魔法の国
第11話旅の途中
エヴァリーナを乗せた馬車は大国の王都を出て、二つの領を走り抜けた。
まだあと大国にある二つの領を越えなければ魔国への入口には着かない、けれどここからが長い旅になる。
田舎の道路は整備がされていないため馬車がスピードを出すことが出来ない。
その上、エヴァリーナは多くの荷物を運んでいるため馬車数台で進んでいる。
田舎の領民たちには珍しいその様子に、道路際に来ては物珍しそうにエヴァリーナ達の馬車を見ていた。
エヴァリーナの馬車にはウイステリア侯爵家の紋章が入っているため、集まった領民たちをそのままにとは行かない。
度々立ち止まっては話を聞き声を掛けた。
エヴァリーナは王妃教育を受けていたため、領民たちに接することは当然の事だと思っては居たが、貴族の令嬢から気軽に声を掛けられた領民達は驚き感動して居た。
そしてその話は領主の元まで届き、旅の途中途中でエヴァリーナは晩餐に招待もされていた。
ウイステリア侯爵家と少しでもお近づきになれたら。
そんな領主たちの心の声が聞こえてきそうだったが、エヴァリーナはそこは上手く交わしていた。
どの道、魔国へと嫁ぐ身なので父親であるウイステリア侯爵に取り次ぎようもない。
それでも歓迎の声は収まることは無かった。
「エヴァリーナ様がお優し過ぎるから調子に乗るのです。魔国への通過点の領主たちや貴族たちなど放っておけば宜しいのです」
旅の途中は宿を予定していたのだが、領主たちはそれを良しとはせず、領内の貴族の屋敷にエヴァリーナを宿泊する手配をしてしまった。
大人数の移動なので断りを一度は居れたのだが、そこは遠慮がない田舎貴族、押し切られた形となってしまった。
その為傍付きのクリスの機嫌は悪い。
侯爵令嬢に対して礼儀のなって居ない貴族が多かったからだ。
昨夜泊った貴族屋敷では、これから魔国へと婚姻で向かう話をして居るのに息子を勧められてしまった。
一晩のお慰めに……と屋敷の主が言った際のクリスの迫力はすさまじい物だった。
きっとこの話は王都のウイステリア侯爵の所まで届くだろう。
この貴族がどう処分されるかはエヴァリーナには分からないが、魔国との国際問題にもなりかねない様な事を言いだしたのだ。厳しい処罰が下りる事だろう。
それもあってエヴァリーナはまだ半分の日にちしか経っていないにも関わらず、酷く疲労していたし、クリスに至っては神経をとがらせピリピリとしていた。
クリスはエヴァリーナの護衛も兼ねているので魔国に着くまでは守りきるという強い決意があり、昨日のような発言があると、その場で切り捨ててしまいそうなほどだった。
ただ、主人であるエヴァリーナが魔国に近付くほど嬉しそうな笑顔を見せるので、クリスにはそれだけが救いでもあった。
エヴァリーナの幸せそうな笑顔はクリスをホッとさせる。
きっと領民たちもこのエヴァリーナの美しい笑顔を見れたことを喜んでいる事だろう。
もう間もなく、ずっとそばに居たクリスでさえ見ることが出来なくなるかもしれないのだから。
「ねえ、クリス、あの鳥……ずっと私達の馬車の周りを飛んでいないかしら?」
そうエヴァリーナに声を掛けられたクリスは馬車の窓から空を見上げた。
そこには真っ黒で大きな鳥が優雅に弧を描くかのようにエヴァリーナ達の上を飛んでいるように見えた。
ただ王都では見たことの無い鳥でクリスには種類までは分からなかった。
ただその鳥が獲物を探しているでも無く、まるでエヴァリーナが乗る馬車を見守る様にして居る事だけが気になった。
「確かに我々の周りを飛んでいるようですね……人が大勢いる事で警戒しているのでしょうか?」
「そうね……そうかも知れないわね……ここでは馬車の行列だなんて珍しいでしょうから、あの鳥も普段との違いに警戒しているのかもしれないわね」
そんな会話をして居るうちにエヴァリーナ達は今日の宿泊場所に着いた。
今日はこの領の伯爵が屋敷に招いてくれた。
この辺りは宿が少なく、有ったとしても庶民が泊まるような宿しか無いからと屋敷を進められたが、実を言うとエヴァリーナは庶民が泊まるような宿に泊まってみたいという気持ちの方が強かった。
警備上それは無理があるとは分かっては居るが、それでも残り少ない娘時代に今までできなかったことを体験してみたい気持ちが有った。
だからこそ王妃になりたくはないという気持ちが強かったのかもしれない。
伯爵家の屋敷に着き、離れへと通された。
離れをエヴァリーナ達一行が自由に使って良いとの事だった。
田舎町なので伯爵家と言っても王都の伯爵家とは違い、案内された部屋は素朴で穏やかな色合いの家具が揃っていた。
それでもエヴァリーナの為にと精一杯のもてなしをしてくれたのだろう、綺麗な花が活けて有った。
クリスは離れの間取りを確認しに行き、エヴァリーナは与えられた部屋で夕食までの時間休むことにした。
ふと窓に視線を送ると、そこから見える景色の美しさに目を見張った。
そして庭にある大木に自然と視線が向くと、そこには先程の鳥が止まっていた。
真っ黒な体に赤い瞳、まるで観察するかのようにエヴァリーナの事を見ている。
エヴァリーナはどうしてもその鳥が気になり、窓を開けると声を掛けてみた。
「鳥さんこんにちは。もしかして私を守って下さっているの?」
返事など期待をしていなかったエヴァリーナだったが、鳥は大きな翼を広げた後、一言だけ呟いた。
「そうだ」と――
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