていた。
その色鮮やかなドレスは大国の物とは素材も形も違う、それだけでこれが魔国側で用意されたものだとエヴァリーナは気が付いた。
もしこれがエヴァリーナの為だけに作られたものだとしたら、凄い人力と財力が必要になる。
それにドレスには流行りがある、一年の間にこれだけ沢山のドレスを着ることは出来ないだろう。
それでもこれ程の準備をしていてくれたのかと思うと、魔国から歓迎されている様な気がして嬉しかった。
「エヴァリーナ様、もう起きていらっしゃったのですね、申し訳ございません」
クローゼットの中のドレスに見入っていると、マーガレットとデイジーが慌てた様子でやって来た。
何故か顔色も悪く少し怯えているようにも見える。
昨日の挨拶の時から思っていたが、マーガレットとデイジーはエヴァリーナがメイドである自分達が来るよりも早く起きていたことに申し訳なく思って居るというよりは、エヴァリーナの事を怖がっているような気がした。
お世話をして貰うのならばクリスとの様に仲良くなりたい。
そう思い二人と少し話をして見ることにした。
「マーガレットさん、デイジーさん、少しだけお時間を頂いてもいいかしら?」
「はい、覚悟しております……」
「鞭打ちでも、食事抜きでも構いません……」
「えっ?」
「ですがどうか家族にだけは……」
「ウチもまだ弟は小さいので……」
「マーガレットさん、デイジーさん、ちょっと待って頂戴……」
エヴァリーナは二人の言葉に絶句した。
鞭打ちや食事抜きなど、使用人に対してまるでエヴァリーナがそのような事を行うと思っているかのようにマーガレットとデイジーは言って居る。
もしかしてそれが魔国の常識なのかと不安になり、怯える二人をソファーへと座らせ話を聞くことにした。
その間もマーガレットとデイジーは青い顔のままだ。
二人の様子にもしかしてエヴァリーナの悪い噂でも魔国に入っているのかと心配になった。
確かにこれ迄エヴァリーナは元婚約者の好みの装いをしていたので見た目からして可愛げのない女性に見えていた事だろう。
でもそれだけでエヴァリーナにこれ程怯えるのはいくらなんでもおかしいと思う。
エヴァリーナはできるだけゆっくりと声を掛け、二人を安心させながら話を聞くことにした。
すると思わぬ事実を知ることになった。
なんでも大昔に魔国に嫁いできた異国の姫の話が本で残っている様で、その姫は鞭を振るい、気に入らない使用人たちを感情に任せ処分していたようだ。
その話が今もなおこの魔国では世間一般に流れているため、マーガレットとデイジーはエヴァリーナに対して恐怖を感じていたようだった。
「それに私達は貴族では無いのです……王妃になられるエヴァリーナ様の侍女になるには分不相応です。ですから尚更何か有るとしか思えなくって……」
そう言われれば納得ではあった。
普通は子爵家や男爵家の令嬢辺りが侍女として付くものだろう。
王妃と決まれば伯爵家の令嬢が付いても可笑しくはない。
エヴァリーナはクリスの事もあり、出来れば爵位でなく実力で侍女を選んで欲しいと魔国側にお願いしてあった。
どうやらその我儘がさらに二人の不安を仰いでしまった様だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます